ディレンマ
はじめましてのかたは初めまして、加那 翔というものです。
今までは見切り発車の連載小説ばかりでしたが、
今回は短編で、話を一つ完結させてみました。
……ぶっちゃけていいますと、これは実は連載小説だったりします。
(話の流れとか、作っちゃってますし)
まぁ、結果次第で、連載でやるかも知れませんし、やらないかも知れないということです。
作者の長い雑談となりましたが、すみませんでした。本編へどうぞ
退魔師――。
世界を脅かす存在【魔物】の殲滅が目的の武装集団の総称。
だが、退魔師は裏の人間であり、公にされてはいけない人間だ。
公にされれば、その存在は抹消されるだろう。
そのため、退魔師は、表の……退魔師ではない者達を魔物の攻撃から守りつつ、自分の存在を隠し続けなければならない。
そんな曖昧な存在、それが退魔師だ。
――退魔師の中に、一人の少年がいた。
少年の名は、永瀬 彩斗。若きエースと呼ばれ、トップクラスに君臨する退魔師だ。
今までにミスをすることが一切なく、身内のミスに厳しい十六歳の少年だ。だが、ミスを自分の身を持って償えという性格ではないので、彼の下についている退魔師からも信頼を得ている。身内には、とことん甘く、部下の尻拭いを率先して受けるような人一倍、優しい人だ。これが、部下からの信頼が厚い理由だろう。
かくして彼は今日も、身内の尻拭いのために働いていたのであった。
「はぁはぁ……」
空が雲により漆黒に包まれ、月が姿を消している。
そんな中、一人の青年が何かを恐れているかのように一生懸命、路地裏に逃げ込んでいた。
「くそっ、あんなやつがいるなんて聞いてねぇぞ」
恐怖のあまりに悪態ずく青年。体力の限界が近いのか、追っ手の気配を探りつつ、壁に全体重をかけるようにもたれ込む。
そう、この青年は、ある人に命を狙われているのだ。
とある組織の秘密を知ってしまい、こちらからアプローチをかけた結果がこれだ。
組織は、青年に秘密を知られたままではまずいと判断し、刺客を送った。
「……こんなことなら、知らないままのほうが良かったのかもな」
「ああ、そうだろうな。知らなかったり、お前から脅迫してこなかったらこんなことにはならなかった」
どことなく幼い男の声が真夜中の路地裏に響く。
少年の声が聞こえたことにより、青年は思ったよりも早く気づかれたことに驚愕する。だが、同時に諦めもついたのか、大きな溜め息をつく。
「そうだな……」
「何故、組織に脅迫なんてしたんだ。秘密を守るためにこうすることはわかっていただろう!!」
本当は人を殺したくないのだろう。少年の口からは青年を責めるかのような台詞が飛ぶ。
「お前は優しいんだな……。俺にはさ、歳が離れてる義妹がいるんだ。だけど、そいつは俺を嫌っていてな。ホント、生意気な妹だ」
「…………」
「……だが、あいつの命も長くは持たねぇんだ。持って三ヵ月といったところだ。あんなやつでも妹には変わりねぇ、兄貴として助けてやりたかったんだ。だけど、お金の問題でどうにも出来なかった」
「だから……、俺達――退魔師を脅迫したってのか!!」
青年の言葉を聞き、涙ぐみながら怒る少年。
それは壮絶な理由を背負って脅迫してきた青年を、殺さなくてはいけないからだ。悲しみと苦しみと同情の気持ちが一斉に少年を襲う。
「ふざけるなよ……。殺す前にそんな理由を聞かされちまったら、殺せないじゃねぇかよ……」
「やっぱり、お前は優しいんだな。……だけど、このまま俺を逃がしたら、お前らを脅迫するかも知んないぜ」
「くっそぉおおおおおお――!!」
わかりやすい青年の挑発の言葉を受け、こうなった理由を少年は思い返す。
表の人間から脅迫をされて、味方から『裏切り者には死を』と言われ続けている少女からのお願い。ここでこの青年を殺さなければ、あの女の子は殺されてしまうだろう。
「……そうだ。それでいいんだよ」
ぐさっ、という肉が切れる重々しい音と共に、路地裏に血飛沫が舞う。
少年のまだ幼い瞳からは止めどなく涙がこぼれ、青年の背中から腹にかけて刃が貫通している。それは退魔師しか持っていない、退魔師専用の刀。その刀が意味するのは、青年の死と少年が男を刺したということだ。
「俺がお前ら退魔師の秘密を知って、脅迫しようとしたのがいけねぇんだ。お前がそんな顔、する意味はねぇよ……。お前は仲間を守ったんだからさ」
「でも……」
「そんなに気にするんだったらさ、俺の妹だけは助けてやってくれ……。あいつは何にも関係ないからさ」
男の体から刀を抜き取り、血を払う。
その衝撃により、青年の体は仰向けで地面に倒れこむ。
「……ああ、助けてやる。お前が命をかけてまで守ろうとした妹だ」
「良かった。義妹の名前は、香織って言うんだ……。可愛らしい名前だろ」
「こんなときに何、言ってるんだよ。アンタは……」
「……こんなときだから言ってんのさ。俺はもう、死ぬんだ。言い残したことがあるんだったら、今、言っておくべきだろ」
軽口をたたく青年だが、反対に少年の表情は硬かった。
「アンタの名前は……?」
「……俺の名前は、森永雄太だ」
青年の名前を確認するように、少年は何回も呟きながら自分の胸を抑える。
「妹に会うことがあったら、伝えといてくれないか。『約束……守れなくてごめんな』って」
「……っ!!」
それから青年の体が動くことはなく、さっきまで軽口をたたいていた口からも言葉が飛ぶことはなかった。
同時に何とも言えない感情が、少年の体を支配する。
――青年をどうにかすれば助けることが出来たのではないか?
――だけど、組織の命令は絶対、殺さなければ。
両者とも正論であり、正論ではない。決着がつくことのない議論が少年の頭のなかで繰り広げられていた。
「……さようなら、雄太。お前の妹は、絶対に守ってやる」
真夜中の路地裏に形が歪で、妙に生々しい一つの紅い花が咲いた。
それは、とても忌々しい連鎖の中で生まれてしまった、神様の無慈悲を示したような花だった。
その花を振り返りざまに人目、見て、決心したように胸を叩く少年。
彼の真っ黒な瞳には、妹を護るために必死で頑張った青年の写っており、目尻には涙が溜まっていた。
涙を服の袖でさっと拭い、少年はその場から去った。
心に重い枷をつけながら――。
……いかがでしたでしょうか?
短編だったら、もう少し長くしろや。などなど、そういう評価があるかも知れませんが、これ以上、載せますと取り返しのつかないことになりますので割愛しました。
(どうせなら、キリの良いところで終わりたかったので)
素直に思ったことなどありましたら、コメントください。
大量に改善をして、連載にすることもありますので……。
――以上。加那 翔からでした