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第十七話:盗む

 ……六寮だ。

 聞いたところによると、この寮が讃神学園にある寮の中で最大のセキュリティを誇るらしい。

 どうにかして俺はこのセキュリティを掻い潜らなくちゃならないんだが、勘弁してほしいな。正攻法では無理がありそうだ。

「蒼輔っ、周りを見た限りでは、出入り口はエントランスだけだねっ」

「……穴でも掘るか?」

「たぶんそれはさすがに無理がありすぎると思うんだけどー」

 改めて京一と穂乃歌の三人で調べているが、やはりないものは無い、か。

「エントランス以外の脱出口か。やっぱり蒼輔は灯がどうやって寮を出たのか気になるんだねっ」

「ま、そういうことだ」

 というのはうそで、実のところ他に思惑がある。

 この場合、他に侵入経路があるっていうのがベストなんだが、それは無理というものか。

「窓も開かないんだよな……。これ、壊したらどうなる?」

「アラームがなって警備員が来るよ、たぶん。だいたい灯さんが失踪したとき窓が壊れたりしてなかったよ。……蒼輔、あんまり無理に開けようとしないでね」

「うーん、最大に開けてこれだけか」

「赤ん坊も通れない細さだねっ」

「穂乃歌ならいけるんじゃないか?」

「まあねっ、あたしのウエストなら余裕余裕――って無理っ!」

 ん、これは通風孔だな。

「ここから入れないかな」

「スパイ映画みたいな発想だねー。猫ならいけるけど、人間は無理じゃないかな。たぶん」

 関節を外してもこれは無理だな。

「……穂乃歌、山西夏海を呼び出してくれないか? 今の時間帯なら部屋にいるだろう」

「ここにっ? うん、わかった」

「蒼輔、山西さんがどうしたの? 蒼輔は一度会ってるんだったね、たぶん」

「住人の話も聞いておきたいと思っただけだ。実際に住んでいる人間なら、侵入経路について思いつくことがあるかもしれない」

「蒼輔はやけにルートにこだわるよねー。それほど重要なことにも思えないんだけど」

「なら京一は、見澤灯がどうやって拉致されたんだと思うんだ?」

「拉致、と断言するんだね」

「もうこの段階だ。断言してやろう。見澤灯の失踪は誰かによる拉致だ。彼女は何者かに連れ去られ、どこかに監禁されているか、既に殺されてしまっている。何故なら、逃走経路はともかく、彼女には失踪する動機が皆無だからだ。見澤灯が失踪当時自らの意志で失踪したとは考えられない」

「……蒼輔、一般論を言ってもいいかな」

「言ってくれ」

「人間の行動には必ずしも理由があるわけではないのじゃないかな」

「それ、一般論かよ、京一」

「僕はそう思う」

「賛成するよ。だが現実問題として俺は、人間はそう豹変するもんじゃないと思う。朝吾川蒼輔だった人間は夜になっても吾川蒼輔だ。うっかり変わってしまうんなら、寮のおばちゃんは夕食を何人前作っていいのかわからなくなっちまう。そんな風にして社会は築かれてきたんだし、これからも続いていくんだろう。もちろん、理由もなく豹変する人間が皆無だというつもりはないが」

「そうだね。蒼輔の言うことは正しいと思うよ。でも僕は時々考えてしまうことがあるんだよ。毎日学校へ行って、友達と話して、授業を受けて、寮に帰って、宿題をやって寝る。どうしてそんなことをするのだろう。それは僕という人間の意志によってというよりは、そうするように全体に決められているからなんじゃないのかって。もし僕が今いなくなってしまったら、親は悲しむし、友達や先生たちは不思議に思うだろう、たぶんね。蒼輔の言うように、寮のおばさんは一人分の夕食が余ったって、ぼやくだろうね。周りにそうさせないために、僕は毎日僕の役割を果たしていく」

