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4

 トシが寝ている部屋に戻ると、ルイは不機嫌な様子で布団に入り、すぐに眠ってしまった。


「酒に酔ったか」


と言うハクトに、シュウが「兄上」と話しかけると、ハクトはシュウの顔の前に手を出して話を止めた。


「この国で俺を兄上と呼ぶな。お前の素性がばれている以上、ユアンの息子が二人とも国を出たなどと知れたら、変な憶測が広まるかもしれない。俺のことは適当な名前……そうだな……ヤンとでも呼べ」


「村長の名前ですね、わかりました。それではヤン、先ほどの言い方は酷かったと思います。明日、ルイちゃんに謝ってください」


「酷い?何が?」


「これは世話係だ、と言われたではありませんか」


「お前の婚約者とでも言えば良かったか?そんなことを言ったらお前が困るだろうと気を遣ってやったんだぞ」


「あに……いや……ヤン、言い方です。言い方が良くありません。あれからルイちゃんの機嫌が悪くなったのに気付きませんでしたか?」


「そんなこと知るか。俺はこいつの機嫌を取りながら話さないといけないのか?」


「そうではありません。前にも言いましたが、相手の感情を逆撫でするような言い方は良くありません」


「言っておくが、俺はこいつが一緒に旅をすることに賛成した覚えはないからな」


「こいつって……せめて名前で呼んでください」


 しかしハクトは、シュウに背を向けて横になってしまった。ウォルフが部屋の隅でクスッと笑っている。

 シュウはため息をつきながらトシのそばに寄り、脈をとり熱を確認した。


「変わりなかったよ。ぐっすり眠ってる」


 ウォルフの言葉に、シュウは頷いた。

 その時だった。


「来たぞ!」


 邸宅の庭で誰かが叫んだ。


「奴らだ!」


 ハクトがむくっと起き上がり、横に置いていた剣を手に取った。


「ウォルフ、二人をお願いします」


と、シュウも立ち上がった。


 ハクトとシュウが邸宅から出て外を見ると、松明の炎が葡萄畑の丘の上から下までのあちこちにゆらめいていた。そしてそれらの松明は、丘の下の平地に集まっていくように動いていた。


「あそこだな」


 ハクトが駆け出し、シュウもその後に続いた。


 ハクトとシュウが松明の集まる場所に到着した時、円形に並ぶ男たちの間にどよめきが起こり、その輪が乱れた。ハクトとシュウがその間を縫って輪の中に入る。

 輪の中央には剣を構えた三人の若い男たちがいて、その者たちと対峙していた金棒を持った大きな男が、どさっと地面に倒れた。

 皆が「あっ…」と声を上げる中、シュウは躊躇なく倒れた男に駆け寄った。


「シュウ!」


と叫びながらハクトも後に続く。

 剣を持っている男たちの方を見向きもせずに、倒れている男の首元にシュウは手を当てている。ちょうど、シュウの背中側にいた男は、口角を上げて目を見開いた。 


「どうやら、また死にたい奴が来たようだ」


 そう言うと、背中を見せているシュウに剣を振り下ろした。

 通常であれば、そこにもう一体死体が転がるはずだった。男は背中を見せている相手に油断したわけでも、攻撃の速度が鈍っていたわけでもなかった。しかし男の剣先は空を切って地面に突き刺さり、それと同時にみぞおちに金棒がめり込まれ、男は意識を失いながら後方に吹き飛ばされた。  

 円形に並ぶ男たちから感嘆の声が上がり、中心にいる残りの二人は緊張した面持ちで身構えた。

 シュウは金棒を地面に置くと辺りを見渡した。大きな男の他にも三人の村人が倒れている。シュウは一人ずつ近づいては生死を確認し、三人とも息が絶えているのがわかると、怒りに身体を震わせながら、中央の男たちに向き直った。


「なんてひどいことを……あなたがたは、一体何のためにこんなことをしているのですか」


「こいつらが襲ってきたから戦ったまでのこと」


「葡萄畑を荒らしに来たのか?」


とハクトが言うと、周りにいる男たちから「丘の上の方の木をやりやがったんだ」と声が上がった。


「何のために?誰に頼まれた?」


 ハクトの問いに、二人の男たちは剣を構えた。


 



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