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 フオグ国の関所を超え、隣国ワンシャム国との国境となるフノス山の麓にトシが到着したのは、ハクトがシュウの胸ぐらを掴み、今にも殴りかかりそうになっている時だった。


「おい、何をしている」


 トシは馬から降りると、二人の間に入り、ハクトの腕をシュウから引き離した。


「いきなり喧嘩か?先が思いやられるな。旅はこれから始まるんだぞ」


「おい、トシ。あの女をなんとかしろ」


 ハクトが不機嫌に言い放った。


「女?」


 トシが見ると、標石の前にルイが立っていた。ルイは旅装束を身にまとい、腰に短刀をさしている。


「お前……なんだその格好……どうしてこんなところにいる?」


「私も行くのよ」


「な……」


 唖然とするトシに、ルイは口を尖らせた。


「シュウ先生は、いいって言ってくれたわ」


「いいと言った覚えはないんだけど」


と、シュウが苦笑いを浮かべ、頭に手を当てている。ハクトが舌打ちする音が聞こえ、ウォルフはにこにこしながら皆の様子を眺めていた。


「何を馬鹿なことを。遊びじゃないんだぞ」


「わかってる」


「おい、シュウ」


と、トシはシュウの首に腕をかけて自分の方にぐっと引き寄せると、シュウの耳元で小声で言った。


「お前、ルイとその……そういう関係なのか?」


「そういう関係?」


「結婚の約束をしてるとか」


「まさか。何もないよ」


「じゃあ、どうしてついて来たんだ」


「行きたいって言うから。リンビル先生も連れていきなさいって」


「いや、だからといって、こんな旅に」


「俺は認めん」


と、ハクトがルイを睨みつけて言った。


「足手まといだ」


「自分の身は自分で守ります」


と、ルイが短刀に手を当てながらハクトに言った。


「剣術の稽古はしていましたから」


「帰れ。足手まといだと言っている」


「足手まといかどうか、試してみますか?」


と、ルイが短刀の柄をつかみながらハクトに近づいた。それを見て、トシはルイの前に、シュウはハクトの前に立ちはだかった。


「やめとけ、ルイ。ハクトに冗談は通じない」


「冗談ではないわ。知ってるでしょ、トシ。私の父は元将軍。その父に幼い頃から鍛えてもらっていたのよ。私があなたをいじめっ子から助けてあげてたの、覚えてるでしょう?」


「あのなぁ…何歳の時の話だよ」


と、トシは顔を歪めた。


「多少剣術ができたところで、ハクトに敵うわけないだろ」


「そんなことは分かってる。私がどれほど戦えるか試してみる?って言ってるの」


「やめとけって。ハクトは手加減しないぞ」


「兄上も、もう少し穏やかに話せませんか?」


とシュウが言うと、ハクトは顔をしかめた。


「俺はいつも通りだ」


「そうですが……もう少し相手のことを思って話してください。わざわざ相手の感情を逆撫でするような言い方は良くありません」


「俺はあの女のことを思って言っているんだ。こんな旅について来たら、命の保証はないんだぞ。お前の方こそ、大事な女なら連れてくるな」


「私が勝手についてきたんです。先生を責めないでください」


「今すぐ帰れ」


「帰りません」


「ねえ」


と、それまでにこやかな表情で皆を眺めていたウォルフが、横にいるトウの頭を撫でながら言った。トウはすっかりウォルフの存在に慣れた様子で、ウォルフの横で座っている。


「僕はルイさんにいてほしいな。だって、こんなに美しい人と毎日一緒にいられるなんて、幸せなことでしょ」


 ウォルフの言葉に、ルイは少し嬉しそうな顔をして短刀から手を離した。


「ルイさんは充分に強そうだから大丈夫だと思うけど、もし危ないことになったら僕が守ってあげる。それでも駄目かい?」


 トシは口を開けたまま呆然とウォルフを見つめ、シュウはにこりと微笑み、ハクトはより一層険しい顔でウォルフを睨みつけた。


「面白い兄弟だ」


と、ウォルフは笑った。


「反応は全く違うけれど、三人とも心の中ではルイさんを守るのは自分だと思っている」


「おい……」


「まさか……」


と、トシとハクトが同時に言って顔を見合わせ、シュウは笑った。


「そうかもしれないね、ウォルフ。君はまるでリンビル先生のように、何でもお見通しだ」


「見た目は十八歳でも、本当は六百五十九歳なんですものね」


と、ルイが言うと、ウォルフは頷いた。


「でもリンビル先生には敵わない。ルイさんの同行に賛成したのも、やっぱり意味があったんだ」


「どんな意味があると言うんだ」


 ハクトの問いに、ウォルフはにこっと笑って答えた。


「いずれ分かるよ、きっと」

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