「…………そうだな」

「だとしたら、僕は一体なんなんだろうね。僕という人格は、自分の意志で生きているように見えて、実はもっと大きなものによって行動を決められてしまっている。そういうのって、なんだかなって。だから――もちろん実際にどこかへ行ってしまったりはしないんだけど、もしかしたら失踪した人たちも、そんなことを考えていたんじゃないのかって、そうも思うんだよ」

「……そうか」

 京一の言っていることは、よくわからない。理屈では理解できるんだが、よくわからない。

 俺はそう教育を受けてきたからだ。今いる場所に囚われるなと、大人たちは言った。常に心を虚しくしていろと。大人たちの顔を、俺はよく覚えていない。誰とも情を持ってはいけないと、彼らのうちの誰かかが言った。それがおそらく彼らの教育方針だったのだろう。

 見澤灯を見つけ出せば、京一たちともお別れだ。京一や穂乃歌は不思議に思うだろうか。さよならさえ言わず、二度と会うこともない。

 ……なんだ、この感情は。嫌だとでも言うつもりか?

「蒼輔?」

 蒼輔……? それは、誰だ?

 アガワソウスケ……それは……名前……そう、吾川蒼輔は俺の名前だ。……だが……俺は…………

「蒼輔、大丈夫? ごめんね、変なこと言っちゃって」

「いや……すまん。大丈夫だ。京一、結構いろんなこと考えているんだな。見直したよ」

「ちょっと考えただけだよ。見直したってのはちょっと引っかかるけどね」

「京一の意見はわかるが、悪いが俺は自分の方針を変える気はない」

「もちろんだよ。さっきのはあくまでも一般論。僕も今回の件がただの失踪だと思っているわけじゃない。たぶんね」

 お、夏海が建物から出てきたようだな。キーを使ってエントランスを開く。キーはそのまま上着のポケットに閉まったようだ。

「おっス蒼輔。今日も灯の捜索っスか?」

「ああ、悪いな。今日は練習はいいのか?」

「ちょうど終わって帰ってきたとこだったっス。夕飯食べたら軽くトレーニングして、今日のメニューはおしまい。夕飯までなら時間あるっスよ」

「夏海、この六寮の出入り口ってのは、ここしかないのか?」

「うん。どういう意味?」

「そのままの意味だ。外から誰かが入る場合、このエントランスを使うしかないのか?」

「うん」

「……そうか。そうだよな」

「これってもしかして、灯の脱出経路の確認?」

「そうだ。疑問は少しでも解消しておきたい」

「っていってもねー。寮内でも灯の失踪経路は謎っスから」

「非常口はどこにあるんだ? 災害時の脱出路はあるんだろ?」

「えっと確かー。非常口は非常ベルが作動したときだけ開くようになるっていう仕様だったと思うっス」

「で、それはどこなんだ?」

「さあ」

「さあって……」

「上手く周りと馴染ませてあるから、外観からはわからないようにしてあるんじゃなかったかな」

「うーん、いずれにせよ、普段使うことのできる通路じゃないってことか」

「そうだね。他に思いつくルートはないし……灯、どうやって六寮から出たんスかねえ」

 それは俺もわからない。拉致するにしても侵入ルートがなければ無理だってことになってしまう。

「む、腹が痛い」

「え、え、蒼輔、どうしたっスか? 大丈夫?」

「どしたのっ、蒼輔」

「大丈夫ー?」

 いや、みんなに集まってもらう必要はないんだが。

 が、夏海は上手い具合に俺の前に来てくれたな。

 気取られないように…………よし、上手くいった。

 これで六寮に来た本当の理由は果たしたな。

「どうしようっ。夏海、どこか横になって休める場所ない?」

「いや……大丈夫だ。ちょっとかがんだらよくなった。すまんな、騒がせて」

「でもっ、本当に、大丈夫?」

「疲れてるんじゃないのー。島に来てから、ずっと走り回ってるもんねー、たぶん」

 なんか、そう心配されると申し訳ない。

