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第二十七話:始業式の中止

 まだ頭がぼやぼやする。

 寝たと言っても充分な睡眠時間があったわけじゃない。こんなに早く起きなくちゃならないなんて、勘弁してほしい。

 今日から新学期だ。

 廊下に出ると、なんだか周囲が騒がしいような気がする。とにかく俺は食堂に行こう。腹が減った。

「蒼輔、おはよう。もう聞いた?」

「京一か。おはよう。聞いたって、何を?」

「今日の始業式は中止なんだってさ」

「中止? どうして?」

「わからないよ。とにかく自寮内で待機してろってさ。僕は全員に周知しなくちゃいけないから、じゃね」

 始業式が中止か。昨日見澤が見つかったことと関係があるのかもしれないな。本当に見澤が薬物中毒に陥っているのだとしたら、教師たちは今頃大変な騒ぎになっているだろう。授業を開始するどころではない、ということか。

 ……違う。見澤のことはおそらく関係がない。授業が開始されなくなるかもしれないと、前に水樹が言っていたじゃないか。あの時点では見澤はまだ見つかっていなかった。

 とすれば始業式を中止しなければならないほどの何か、は俺の知らない別のことだ。

「何を辛気臭い顔してつっ立っとるんだ」

「うわっ。寮母のおばちゃんか。おはよう」

「飯がいらんのならさっさと戻りな」

「大盛りで。おばちゃんは、寮内待機の理由を知らない?」

「知らないね。あたしゃ伝えろといわれたことを伝えただけだよ。理由なんていちいち詮索するもんか」

「走り回ってるのは京一だけどな」

「全員分の昼飯作らなきゃならないんだよ。全く、先生たちは何をやっとるんだろうねえ」

 という割にはなんだか嬉しそうだな。

「ああ、俺の分は作らなくていいや」

「どっか行くつもりかい? 寮内待機だよ?」

「そう固いこと言うなって」

「じゃ、弁当作ってやろうか。やれやれ、面倒くさい」

「こっちで何とかするからいいよ」

「子供が遠慮なんてするんじゃないよ。いいかい、遊びまわるのはいいけど、絶対に面倒なんて起こすんじゃないよ。寮生が悪さしたら、結局こっちにまで責任がかかってくるんだ」

「わかったよ。気をつける」

 保障はできないけど。

 食堂の脇にある寮の電話が鳴り出したのでおばちゃんは話を切り上げて応対に向かう。おばちゃんはぶっきらぼうだけど、いい人なんだよな。それに飯が美味い。

 ん、おばちゃん戻ってきたな。

「おい、電話だ」

「電話? 俺に?」

「さっさと出な。電話代だってタダじゃないんだ」

 飯食おうと思ってたのに。誰だよ。

「もしもし」

「もしもし、蒼輔っ? あたしあたし。わかる?」

「孫のハナコかい?」

「そうだよハナコだよっ」

「久しぶりじゃねえ。どうしたんだい」

「おじいちゃん、実はちょっとお金が必要になっちゃって」

「それは大変じゃのう。工面してやりたいのは山々じゃが、わしも年金が消えるわ保険料は上がるわで金欠でのう」

「世知辛いねっ」

「全くだ。……穂乃歌か。どうした? 昨日はちゃんと寝られたか?」

「心配してくれるんだねっ。ありがとっ。蒼輔、授業が中止になったのは知ってる?」

「ああ、さっき京一から聞いたよ」

「だから……、ちょっと時間作れないかなっ。会いたいんだけどっ」

「なんだ? 見澤のことか?」

「うーん、そんなようなこと」

 そんなようなこと? わからないな。もう見澤は発見されて、深刻な状況にはあるが俺たちは回復を待つしかない状況だ。もっとも、親友が深刻な状態で発見されて不安なのかもしれない。薬物中毒のことは俺から言うべきじゃないだろうな。

「それでね、青色学校まで来てほしいんだけど」

「青色? 黄色じゃなく?」

 穂乃歌の住む四寮でも、一度案内してもらった黄色でもないのか。

「うん……。場所はわかるかなっ。わからないかな。わからないよねっ。わからないんだったら、いいんだけどっ」

「場所なら学園内の地図が頭に入っているから、問題ないけど。なんだよそのはっきりしない言い方は」

「うーん、そのっ、なんといいますか」

「穂乃歌、まだ混乱しているんじゃないか? 無理せず休んでいろよ」

「うん、あたしは大丈夫だよっ。心配しないで」

「そうか? じゃあ行くよ。何時?」

「十時。時間の都合は――」

「大丈夫だ。じゃあ、その時間に、青色学校で」

「うんっ、後でね」

「ああ待った穂乃歌。ついでに、朱姫に替わってもらえないか」

「……朱姫に何の用? ……デートの誘いとかっ?」

「何を言ってんだ。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「残念だけどっ、朱姫なら朝早くに出かけちゃったよ。やらなきゃならないことがあるんだってさ」

