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温かい拒絶

作者: P4rn0s

今は話しかけないでほしい。

そう言われたとき、私は少しだけ息を止めた。拒絶されたわけじゃないと分かっているのに、言葉はいつも刃物みたいに形を持ってしまう。


でもその次に続いた言葉が、すべてを柔らかくした。

けど、そばにはいて。

その一言は、触れない手のぬくもりみたいだった。


同じ部屋にいる。

時計の針が進む音と、外を走る車の音と、あなたがときどき小さく呼吸を整える気配。会話はないのに、存在だけがはっきりと重なっている。


私たちは向かい合わない。

視線を交わすと、きっと何かを求めてしまうから。励ましとか、共感とか、正解の言葉とか。今はそれが、どれも少しだけ重たい。


だから私は、ただそこにいる。

スマートフォンも触らず、本も読まず、あなたの沈黙を乱さないように、できるだけ音を立てずに。


不思議なことに、寂しくはなかった。

孤独と違って、この静けさには輪郭がある。あなたがいるという事実が、空気を形作っている。


昔は、沈黙が怖かった。

言葉が途切れた瞬間に、関係まで途切れてしまう気がして、無理に話題を探していた。笑わせようとしたり、理解者でいようとしたり。全部、相手のためというより、自分が安心するためだった。


でも今は違う。

話さない選択が、こんなにも優しいことを知ってしまった。


あなたがふと体勢を変えた音に、私は少しだけ安心する。生きている、ここにいる、それだけで十分だと思える。


きっとこの関係は、説明すると壊れてしまう。

恋人とも、友人とも、家族とも、どこか少し違う。ただ「離れない」という約束だけが、言葉にならずに置かれている。


今は話しかけないでほしい。

けど、そばにはいて。


その願いを叶えられる距離にいられることが、たぶん奇跡なんだと思う。何もしない勇気と、何も求めない信頼が、同時に存在している。


私は今日も、あなたの隣で黙っている。

そしてこの沈黙が、いつか言葉よりも深い記憶になることを、静かに知っている。


こんな関係が、いちばん素敵だと思う。

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