「いや、本当に大丈夫だ。ま、でも今日はもうこのくらいにして、寮に帰って休むとするよ。夏海、呼び出して悪かったな。京一と穂乃歌も、もう帰ろうか」

「うん、じゃ。ごめんね、あんまり協力できなくって」

「いや、十分だ」

 ちょうどエントランスから誰か出てくるとこだったらしい。夏海はそのまま寮に入っていった。



「蒼輔っ。大丈夫? やっぱりどこか悪いんじゃない?」

「大丈夫だって。人間性以外は悪いところはない」

「またそんな冗談言うっ。……そっか、よかった。でも今日はもうゆっくりしてねっ」

「そうするよ。……どうした京一、考え込んだ顔して」

「蒼輔、もう全然大丈夫そうだねー。本当は痛くなかったみたい」

「な、なにを言っているんだ。急に腹が痛くなって急に治るってこと、たまにあるだろ」

「あるよ。別に疑ってるわけじゃないよ、たぶん。蒼輔、六寮の出入り口の問題は、どう考える?」

「ちょっと京一っ。今日はその話はやめようって……」

「侵入できないっていうんなら、侵入なんかしていないってケースを想定したほうがいいのかもしれない」

「……蒼輔も応じちゃったよ」

「つまり六寮の寮生の中に犯人がいる?」

「犯人のうちの少なくとも一人、だな。だがそれでも寮から脱出できないことに変わりはない」

「うん。だから結局のところ朝までは犯人と灯さんは寮の中にいたってことになる。犯人は寮内のどこか――おそらく犯人の自室に朝が来るまで灯さんを監禁していた」

「エントランスが開いたら頃合いを見計らって見澤を外に連れ出す、か。ま、現在も部屋に監禁しているのかも知れないけど」

「それは……」

「言ってみただけだ。4ヶ月も誰にも見つからず監禁しているなんて不可能だ。後はいつ見澤を監禁したのかって問題が残るが、九時半より後だろうな」

「えっと、そうかな。山西さんが九時半に灯さんの部屋の鍵がかかっているのを発見したわけだけど、たぶん、それより前に犯人の部屋に呼び出されたんじゃない? 自室の鍵をかけて」

「いや、早朝になってから別府という生徒が鍵が開いているのを発見している。既に監禁している犯人がわざわざ見澤の部屋の鍵を開けにいく理由はないよ。もちろん、この辺の真相は不明だが」

「となると……自然な流れを考えるなら、夕食を終えてから灯さんは部屋に鍵をかけて、休息――眠るか何かしていたんだ。その後犯人の部屋に呼ばれて、監禁された」

「朝が来て、犯人に連れられ外へ、か。つじつまは合ったな」

 この推測をまとめると、

  12月23日

   午後8:00ごろ 見澤、夏海と夕食をとり自室へ。*

     9:00 エントランスのロックが閉まる。*

     9:30 夏海、見澤の部屋に鍵がかかっているのを確認する。*

     9:30-6:00の間 見澤、犯人の部屋へ。監禁される。

  12月24日

   午前6:00前 別府という生徒が見澤の部屋のドアが開いているのを発見する。*

     6:00 エントランスのロックが開く。*

     6:00以降 犯人、見澤を連れて外へ。

(*は前提となる事項)

ってとこか。自室にいた見澤が夏海の訪問に応じなかったのが疑問だが、京一の言うように寝ていて聞こえなかったとでも考えるしかないな。



「なんか、ふたりで難しい話してる」

「穂乃歌」

「んっ、なに?」

「わかってないようだから言っとくけど、身辺には気をつけとけよ」

「気をつけるって、どうしてっ?」

「おそらくこの島には犯罪者がいる。讃神島はどこかおかしいんだ」

つーか12月23日って祝日なんですよね。明らかな設定ミスです。ごめんなさい。とりあえずこのまま進めて、直せそうなときに直します。多分。

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