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11-2

 空が光ると同時に稲妻がトシに向かって落ちてきた。その一撃で防御の壁は全て粉々に壊れ、トシは地面に倒れてしまった。ハクトがすぐにトシの元へと向かったが、トシは気を失っていた。


「おい!しっかりしろ!」


「もう終わりか……もう少し骨がある奴かと思ったが」


 ハクトがトシを守るようにソルアに向かって剣を構える。ソルアはニヤリと口を動かした。


「勘違いするな。お前たちと遊ぶつもりはない」


「何だと?」


「私の傑作を取り返しに来ただけだ」


 シュウがミゼルの身体を抱きかかえ、いつでも動けるように身構えている。ソルアは、シュウの感情を見た。そして鬱陶しげに呟いた。


「なるほど。どうりでミゼルの力が弱まっているわけだ」


 ソルアは再び上空に手を上げた。再び雷雲が活発に動き始める。


「そこの男、私は今からお前に雷を落とす。お前は決して避けられずに死ぬ。ミゼルを置いて離れろ。ミゼルを道連れにしたくはあるまい」


 その時、意識が戻ったミゼルがシュウの顔に手を伸ばした。


「シュウさん?」


 シュウはミゼルの足をそっと地面に置いて立たせると、「僕です」と答える。ミゼルはシュウの首に手を回して抱きつき、そんなミゼルをシュウは力強く抱きしめた。


「私はまた人を殺してしまったの?」


「君のせいではありません」


「ミゼル」


と、ソルアが呼びかけた。


「私の元へ来なさい。その男の命を助けたいならば、自ら私の元へ来るのだ」


 ミゼルは少し顔を動かして声のした方に耳を向けた。


「あなたは?誰ですか?」


「私は、お前たちヤオト族が崇める神だ」


「神様?」


「そうだ。私の声を聞いたことがあるだろう?」


 それは、長が民の前で神に祈りを捧げた時に、天から聞こえて来た神様の声だとミゼルは気がついた。民はその声が聞こえると歓喜し、神の思し召しだとして、その言葉に従った。


 ミゼルは声の主に向かってゆっくりと頷いた。


「いい子だ。わかるだろう?お前がその男から離れないと、私はその男を殺さなければならないのだ」


「神様、お願いです。私を助けてください。私の呪いを解いてください」


「お前の呪いを解くことができるのは私だけだ、ミゼル。いい子だから、こっちに来なさい」


 ミゼルは、シュウに顔を向けた。目隠しをしているので、シュウの表情はわからない。ただ、自分を抱きしめていた腕から力が抜け、下におろされていくのがわかった。ミゼルは何かをシュウに言おうとしたが、何も言わないままにシュウの首から腕を下ろした。


「待て!あの男は神様などではない。天気を操るソルアだ!」


と、ハクトが叫んだ。


「シュウ!なぜ行かせようとするんだ!」


 あのソルアは、どちらにせよ僕に雷を落とすつもりだ……だからミゼルは僕から離すべきなんだ……シュウは一瞬、ミゼルに手を伸ばしかけたが、思いとどまるようにその手をギュッと握りしめた。ミゼルが俯きながらソルアの方に身体を向ける。


 そこにザンのけたたましい笑い声が響いた。


「ザン?」


と、ラグが怪訝な表情をザンに向けた。


「だって、可笑しいじゃないか。いや全く……嫌になるぜ」


 ザンはソルアを睨みつけた。


「ずっとおかしいと思っていたんだ、ヤオト族の住む地にばかり干ばつが起こったり、嵐が来るのを。ここからそんなに離れてないってのに。そんな災難の多い地域に追いやられたんじゃあ、ヤオト族がミュンアンを恨むのも無理はないってな。それが何だ?ソルアの術?天気を操る術で、呪いだの祟りだの神の恵みだのと人々に言わせてたっていうのかよ……笑わせるんじゃねえ……それでどれだけの人間が命を落としたと思っていやがる!」


 ザンがソルアに走り寄りながら、両手をブンッと振り下ろした。


 ザンの両手から無数の針が飛び出してソルアに向かった。ソルアは上空に向けていた手を下げてから、両手を合わせて風を操る術を出す。ソルアの手から出た風の渦は、ザンの針を弾き飛ばし、弾き飛ばされた針は風に乗ってザンに向かって飛んでいく。その速度は速く、ザンの身体に刺さりそうになったところを、ウォルフがザンに飛びついて逃れた。


「私は神だ。神に逆らうなど、罰当たりな者どもめ」


「そうか?」


と、ザンは逃がしてくれたウォルフの背中を感謝を込めてトントンと叩きながら、ソルアに向かって口角を上げてみせた。


「神様ってのに、実体があるとは思わなかったぜ。神殺しか……それもまた伝説になるってもんさ」


 その時、高速で回転しながら飛ぶ針がソルアの背後に迫っていた。ザンは、無数に投げた針のうちの何本かを別の軌道で飛ばしており、それらが大きな弧を描きながらソルアに向かって来ていたのである。


(仕留めた!)


 しかしザンが確信した瞬間に、針はソルアの首のすぐ後ろで止まり、ぐにゃりとへし折られ、地面に落ちた。


「なに!」


 驚くザンの耳元で、ウォルフが言った。


「影だ!あのソルアを守っている影がいる」


「ちょうどいい。退屈していたろう?遊んでやりなさい」


 ソルアが命じると、影の住人は大きな口を開けながらザンとウォルフに向かって行った。ウォルフはザンを無理やり脇に抱えると、素早く逃げ始めた。


「おい、何が起こっているんだ?」


 ザンがウォルフの腕の中で大いに戸惑っている。


「影の住人が追いかけてきてるんだ。おとなしくしてて」


 そんな二人の横に、牙のような物体がいくつも飛んできていた。

 

「お前、見えるのか?」


「見えるよ。例えるなら、あの雷雲くらいに巨大な蛇、みたいな顔をしてる」


「そいつは……見えない方が幸運だな」


「たぶんね!」


 ウォルフは、次々と飛んでくる牙を器用に避けながら逃げ続けた。





 

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