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第十二話:友人

「俺は吾川蒼輔だ。ともあれふたりとも無事でよかったな」

 しかしこの学園はどうなってやがるんだ。転校から3日で3度も乱闘騒ぎに巻き込まれるか、普通。特殊な学校だとは聞いていたが、これはちょっと特殊すぎないか。

 この天山水樹ってやつも大したもんだ。たった今しがた乱闘劇があったっていうのに、まるで動揺している様子がない。ただ立ってニコニコしているだけのはずなのに、なんとなく威圧感のあるやつだ。

「あがわ……そうか」

「俺は転入生だからよくわからないんだけど、あれもクラス対立ってやつの一環なのか?」

 水樹のバッジは赤。さっきのやつらは青。朱姫の話では、赤と青の対立が特にひどいってことだった。

「できれば変な先入観は持たないでほしいところなんだけど、ま、対立があるのは事実だ。だがそんなに深刻なものじゃない」

「殴り合いが浅薄なものなのか?」

「さっきのはただの話し合いだったんだよ。確かにちょっとこじれたところだったが」

「おいおい、実際に俺は殴られたんだぞ。それとも俺が介入しなけりゃ丸く収まってたって言うのか」

「いや、そういうつもりはないんだ。蒼輔が助けてくれて本当に助かった。ただ、こんなことで讃神学園に嫌な印象を持たないでほしいってことだ」

「そんなもん持たないよ。島に来て3日だが、友達もできた」

「そうか、それはよかった。クラス対立については、解決するよう生徒会が動いている」

「生徒会、ねえ。あいつらに何ができるかな。副会長の高木刃子ってやつに昨日あったけど、とても尊敬できるような人間じゃなかったな」

「それはそう、かも知れないが」

「ナンバー2があれで生徒がついてくるのかな。生徒会長は人望が厚いってみんな言ってるけど、どうだかな。高木を野放しにしているだけでも高が知れると思うけど」

「……いや、副会長は副会長でいいところもあるんだよ」

「へえ、水樹は高木を擁護するんだな。他のみんなは会長のほうを持ち上げるのに」

「当たり前だ。蒼輔はクラス対立に興味があるのか?」

「別に興味があるわけじゃない。こっちに火の粉が降りかからなければ問題ない。ただ、学園生活を邪魔されるのは勘弁願いたいだけだ」

「積極的につつくというわけではない、か。なら蒼輔、頼む。少し待っていてくれないか。クラス対立については生徒会が水面下で活動しているんだ」

「生徒会が何とかできるとは思えないけどな。だけどさっきも言ったように俺は何もするつもりはないよ。俺がすることといえば正義の味方だけだ」

「さっきみたいに、囲まれている人間を助けるか」

「おいおい、これは笑うところだよ。正義の味方なんてがらじゃない」

「そうかな、結構似合ってると思うけど。それに蒼輔、かなり強いな」

「そうかな。まぐれだよ」

「まぐれ……? 訓練された動きのように見えたけど」

「まぐれだよ」

「まぐれかよ。はは。わかった、それでいい。でもがらじゃないなんて言わずに、これからも困っている生徒がいたら助けてやってくれ。頼む」

「なんで水樹が頼むんだよ。勘弁してほしいな」

「そういうなよ。ジュースぐらいはおごってやるから」

 いらねえよ。やれやれ。

「ま、気が向いたらな」

「おごるで思い出した。さっき助けてくれたお礼に、昼飯でもおごらせてくれないか。ここからすぐのところに学生部の学食がある」

「礼なんていらないよ。それに悪いけど先約があるんだ。競技場ってのはこっちでいいのか?」

「そうか残念だ。競技場ならその道を行って、あとは看板に従って行けばいい――ならここでお別れだな。今日は本当に助かったよ。じゃあ蒼輔。また会おう。そのとき敵味方にならないことを祈るよ」

 敵味方?

 なんで水樹と敵味方にならなくちゃならないんだよ。

 ……わからん。とにかく行くか。



 競技場ってのはここか。

 さすがに広いな。フェンスを通して400mトラックが見える。観客席みたいなのはないんだな。でもナイター設備はちゃんとあるみたいだ。そこらへんはさすがに讃神学園か。

「あがわそうすけー」

 ……うるさい。

 なんてでかい声だ。

 どこからだ?

