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「わかりました。そういうことでしたら、ファジル殿はここで命を落とされた、ということにいたしましょう」
ジニア国軍総帥は、もぬけの殻となった寝床を見ながら言った。寝床には、茶褐色の髪の毛がひと束置かれていた。ファジルが自分の髪を切り落としたものと思われた。
「助けていただき、ありがとうございました」
と、ユアンが総帥に頭を下げた。
「ユアン殿、おやめくださいませ。せめてもの恩返しでございます。しかし、ファジル殿は……」
と言いかけた総帥は、気まずそうに口をつぐんだ。
「どうされましたか?」
総帥は、ユアンに一歩近づくと、声を落として言葉を続けた。
「わが軍にもソルアがいるのですが、その者が申すには、彼は非常に強い力を持つソルアだというのです。このように姿を消したり突然現れたりなどという能力は、並大抵のことではないと。貴国がソルアの粛清をおこなっていなかったら、きっと彼は貴国に益をもたらす人物となったことでしょう。残念でなりません」
ユアンは頷くと、深いため息をついた。そして髪の毛の束を手に取ると、それを大事に紙に包み、懐にしまった。




