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15話

 15

 


 翌日から土日の休みなのを希望に、なんとか一日を過ごした。


 そんな苦悩を背負いながら登校した日。あたらしい噂話が広まっていた。


 甲田に新しい彼女が出来たらしい。


それはないだろと、隆は思うのだが、生徒一般の反応としては、元彼女と間男に振り回されて、甲田クン可哀想ぐらいなものであった。


 けれども隆はもう正直、どうでもいいという感想しか抱けないようになってしまった。


もう隆は償うだけだ。その結果、周りにどう影響を与えようとも関係ない。


隆自身、最初の柏木に幸せになって欲しいという気持ちが薄れ始めていた。そんな自分自身に気が付いていた。


俺はこんな自分勝手な、辛い状況に流されて考えを変えてしまう俗な人間だったんだなと、冷静に自分を評価し、そんな評価に甘んじている自分にも、もうどうでもよくなっていた。


 日曜日のサザエさんを死ぬほど憂鬱になりながら見た。サラリーマンの気持ちが少し分かった気がする。



 そして月曜日。隆は力なく学校に来て、授業中はただ陰口に耐え、休み時間は寝た振りをして過ごし、弁当は人気のない所で食べ、放課後は誰よりも早く家に帰る。学校にいるだけで誰かが隆を傷つけようとする。極力、誰とも係わらないようにした。


 そんな学校での一日を終えた。クラス中の奴ら全てが敵だった。

 

そして火曜日。陰湿なイジメによって、もはや隆は学校に来ることも嫌になっていた。

 

(はぁ)



 なんとか、この日も乗り越えた。



 深く考えないようにするがどうしても、出会った当初、死にたいとまで考えていた時を思い出す。

 守ろうとした人に裏切ったと誤解され、なおかつ恨まれている。



 もう係わりたくない。逃げてしまおう。授業も終わり、学校にいる必要もない。

机から教科書を出し、鞄に入れようとすると、ありえないものが目に入った。

表紙一面に落書きされた教科書だった。



『ちょっと優しくしてやっただけで、調子乗って色目使ってんじゃねーよ。まじきもい』



犯人は当然、柏木達であろう。怒りがこみ上げてくる隆。何故俺がこんな仕打ちをうける。好き好んで、柏木の恋路を邪魔したわけではない。


誰かの視線を感じた。


こちらを見てニヤニヤと柏木とその取り巻きが笑っていた。

それを見て、抑えきれないような怒りがこみ上げた。頭が一瞬で真っ白になるという体験を始めてした。



(友達と思ってたのは俺だけだったのか? あんな楽しそうだった。俺も楽しかったのに!)



 隆はまるでそれまで大切にしていた思い出が、柏木にとってはまったく無価値で、大切に思っていた自分が一人だけ、と、柏木に嘲笑われているように思えてしまった。


 後に隆はなんでこんな行動が取れたか、自分でも不思議に思ったのだが。


隆は衝動的に、気が付いたら、椅子を蹴飛ばさんばかりに立ち上がり、柏木に詰め寄っていった。


取り巻きの女共は向かってくる隆の剣幕に押されたのか、顔を引きつらせ、避けるように柏木の近くから身を引いた。すると柏木に続く、キレイに割れた人の裂け目に隆は体を割り込まさせた。




 隆は怒りにまかせて、左手で柏木の胸倉を掴み上げた。




 柏木の小さい体が床から引き上げられる。



 キャア、と周りの取り巻きどもが、イジメをしていたとは思えない、初めて女らしい声を上げた。


 隆は勢いのままに、ぶん殴ろうと右手を握り締めた。




 そこで初めて、掴み上げたことにより、柏木の顔をまじかに見る。





 静かな表情だった。



(……え)




 驚くほど無表情で、まるで感情が顔に出ていない。別に殴られても問題ない。そう言っているような印象を隆は受けた。


その顔に虚をつかれて、おもわず振りぬこうとしていた拳が止まる。


一瞬で頭に血が上ったが、その分、冷静になるのも速い。


クラス中が、二人に注目し、動きを止めて見ていた事も分かった。




(こんな公衆の面前で、女の子を殴りつけようとしたのか)




 隆はまわりの視線にも気づき、自分がやろうとしていた事に気づき、震えがくる。




(こんな事をするなんて、俺はこの間のDQNと同じじゃないか……!)




