初雪
窓を開けると、羽毛のようにふわふわと部屋の中に舞い込 んでくる。 もうすぐ降りやむだろうか? いや、きっとまだまだ降るだろう。
2年ぶりの雪だ。
でもこんなに降り積もったのは何年ぶりだろう。 確かあのときは、友達や兄と雪だるまを作っていたっけ。
いてもたってもいられなかった。 コートを着て、カメラを持って、長靴を履いて、独り外に飛び出した。
大粒だけど軽く、冷たいけれど柔らかい雪が自分の頬を掠めていく。 積もった雪を踏みしめる度に冬の音がして、鼓動が速くなる。 悴んだ指でカメラのシャッタ一をきる。あの時と同じ。 あの時と何も変わらない、雪の日の寂しい臭い。
次に海岸へ行ってみた。 鴎が一羽、雪を凌げる場所を求めて、急いだ様子で飛んで 行った。
やっぱりここには誰もいない。
大きな波をうねらせる灰色の海と、一面真っ白な浜辺と、黄色く濁った曇天がどこまでも続いていた。
誰の姿もなく、誰の足跡もない。 そこにいるのは自分一人だけ。
誰よりも早く、雪の積もった浜辺に足を踏み入れた。 海の向こうから強い風が吹いてきて傘が飛ばされそうになっても、指の感覚がほとんどなくなっても構わなかった。どうしても家に帰る気にはなれないのだ。
私一人だけが、この日をずっと待っていたのだから。