告白
時は夏の夜、ある海水浴場で僕は彼女を待っていた。
彼女と言ってもまだ付き合っている訳ではない。中学校からずっとつるんでいた友達だ。いや、もう親友と言ってもいいほどだ。それくらい僕と彼女は仲がよかった。
今日、僕はそんな親友に伝えたいことがあって、ここでずっと待っている。
別に刑事ドラマ見たいに『真犯人はあなたですね!』とか、バトル物みたいにライバルに『ここで決着をつける!』とかを言う訳ではない。
今日僕は、ーーー彼女に告白をするんだ。
彼女を待っていると、もう夜の7時半頃になった。彼女はまだ来ていない。
今日は来ないのかな……?来ないかもしれないな、あれ以来ここに来なくなったもんな……。
半分諦めながら目を閉じて、波の音と風の音を聴いた。さらに30分経って夜の8時、もう来ないか…とほとんどの諦めていたとき、人の気配がした。ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。近づくにつれ、段々姿が見えてきた。黒の長髪に150cmほどの身長、見覚えのある服装に、誕生日に僕があげたネックレス。ああ、間違いない。やっと、来てくれた。やっと彼女が来てくれた。
彼女は近くのベンチに腰を下ろした。僕も彼女の近くまで近づいた。ああ、やっぱり彼女だ。久しぶりに見たけど変わってないなぁ。
僕は深呼吸をし、気持ちを落ち着かせ、彼女に気持ちを伝えることにした。
ひ、久しぶり。元気?いきなりで悪いけど、僕の話を聞いてくれる?
「…………」
返事なし。まぁ予想はしてたけどね。そのまま話を続ける。
僕と君が初めて会ったときのこと覚えてる?入学したばかりの頃、僕はクラスで、と言うか学級単位で浮いてて友達がいなかった。毎日がとてもつまらなかった。そして、そんな毎日を終わりにしたくて僕は屋上から飛び降りようとした。その時、「…何してるの?」君が話かけてきた。
入学以来初めて話しかけられたからとても驚いたよ。『…自殺だよ』って答えたら、「何で?」って聞き返されたっけ。それで僕が『関係無いだろ!』って大声出したら、「関係あるよ!!!」って僕より大きな声を出してたよね。その後言った言葉覚えてる?
「………」
そのとき君はこう言ったんだよ。「今あった時点で関係を持ったんだよ!関係を持った以上、あなたは私の友達なんだよ!?友達に関係無いとか言わないでよ!!」って。しかも泣きながら。
僕はとても嬉しかったんだよ。今会ったばかりの奴の自殺を涙を流しながら止めてくれるだけじゃなくて、友達にまでなってくれた。気づいたら僕も泣いていた。
僕はこの時君と友達になりたいと思った、そしてちゃんと『友達になって下さい』とお願いをして友達になった。これが僕達の出会いだったね。
あれからもう5年だね、僕は今でも君に感謝してるんだよ?あの時止めてくれなかったら僕はあの時既に死んでると思う。君が友達で本当に良かった。今だから素直に言える、友達になってくれてありがとう!
「………」
やっぱり返事はなしか……。まぁいいや。それで頼みがあるんだけど、この頼みは多分君を裏切る事になると思う。
僕と友達をやめて下さい。
「………」
無反応。話を続ける。
いきなりで本当にごめんなさい、何なら今ここで土下座してもいい。それほどの事を今僕は言ったのだから。
「………」
君とずっとつるんでいてたら、君の姿をずっと見ていたら、君の事を友達とは見れなくなってしまったんだ。最低だよな、でも
勘違いしないで欲しい。君の事を友達とは見れなくなったけど、君の事を嫌いになったわけじゃない。君の事を恋愛対象として見てしまうんだ。君のちょっとした行動も全て可愛らしく、いとおしく見えてしまう。……驚かずに聞いて。
僕は君がーーー好きだ。
「………」
返事なんていらないよ。ただ、僕の気持ちを伝えたかっただけだから。…変だよね?付き合いたいのに返事はいらないなんて。でも、これでいいんだ、返事がもらえないことはわかっていたし、例えもらえていても何も出来ない。君を抱き締めることも、君と手を繋ぐことも、君とキスすることも不可能なんだ。だってーーー
「お~い、待った~?」
「あ、遅いよ~もう!待ちくたびれたよ!!」
彼女はベンチを立ち上がると、彼女の友達であろう人達の方へ走っていった。彼女は友達を待っていたらしい。彼女が友達のところに僕をすり抜けて、もっと言うなら僕の体をすり抜けて走っていった。
ほら、触ることも出来ない。だってーーー
僕は既に死んでいるから。
去年の夏休み、僕と彼女で海に遊びに来た。彼女は泳げないため、浮き輪を着けて海に浮かんでいた。
その浮き輪が古かったせいか、彼女の浮き輪が破れてしまった。最悪にもけっこう深い場所で浮き輪が破れてしまい、泳げない彼女は沈んでいくしかなかった。
僕は必死になって彼女を助けようとした。けど、僕の体力で彼女を岸まであげるのは難しく、僕は岸に彼女を運んでいる途中に足がつってしまった。このままだと二人とも死んでしまう。そんなの嫌だ!僕はこの命の恩人だけは何が何でも助けたいと思った。つって動かない足の代わりに、彼女を腕で上げた。その間、僕は息が出来ない。でも彼女は助かる。
なら、それでいい。彼女が助かるならそれでいい。そう思い必死に抱えあげ続けた。
段々薄れていく意識のなか、1つだけ心残りがあった。
彼女に告白したかったなぁ…
気がつくと僕は幽霊となってこの海にいた。幽霊になってからのこの1年間、君が来るのを待っていた。告白をするために。僕の心を伝えるために。
そしてやっと会えた。やっぱり見えてないようだった。けど、一目見て告白出来ただけでも幽霊になって1年まった甲斐があった。もう、悔いはない。
彼女の方を見た。花火をしているらしい。今日の集まりはその為だろう。僕は彼女にお別れを言うことにした。
………バイバイ、君と友達になれて本当によかった、ありがとう。次はいつ会えるかな?もし来世が会ったとしたら、また君と友達になって、また君を好きになるよ。だから、それまでお別れだ。じゃあね、バイバイ、大好きだ。
彼女を見ると線香花火をしている。線香花火が落ちて消えると共に、幽霊の姿も消えていった。