“それ”があるから、恋ができない。
私は、「おちんちん」がある自分が、大嫌いだった。
鏡の前でスカートを履いても、笑顔で「由奈ちゃん」って呼ばれても、
下着の中にある“それ”のせいで、すべてが嘘に感じてしまう。
だけどね、好きな人ができたの。
恋して、将来のこと考えるようになって。
そのときやっと、気づいたの。
「女の子になりたい」んじゃない。
私はもう女の子で、
ただ、身体が追いついてなかっただけ。
これは、わたしが“本当のわたし”に戻っていく、
痛くて、怖くて、でもすごく愛しい物語。
ねぇ、翔真くん。もしもわたしに“アレ”がなかったら、わたしのこと、好きって言ってくれた?
――言えるわけない。だって、わたし、まだ“全部”女の子じゃないから。
放課後の中庭。夕日が校舎をオレンジ色に染めている。スカートのプリーツを指先でなぞりながら、わたしは黙って翔真くんの横顔を見ていた。
「……茉白さんってさ、本物の女の子だったら、俺、たぶん好きになってたと思う。」
その一言で、すべてが壊れた。
茉白由奈、16歳。光彩学園の高校1年生。戸籍上はまだ“男”。でも、制服は女子用で、ホルモン治療も始めて2年目。
自分の中の「女の子としてのわたし」は、もうここまで来てる。
だけど、スカートの下にはまだ、“それ”がある。
見えないように、存在しないふりをして、鏡の前で何度も「なくなってほしい」って呟いた。押さえつけても、縛っても、そいつはずっと、わたしの中にある“嘘”を暴き続けてくる。
「もし、“おちんちん”がなかったら……」
声が震えた。わたしは、翔真くんをまっすぐ見つめながら言った。
「付き合ってくれる……?」
一瞬の沈黙。
翔真くんの目が、少しだけ揺れて、それから――
「うん。……たぶん、そうなると思う。」
そのとき、わたしの中で、なにかが決まった。
切ろう。わたしの中にまだある、“男の証”なんていらない。
好きな人の前で、胸を張って「彼女です」って言いたい。この身体を、心とちゃんと一致させて、“わたし”を始めたい。
でも、それは簡単なことじゃない。お金もかかるし、手術はタイだし、なにより怖い――術後の痛みも、血も、全部。
だけど、それでも。
「女の子になるためなら、なんでも耐える」
心の中で、何度もそう誓った。
その夜、ベッドでスマホをいじりながら、親友のなつきにメッセを送る。
《明日ちょっと、相談したいことある……。》
すると即レス。
《いいよ、泊まり来る?久しぶりに一緒に寝よー♡》
なつきは、わたしの秘密も全部知ってて、それでも「女の子同士でしょ」って笑ってくれる。たまに、胸がドキドキするくらい、やさしくて、近くて、かわいくて。
──そんななつきのを見るたびに、わたしは、女の子じゃない自分を呪いたくなる。