 ……向こうに何かの建物がある。ちょっと遠いからなんともいえないが、体育館だろうか。島内での場所を指す言葉として『競技場』と言った場合、あれもその一部に入るんだろう。

「あーがーわーそーうーすーけー」

 馬鹿でかい声はそっちのほうから聞こえてくるみたいだ。

 ……自分の名前がでかい声で連呼されるのは、恥ずかしいんで勘弁してもらいたいな。

 やれやれ仕方ない。走って行ってみるか。

「来たっスね。やっぱり吾川蒼輔だった」

「……勘弁してくれよ。あんまり人の名前大声で叫ばないでくれないか?」

「いいじゃないっスか。おかげでこうやって会うことができたんだし」

「山川夏海さんだな。こっちの自己紹介は必要ないみたいだな」

「吾川蒼輔だよね。穂乃歌から聞いてるよ。わざわざ来てもらって悪かったスね」

 山西夏海は、失踪した見澤灯を最後に目撃した人物だ。

 陸上部所属で、今も陸上ユニフォームを着ている。男と見まがうような短髪に、小柄ながら引き締まった体躯がよく日焼けしている。それに必要以上に大きな声で周囲に明るい雰囲気を振りまく活発な女の子だ。

「会いたいって言ったのはこっちなんだから、当たり前だ。でもあまり時間が取れないんだったよな」

「讃神学園の部活は、どこも練習きついからねえ。特にあたしみたいな凡人は、周囲に置いてかれないようにするので精一杯で」

 言葉の割りに、大口開けて笑ってる。

 こういう明るい人間は苦手だが、好感が持てるな。

「だからごめんね。時間取れるのは昼食休憩中だけなんだ。……こっちね」

 なるほど、そこかしこで夏海と同じようなユニフォームを着た人間が弁当を広げている。夏海も肩から小さいバッグを提げている。

「ここっス。ここなら話もしやすいよね」

 ……建物の裏手だ。ちょうど日陰になっていて、しかも他に人もいない。

 なるほど、わざわざ話しやすい場所を選んでくれたってわけだ。

「じゃ、ちょっと失礼して。……もぐもぐ……。蒼輔はご飯食べないんスか?」

「俺は後で食べるからいいよ。単刀直入に聞こう。見澤灯を最後に目撃したって言うのは、本当か?」

「疑ってるんスか? 私疑われるようなことしたかな」

「俺は疑えるものは何でも疑うようにしてるんだ。というか、夏海が嘘をついてくれていたほうが、全部解決できてありがたい」

「複雑っスからねえ。灯の失踪は。でも私が言ったことは全部本当っスよ。あの日は私と灯で一緒に夕ご飯食べた」

「それが何時くらいのことなんだ?」

「何時と言われても……。7時か、8時くらいじゃないっスかね」

「そのとき見澤はどんな様子だった? つまり、何かに悩んでいたり思いつめていたりするような感じはなかったのか?」

「それはないな。あのときのことは何回か思い返してみたんスけど。……もぐもぐ……。冬休みに入ったところだったから、やっと休みだとか、やっぱり家が恋しくなるものだとか、そんな話ばっかしてたように思うんスよね」

 やっぱり、見澤に失踪するような動機はなかったのか。

「見澤は帰省する予定だったんだよな」

「うん。穂乃歌と一緒に帰るって、そう言ってたと思うっス」

 そうだ。穂乃歌もそんなことを言っていたな。

「帰省できていいなあって、そんなこと言った覚えがあるっス。私らみたいな部活動生は帰省できても正月だけとかだからね」

「夕食のあとはどうしたんだ? 確か……」

「そう。私、本を返しにいったんスよ。……もぐもぐ……。そしたらノックしてもでてこなくて、鍵もかかっててた。だからもう寝てるんじゃないかと思ったんだけど」

 しかし美味そうにおにぎり食うなあ。

「あげないっスよ」

「いらない。借りてた本っていうのは?」

「画家の作品集っス。私、タイムが出ずにちょっと落ち込んでたことがあって、そんな時灯が渡してくれたんスよね。世の中には苦悩しながらも自分の信じる道を貫いた人間がいるんだって、そう言ってたっけな」

「わざわざその日に返しに行った理由は?」

「理由って言われても……。ちょうど冬休みになったところだったんで、キリがいいと思ったんじゃないっスかね」

「つまり、ただの偶然だと」

「そうっスよ。それ以外何があるんスか?」

 夏海が失踪の協力者だという可能性だよ。

 ……だが、少なくとも夏海の表情を見る限り、それはなさそうだな。

「それが9時半のことって言うのは間違いないのか?」

「そういわれたら困るんスけど……。この確認は、エントランスのロックのためだよね」

「そうだ。午後9時まで見澤が寮にいたっていうんなら、ちょっと面倒なことになる」

「だったら、やっぱり9時は過ぎてたと思うな。……もぐもぐ……。絶対にそうかと言われると自信ないけど……」

 断言はできないか。

 そりゃそうだろう。人間の記憶はあいまいなものだ。だが、あいまいでも信頼できないものじゃない。

 この場合、夏海の認識が齟齬をきたしているという判断を下すほうが無理だといっていいだろうな。夏海が見澤の部屋を訪れたのはエントランスがロックされた9時以降だと判断しておいていいだろう。