「そうなのか。忙しそうだな」

「毎日忙しそうにしてるよっ。何してるのかは教えてくれないんだけど」

 朱姫のしていることか。俺の考えが正しいのなら、俺は朱姫に会う必要があると思う。朱姫の持っている情報を得ることで、何か別の局面が浮かび上がってくるかもしれない。

 だけどいないのなら仕方がないな。

「蒼輔って、朱姫のこと好き?」

「なんだよ藪から棒に」

「なんかねっ、そんな気がするんだ」

「そんなんじゃないよ」

「ふーん、ほんとかなっ。まあいいや。また後でねっ」

 十時か。まだ少し時間があるな。

「デートかい」

「うわっ、おばちゃんいつの間に隣にいたんだよ。ていうか盗み聞きするなよ」

「全く若いくせに年中発情しよって」

「いやな言い方だなそれ」

「弁当二つ作ってやろうか?」

「いらねえ。そもそもデートじゃねえ」



 風が鳴っている。天気は快晴だ。島にぶつかる波が少し荒い。

 讃神島に船が着いているのかもしれない。着いているとしたら、見澤を運ぶための船だろう。

 見澤灯は薬物中毒状態にあると清美お姉さんは言っていた。

 見澤は一体いつ薬物を使用したんだろう。失踪前と後、両方のケースが考えられる。薬物なんてもんは元来ろくでもないもんなんだから、失踪という闇深い行為と結びついていたって大して不思議じゃない。

 失踪後に使用したんなら、島から離れて繁華街でもうろついている時にヤーの方々に目をつけられたとでも考えるのが普通だ。見澤が行く当てもなく失踪したんなら充分考えられることだ。

 だがこれはそもそも拉致だ。だから拉致された後に使用したと考える場合、頭のトチ狂った変態ヤローに監禁されて、きちがいじみたドラッグプレイでも強要されていた……嫌な想像だが、まあそんな想定になる。

 だけどこの想定では高木が関わってこない。見澤の失踪には高木刃子が何らかの役割を果たしているはずだ。

 失踪前に常用していたと仮定するなら、売人との何らかのトラブル――クスリの代金を支払えなくなったなど――が発生したんだろう。だから拉致され、どこかのイカガワシイ店で働かされ……ああ、これも嫌な想像だな。

 売人はどこにいるんだろう。讃神学園にいるんだろうか。讃神学園にいるなら、学園内には薬物が蔓延しているんだろうか。高木が売人で、だから高木が拉致したと考えるなら話はまとまるが、結局のところその証拠はどこにもない。

 それに見澤が薬物依存状態にあるのなら、警察が動き始めるだろうことも事実だ。警察が動いたなら売人の正体も明らかになるだろう。

 結局のところ、清美お姉さんの言うとおり、俺が動かなければならない理由はないわけだ。

 水樹はどこほっつき歩いてるんだろう。話が聞きたいと思って電話してみたが、寮にも生徒会室にもいなかった。水樹は今日の始業式中止について、おそらく何か知っている。それがなんなのか。見澤のこととは関係があるのか。

 ああ、本当に、空が綺麗だ。今日はよく澄んでいる。こんな懸念がなければ一日中ひなたぼっこしていたいくらい。

 勘弁してほしいよなあ、本当に。



 さて、青色学校に着いた。基本的な構造は黄色学校と同じみたいだ。なんとなく綺麗で新しい感じがするのは、俺の偏見のせいであるということにしておきたい。でもなんか清潔感があって近代的な感じがするんだよなあ。

 なぜか人の気配を感じない。始業式は中止なんだから、なぜか、ってことはないのか。でも一人くらい勘違いして来る馬鹿がいてもいいんじゃないか? 青組だから馬鹿はいないってことか? 部活もないのか? ああ、自寮待機、だったか。

 この辺りは広場になっているみたいだな。なんかやけにでかい噴水がある。それに緑樹が整然と植えられていて、涼しげでいいんだけど、こんなもの黄色学校には……それはもういいか。

 木陰の一つで手を振っている人物がいる。穂乃歌だ。

「蒼輔っ、来てくれたんだね」

「そりゃ来るよ。元気そうだな。何よりだ」

 本当はちょっと落ち込んでいるのがわかる。元気よさげに振舞ってはいるが、空元気なのがまるわかりだ。

「うんっ、大丈夫だよ、あたしは」

「そうだな。穂乃歌が落ち込んでいたって見澤は回復しないんだ。これからあいつを支えてやるためにも、穂乃歌は元気でいないとな」

「うんっ」

 空元気でも、笑顔なのはいいな。笑っていれば嘘でも元気がわいてくる。いいことだ。

「で、話って」

「その前に飲み物でも買いなよっ。今日は暑いし」

 ああ、自販機があるな。穂乃歌も何か飲んでいるようだ。

「じゃ一番高いのでいいや」

「自分で買いなって」

「奢ってくれるんじゃないのか」

 仕方ないな。財布を取り出して――

 そのとき蒼輔の目の中に火花が走った。

 最初に衝撃だけがあった。痛みは後からついてくる。

 心臓が痙攣するような感覚。

 脳みそがジンジンと揺れて、吐き気が腹の底から湧き上がってくる。

 首筋が焼け焦げたように熱い。

 打撃じゃない、おそらく電気――スタンガンか、と蒼輔の頭の一部が分析する。

 その他の部分が緊急警報を鳴らし身体に回避運動を取ることを命ずる。

 まずい――と蒼輔の意識は思う。

 だが、間に合わない。

 もう一度首筋に衝撃を受けた瞬間、蒼輔の世界は暗転し、そのまま深い眠りに落ち込んだ。

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