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第1章 ①

何とかGW中に更新ができました・・・

今回は長めに作ってあります。

通常はこの半分くらいの長さになるかと・・・

それでは、本文へどうぞ。



ピピピ・・・ ピピピ・・・


月曜日の午前6:30。静かな部屋に目覚まし時計の音が鳴り響いた。

夢の途中で起こされたため、もう少し寝ておきたいと内心思いながら、しぶしぶ目覚まし時計の音を止め、布団から出る。

ここ最近ずっと同じ夢を見る。

見覚えのある校門、見覚えのある廊下、見覚えのある体育館、その裏にある見覚えのある桜の木、そしてどこか懐かしい少女の後姿と交わした言葉。

これらは全て僕の中学校2年生の時に『本当にあった出来事』なのだろう。

でも、その少女の顔はなぜか見れない。後姿ははっきり見えるのに顔だけはぼやけて見えない。

その少女以外のことは全てはっきりと分かるのにどうしてもその少女だけは分からない。

理由は簡単。僕が記憶喪失だからだ。

僕は高校受験を終え、家に帰宅する途中で車にはねられたらしい。

肋骨が全て折れ、足の大腿骨も複雑骨折。そして心肺停止。さらに出血もひどかったらしい。

病院に運ばれた時、親が医者にこう言われたそうだ。


―――――生存する確立はよくて3%です。


親はこれを聞いた時、全てが終わったと思ったそうだ。

でも、結論的に僕は奇跡的に生き延びた。

はねられた場所が奇跡的に病院の目の前だったからだ。

あと5分遅ければ確実に死んでいたらしい。

生き延びたのは生き延びたけどその代わりに記憶を失ったのだ。

僕が事故にあってから初めて目を覚ました時はびっくりした。

知らない場所で、知らない人が、知らない自分の目の前で涙を流していたからだ。


「涼・・・ よかったぁ・・・ ホントによかった・・・」


『涼』とはいったい何なのか分からなかった。

そしてなんでこの人たちは自分の目の前で泣いているのか分からなかった。

分からないことが多すぎて僕はこんな事を言った。


「あの~・・・僕の目の前で泣くのは止めてもらえませんか?」


知らない人の涙がピタリと止まった。潤みきった目で僕の方を呆然と見る。


―――――この子は何を言っているのだろう?・・・きっと私たちをからかっているんだわ!!


たぶん、そんな事が頭の中に駆け巡ったのだろう。

知らない人たちは苦しそうに笑いながら僕に話し掛けた。


「冗談は止めなさい、涼。 冗談にもほどがあるわよ?」


「あの、さっきから気になってたんですが・・・『涼』って僕のことですか?」


「「「っ!?」」」


目の前にいる知らない3人の人の顔からあの苦しそうな笑顔も消えた。

先ほどまで僕と話していて、僕が目を覚ました時に涙を流していた女性から再び涙がこぼれ始める。

先ほど流した涙と正反対の意味を持つ涙を。

そこから記憶喪失と診断されるまではさほど時間を要しなかった。

何か分からないが大層な医療機器を複数使って調べられた。

後から知ったのだが、記憶喪失になって初めて口にする言葉といえば『ここはどこ? 私は誰?』だった。今思えばそう言うべきだったのかな?と少し後悔していたりする。


あと、学校の風景に見覚えがあるのは退院してから一度、学校に行ったことがあるからだ。

学校に行ったとき、僕の担任だったらしい先生に泣きながら抱きつかれた。

その先生は新任の若い女性の先生だったのでものすごく恥ずかしかった。

その後、僕は夢で出てくる桜の木下に行った。

あの時からだ。僕があの夢を見るようになったのは。

僕の台詞は聞こえるのに彼女の台詞はいつも漫画の台詞のように声が聞こえない。

そして毎回、彼女の名前を聞く前に夢から覚める。


僕にとって彼女はどのような存在だったのだろう?


何で僕はこの事だけ思い出せたんだろう?


そして、彼女はいったい誰なんだろう?


そんな疑問を抱えつつ、今日は高校の入学式。

僕が寝たきりになっている間に合否発表があったらしく、一生で一度の合格番号掲示に行けなかったことが少し、心残りだ。


「涼~ 早く起きなさ~い!! 入学式に遅れるわよ~」


「今、起きたからすぐ行く!!」


これからどんな高校生活が始まるのだろう?そしてどんな人がいるのだろう?

