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3

 ユアンが次にファジルに会ったのは、戦場だった。


 フオグ国軍がジニア国とヒバ国との境界付近に到着した時、多勢なヒバ国軍に対してジニア国軍は劣勢にあった。しかしフオグ国軍が援護に加わると一気に形勢が逆転、ヒバ国軍の総帥をユアンが仕留めたことでヒバ国軍は撤退するに至った。


 ヒバ国兵士の間で撤退が叫ばれる中、ジニア国軍に囲まれていた一人のヒバ国の兵士が、ジニア国軍総帥に向かって矢を放った。しかしそれは普通の矢ではなかった。総帥の背後の空間に突然現れた三本の矢が、意思を持っているかのように総帥へ矢尻を向けて飛んでいったのである。

 そのヒバ国兵士は、ソルアだった。

 ジニア国軍総帥は、背後から迫る三本の矢に気付いていなかった。ユアンは気付いたものの、間に合う位置にいなかった。


「避けろ」


というユアンの声が周囲に響いた時、総帥の背後に突然現れたファジルが、その背に矢を受けた。


「ファジル!」


 ファジルに駆け寄りながら、ユアンは聖剣を鞘から抜き、光に寄ってきた影の気配ごとヒバ国の兵士を斬った。耳障りな音が辺りに散っていった。

 ファジルはうっすらと目を開けた。そして、駆け寄ってきたユアンに向かって微笑んでみせた。


「これで、良いのです」


「何を言う……死んではならぬ。アリアを一人にするつもりか?」


 ユアンがファジルの恋人の名前を口にすると、ファジルは悲しそうに首を左右に振った。


「これで、良いのです。私がいれば、アリアは不幸になるだけです」


「ファジル……」


「ユアン殿」


と、ジニア国軍総帥が声をかけた。


「はやくこの方を、わが国の救護小屋へ。腕の良い軍医がおります。命の恩人を、決して死なせはしません」


 総帥の指示でファジルは救護小屋へ運ばれ、治療を受けた。矢は急所をはずれており、なんとか一命を取り留めることができたのだった。


「なぜ生きているのですか、私は」


 救護小屋で目を覚ましたファジルは、見守っているユアンにそう言った。


「自ら死を選んではならぬ。たとえ運命が苦しいものであっても、決して諦めてはならないのだ」


「いいえ、ユアン様。私はもう消えてしまいたいのです」


「一緒に国に戻るのだ、ファジル。俺が何とかする」


「どうにもなりません、たとえユアン様であっても。死んではならないとおっしゃるのであれば、死を選んだりは致しません。しかしせめて、私はここで死んだことにしてください」


「アリアをどうするつもりだ?」


「アリアのために、私は帰らないのです。私の不幸を、彼女にまで背負わせたくないのです。死を選ばないと誓います。ですからどうぞ、私はここで死んだことにしてくださいませ。お願いいたします、ユアン様」


 ファジルの必死な形相に、ユアンは頷くしかなかった。

 するとファジルは安心したように目をつむり眠った。そうして何日か眠り続けた後、忽然と姿を消したのであった。

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