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ハクトのために胃腸の薬を作った後、シュウは睡魔に襲われるままに身体を横たわらせた。カインの記憶を受け取ってからというもの、悪夢にうなされることが多く、寝不足が続いていたのだ。
この時も、夢にカインとユマが出てきてハッと目を覚ましてしまったが、そんなシュウをそっと抱き寄せ、子守歌を歌うミゼルの腕の中で、シュウは安らぎを感じながら再び眠りに落ちたのだった。
シュウが目を覚ましたのは、ハクトが出発してから数時間後のことだった。添い寝しているミゼルの頭を抱き寄せるように腕を回すと、ミゼルがすぐに目を開けた。
「シュウ、目が覚めたのね」
「ごめん、起こした?」
「寝てなかったから大丈夫。よく眠れた?」
「うん。久しぶりにぐっすり眠れたよ」
「良かった」
と、ミゼルは身体を起こした。いつも通りに……シュウに心配させないように……きっとみんな帰ってくるから大丈夫ってルイさんも言っていたし……いつも通りに……そうミゼルは心の中で自分に言い聞かせていた。
そんなミゼルの表情を、シュウはじっと見つめている。
「お腹すいたでしょう?シュウ、朝から何も食べていないから。ルイさんがおいしい物をたくさん作ってくれているの。食べに行きましょう」
シュウは頷きながら身体を起こした。しかしすぐに怪訝な表情を浮かべると、首を左右に動かした。
「どうしたの?」
「兄上は?隣にいる?」
「あ……え……っと……」
言葉に詰まるミゼルを見て、シュウは立ち上がると隣の部屋へ向かった。布団はあったが、ハクトの姿はなかった。
「あの……シュウ、ハクトさんは具合が良くなって、今はお出掛けしているの」
「こんな時間に?どこへ?」
「あ……あの……」
「トシは?」
「トシさんは、町をみてくると言って影の世界に入って……」
「ウォルフは?」
「お……お買い物に……」
そう言って俯いたミゼルを、シュウはぎゅっと抱きしめた。
「ミゼル」
「はい」
「本当のことを教えてほしい」
「え?」
「僕が精神的に不安定だから真実を言うなと、誰かに言われたんじゃないかい?兄上かな?でもミゼルは何かを恐れている。心配でたまらないと思っている。僕にはわかる」
ミゼルは何も言えずにシュウの胸に顔をうずめた。
「確かに今はカイン殿の記憶に戸惑っている。でも僕は嬉しいんだ。カイン殿が僕の中で生きているような気がするから。僕に何かを訴えてくれている気がするから。だから僕はカイン殿の記憶を全力で受け止める」
シュウが「ミゼル」と呼ぶと、ミゼルは顔を上げた。シュウはミゼルの頬に自分の頬を当てる。
「君がいるから僕は大丈夫。でも不安に震える君を放っておくことなんてできるわけがない。お願い、教えて。何があったのかを」