そんな期待と不安を抱きながら僕は朝食を食べるべく、キッチンに向かった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


入学式の会場に行くとそこには僕と同じく、今日から入学する生徒たちやその父兄方であふれていた。

みんな中学校時代の友達を見つけては楽しそうに話していた。

僕の通っていた中学校からも数名、この学校に入学するらしいが、記憶が無いので仕方がない。さらに事故のときに携帯電話もつぶれたらしく、誰からの連絡も来ていない。一応、卒業アルバムの顔写真に目を通したり、親から仲の良かった友だちの話は聞いている。でも、残念ながらどの生徒がこの学校に入学したかは僕の幼馴染以外分からなかった。

その幼馴染も運悪く、季節はずれのインフルエンザにかかって入学式には来れない。

なんでも、とても明るく、活発な子だったらしくとても可愛そうだ。

ちなみにクラスは同じだったようだ。

さっきクラス発表の場所で同じクラスの欄に名前があったから間違いないと思う。

クラスはどこにでもあるような何の変哲もない殺伐とした教室だった。少し違うといえば、今年から黒板をホワイトボードに変えたらしい。まだ一切何も書かれていないようでマーカーの跡も残っていない。

僕は何もすることが無いので先生が来るまで机に伏せて寝ることにした。


   ◇   ◇   ◇   ◇


中学3年生になると同時に私は転校した。

そこの中学校には1年しか通えなかったけど今までで1番転校するときに泣いたことを覚えている。

仲良くなった友だちとの別れも辛かったけど、1番辛かったのは『涼くん』との別れだった。

私が転校してきたときに1番始めに話したのが涼くんだった。

たまたま見つけた桜の木下で立っているとそこに涼くんが現れた。

私が何となく話しかけると向こうも何となく答える、そんな感じの始まりだった。

始まりはいつもと同じ・・・でも終わりは違った。

いや、終わりじゃない。経過が他の人とは違った。

私が困っていたら自分のことは後回しにし、私のところに来てくれた。

私が泣いていたら慰めてくれ、笑っていたら一緒に笑ってくれた。

私が特別というわけでもない。ただ、彼は自分より他人という人だった。

そんな彼に私は段々と惹かれていった。

結局、この想いは伝わらなかった。

転校してから私は、想いを何で伝えられなかったのかと後悔していた。

後悔してもし切れない日が続いた。

そんな時、私に思いもよらない幸運の女神が舞い降りた。

お父さんの転勤先が前の学校に近いところになった。

しかも、今度は10年は転勤しなくてもいいそうだ。

私はあの時、どれだけ喜び、はしゃいだだろう。たぶん、気が狂ったかのようだっただろう。

そして今、彼の目の前にいる。

1年間会う事を待ち望んだ彼が目の前にいる。

私の入学した高校に彼も入学してきた。

しかも、同じクラスにもなれた。

でも、私の女神は最後の最後に裏切った。

彼は私を見ても何も言ってくれなかった。

まぁ、少しはいろいろなところが成長したし、髪の長さも変わって、声変わりもしたと思う。


でも・・・涼くんならすぐに気がついてくれると思ってたんだよ・・・?


あの優しくて鈍感だった涼くんは気づいてくれると信じてたんだよ?


でも何で・・・何で貴方は私を見ても何も言ってくれないの?


私は貴方にとって1年で忘れるような、そんな存在だったの?


ねえ、お願い・・・何か言ってよ、涼くん・・・


『久しぶり、元気にしてた?』


『お前・・・あいつだよな・・・?』


『お前、雰囲気変わったなぁ』


何でも・・・何でもいいから私に話しかけてよ・・・


せっかく涼くんに会えたのに・・・こんなの・・・こんなの嫌だよ・・・



   ◇   ◇   ◇   ◇


机に伏せてから数分後、先生が教室にやってきた。

名前は松岡(まつおか) 藍葉(あいは)というらしい。

なんでも、今年から初めて担任を務めることになったそうで、何度もかみながら話していた。

年上なのにどこか微笑ましい。

今日はあまりすることが無かったらしく、自分の自己紹介と学校案内の紙、あと入学許可書なんかが配られただけだった。


先生も出て行き、クラスのメンバーたちも数人帰っていったので僕は自分も帰ろうと、配布物などをかばんにつめていた。


「やあ、夏木君。 久しぶり~ 元気だったかい?」


ふと後ろから話しかけられた。

振り向くとそこには髪を肩より少し長めに切って、少し茶色い髪をした瞳も茶色いボーイッシュな感じの少女が立っていた。今の僕には全く面識がないのだが、彼女の接し方からすると、僕の記憶を失う前の友だちらしい。そして僕が事故にあって記憶喪失になったことも知らないようだ。

僕が唖然としているのを見て彼女はため息混じりにさらに続けた。


「もしかして、私のこと忘れちゃった~?」


すみません。貴女どころか全ての記憶がありません。


「まったく、私があなたにあれだけのことをしてあげたのに・・・」


僕が記憶喪失だってことを説明したほうがいいのだろうか?