「殴りなさいよ」




 しかし、冷静になった隆を許さないような発言。


 柏木の顔を見ると、無表情で、先ほどと変わらず、無関心な表情。

 その言葉と柏木の無表情に、気持ちが再度沸騰し、震えながらも隆の拳が再度、握られる。



(俺が殴れるわけないと高を括っているのか! 舐めるなよ。あれだけのイジメをされておいて舐められっぱなしな、情けないやつじゃない!)



 隆は柏木の声に再度、怒りを充填させ、そして拳と共に、右半身を後ろに引き絞った。

凶行を止めようとする者もおらず、そこにいた誰もが、次の行動によって 血を見ると確信した。



「……」



 だが、隆は握られた拳を振るうことがどうしても出来なかった。



(……なんでだ?)



 柏木達の仕返しが怖いのだろうか。女の子に暴力を振るったという悪評が怖いのだろうか。



その逡巡を抑え、思い浮かんだのは、柏木の顔。



 プレゼントを買った日。甲田のことを思って、デカイプレゼントを両手で抱えながら幸せそうに笑う柏木。



柏木が振られてしまった日、校門ですれ違った時の柏木の泣き顔。今思い出しても、とても悲しくなってくるその顔。



プレゼントを早く渡したいとファミレスで喋ってた時は、あんな嬉しそうな顔だったのに。


あまりに無残な結末。胸が痛くなる。



 襟を捻り上げられ、今にも殴られる寸前の柏木の顔は、思い返した表情とはあまりにも対照的な、なにかを諦めたような表情。


そうなって、隆はようやく気がついた。いや、自分のちっぽけなプライドから、気づかない振りをしていた自分を認めた。









(あぁ、やっぱり……。俺、今でも柏木さんの事が好きなんだ)









 それは驚くほど簡単な答え。


 そしてやっとわかった。


 あんなに嫌がらせを受けていたのに、最後の一線で憎みきれなかった理由を。


 好きな相手の笑顔を見たい。幸せになっていて欲しい。


そう願うのは当然の事だ。復讐なんて考えれない。


 好きな相手を殴るなんて、できない。


 それが自分には辛い結末だったとしてもだ。



柏木を掴んでいた手をゆっくり、優しく離し、足を地面に付けさせた。

柏木は大きく目を見開いた。ゆっくりと開放した隆を信じられないものを見るような目で凝視してくる。



その呆然とした表情を見て思わず、隆の顔に笑みがこぼれた。



「なに笑ってんの……。早く殴りなさいよ!」



 笑った隆を見て、今度は逆に柏木が逆上し、隆を怒鳴りつけた。

なんでそんな事を言うのか。隆には意味が分からないし、どうでもいい。

 恋する男が考えるべき事は相手の幸せだけ。


 柏木の幸せの為に、自分がやらなければならない事を考える。

 少し考えただけで、さっきまで煮えたぎっていた怒りが急に冷めてきて、足がガクガクと震えてきた。


 これからすることは結果はどうあれ間違いなく、注目を浴び、自分のトラウマとなり、思い出すたびに隆を布団にのた打ち回らせる、消えない思い出となるだろう。


 周りの生徒達の記憶にもばっちり、思い出として刻み付けられ、なにかと言うと引き合いにだされ、からかわれ、馬鹿にされる。


 いや、それなんていい方だ。


 状況をさらに悪化させ、下手をすれば入学して一学期も終わらないうちに自主退学。人生終了のお知らせ。中卒。負け組。フリーター。



 ……。



 出来るのか? 途中で怖気づきそうだ。


 それに結果がうまくいくとは限らない。それどころか途中から傷つくことを恐れて、尻すぼみになって、引っ掻き回すだけで終わってしまうかもしれない。


 これ以上評判が悪くなったらもう、取り返しがつかない。



(……何をいまさら)



 というか評判なんて、甲田との一件の噂が流れている時点でもう最悪だ。


 高校は通信制に通えばいいじゃない。


 というかさっきキれたじゃない。女の胸倉まで掴めたよ。最低だけど。


 中学のあの時から絶対出来ないと思っていた、あんな大胆な行動だって腹をくくれば出来る。


 そう思いこんで、震える足に、怖がる自分自身気が付きながら。






「ちょっと、待ってて」






柏木に背を向け、覚悟を決めた。


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