「部屋の中に見澤がいたという確認はしてないんだよな」

「どういうことスか?」

「見澤の姿を見たり、声を聞いたりしたってわけじゃない」

「そうっスよ。だから寝てたんだと思うんだけど……。あ、もうその時点で灯はいなくなってたってことが言いたいんだね」

「そうだ」

「でも、灯の失踪が発見されたときは部屋のドアが開いてたっていうんだよ。もう灯がいなくなっていたんなら、誰がドアを開けたんスか?」

「合鍵は?」

「寮の管理人さんは持ってると思う。でも、管理人さんが開ける理由もないっス」

「盗まれたとか、他の合鍵があるとか」

「盗まれたって……。そんな話は聞いたことないし、灯が合鍵作ったてのも聞いたことないよ」

「そうか……わかった」

「蒼輔、一体なにを考えてるんスか?」

「いや、なんでもないんだ」

 見澤の失踪が誰かの拉致によるものだった場合、部屋にいたのは別の誰かだという可能性がある。だが、根拠がない以上、そんな考えはあまり人に話すものじゃない。

「見澤が失踪した理由についてはどう思ってるんだ? 仲良かったんだろ?」

「うーん、わからないっスねー。さっきも言ったように、悩んでる様子もなかったし」

「悩みじゃなくても、いつもと違ったところはなかったのか? 新しい友達ができたとか、変な遊びにはまっていたとか……」

 失踪のもっとも多い原因は人間関係のトラブルだ。新しい人間関係について、他人にはいえないような悩みを抱えていたとしたら?

 変な遊びっていうのは、例えば博打のような裏社会に関係する遊びを差す。この場合、失踪が犯罪に巻き込まれた可能性があることを考慮している。

「思い当たらないっスねー。……ふう、ちょっとお茶飲も……。あ、そういえば灯、最近絵を描くのが楽しくなってきたって言ってたかな」

「絵、か」

「灯、美術部だったっスからね。やっとちょっとは上達してきたよって、いつかそう言ってたことがあったような気がする」

 うーん、失踪に関係あるかなあ。

 絵が上手くいかないっていうんならともかく、楽しいんなら失踪の理由にはなりえないと思うけど。

「新しく変わったことじゃなくて、逆にずっと以前のトラウマが呼び起こされたっていうようなことも考えられる。どうだ? どんな些細なことでもいいから、思いつくことはないか?」

「うーん、そういうことだったら、やっぱり私より穂乃歌のほうが適任だとは思うんスけどねえ」

「親友なんだよな。穂乃歌と見澤は」

「そうだよ。私、穂乃歌とも灯とも仲よかったけど、やっぱりあのふたりの仲ほどには親しくなかったと思う。ずっとべったりしてたっていうんじゃないけど……なんか端から見てて信頼しあってるなって、そう思ってたから」

「穂乃歌と見澤の間にトラブルがあった可能性は?」

「は……? なんスか、それ」

「怒るなよ。俺だって聞きたくないんだ。でも、疑える可能性は全部疑わなくちゃならない」

「あのふたりに限ってそんなことはなかった。それは断言できるっス」

 そうか。……そうだろうな。

 俺だって穂乃歌が見澤を心配している様子が、嘘だなんて思いたくない。

 やれやれ、勘弁してほしいな。手がかりを掴むどころか、どんどん手詰まりのほうへ近づいているような気がしてきた。

「……あー、食った食った、ごちそうさまでしたっと。じゃ、申し訳ないっスけど、そろそろいいかな。時間あまり取れなくて、本当にごめんね」

「いや、ありがとう。かなり参考になったよ。あ、あと一つだけ。六寮のカードキー、見せてくれないか?」

「別にいいけど? ……はい」

「ふむ。見たところ、ただのカードって感じだな。複製するのは難しいか」

「それは無理っスよ。最新の技術で作ってるってことだったから」

「そうか……ありがとう。じゃあな」

「蒼輔、頑張ってね。灯、見つけ出してね。じゃ」

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