「いや、あの・・・どう説明すれば良いですかね?・・・え~」


「もう、またそんな風にとぼけて!! 夏木君はそんな敬語キャラじゃないでしょう?」


すみません。自分が昔、どんな人だったか分からないんです。っていうか敬語キャラって何ですか?


そして彼女は自分の手で顔を隠して鼻をすすりながら爆弾を投下した。


「大人の階段をのぼるのを手伝ってあげたのに・・・ 私は使い捨てだったの・・・?」


ピキッ!!


周りの雰囲気が一気に固まった。

そしてなぜか僕に物凄い殺意のこもった視線を浴びせられる。


いやいやいやいや・・・!!! 僕、そんな事知りませんって!! 僕、記憶喪失なんですよ!? ぅぅううう!! 何やってんだよ、記憶を失くす前の僕!!


「何、誤解をまねくようなことを言っとるんじゃ、ボケぇぇぇえええ!!」


静まり返った教室にツッコミの声が鳴り響いた。

その声の主は爆弾を投下した少女の頭を平手で叩いていた。

少女は涙目になっている。ああ、ちょっと痛そう。

さらにその声の主は僕のところにも近寄ってきている。手にどこから出したのか分からないハリセンを持って。

・・・やばい。記憶のないはずの僕の身体がなぜか危険信号を察知し、後ずさりを始める。

だが、すぐ後ろには教室の壁が立ちふさがっている。すぐに追い詰められた。僕はこの時ほど教室の壁を恨んだことはないだろう。

そして相手はハリセンを振り上げてこう言い放った。


「お前も何でツッコまんのやぁぁぁあああああ!!」


スパァァァァアアン!!


頭をハリセンでおもいっきり叩かれた。

痛い・・・。半分泣きそうになる。

それに、ツッコめと言われても記憶がないから嘘か真か分からないんですっ!!


僕がうずくまっていると声の主はなぜか親切にもあの少女の言った言葉の意味を教えてくれた。

僕に耳打ちで教えてくれたわけじゃない。大声でツッコミのように言った。


「大人の階段って、受験勉強を手伝っただけだろっ!! まぁ、確かに一種の大人の階段をのぼる手伝いだが、誤解を招く。 あと、俺の大阪の血が騒いで無意識のうちにツッコんでしまうからそういうのは止めてくれ!!」


どうやら彼は無意識のうちにあのような事をやってしまうそうだ。

彼自身、あまり人を叩きたくないらしい。あと、いつの間にか関西弁が消えている。

って言うかなんでみんな僕が記憶を失ったことを知らないの!?ちょっとひどくない!?


「いいじゃない別に!! 私、別に誰にも迷惑かけてないじゃない!!」


先ほど涙目になっていた少女はツッコんできた少年に噛み付いている。

いや、本当に噛み付いているわけではなくて、ただ言い争っているだけだ。


「いや、かけてるね!! 周りの空気が3℃は下がったね!!」


「そんなの、あなたの感覚でしょ!? 私は逆に3℃ぐらい上がったように思ったわ!!」


「それはお前に対する同情の目だぁぁあああ!!」


これ以上ここにいると巻き込まれそうだったので、僕は逃げるように教室を後にした。

家に帰ったらあの2人の名前を調べておこう。


   ◇   ◇   ◇   ◇


涼くんの様子が変だ。

私といた頃とは芯は全く変わってなくても、接し方が違う。

なんだかよそよそしい。

あの2人は涼と仲の良かった2人なのにまるで初対面のような感じだった。

あの2人の接し方からして、険悪な仲になったわけでもなさそうだし・・・

まぁ、私はあの2人とあまり面識がなくて、いつも涼くんから話を聞いてただけだからもしかしたらいつもあんな雰囲気だったのかもしれないけど・・・

もし違うとしたら、いったい涼くんに何があったのだろう・・・?


・・・まぁ、気のせいよ、気のせい。深く考えちゃいけないわ。

・・・明日は涼くんと話せるかなぁ?








終了です。

次の更新は5月中にできればしたいです。

まったりと更新していきますが、よろしくお願いします。

あと、できれば感想のほうもお願いします。


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