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2

 トシとファジルは、破壊されずに残っていた居間に移されていた。 


 ()()ソルアの悪意が消滅してから五日後、行方不明になっていた船が無事に戻ってきたという知らせを受けたアルマがお礼の祈りを捧げていた頃、トシは目を覚ました。


 トシは静かに深呼吸しながら、ゆっくりと瞬きをしている。ルイがトシの顔を覗き込んだ。


「トシ、私がわかる?」


 トシは頷きながら右手を伸ばし、ルイの頬に触れた。そこにルイがいることは、トシにははっきりと分かっていた。


「わかる」


「良かった。このまま目を覚まさなかったらどうしようって……」


 トシの顔はルイに向いていたが、視線は少しずれていた。ルイは涙をぐっと堪えながらトシの右手を両手で握った。


「父さん……?」


と、トシが顔を左に動かす。


「ええ、隣にいるわ。意識はまだ戻っていないの。傷の縫合も成功したのだけれど、高熱が続いてる。薬草が足りなくて、今、シュウ先生が薬草を探しに行っているところよ」


「他のみんなは無事、なんだな?」


「ダイチさんも生きていたの。みんな無事。だから安心して」


「どうやって、あいつを倒したんだ?」


「シュウ先生が炎の剣で」


「炎の剣……闇の炎?」


「そうよ」


と、ルイは頷いた。


「先生の強い愛情が闇の炎に届いたんだって、アルマさんから聞いたわ」


「そうか……ついに……闇の炎を手に入れたんだな」


「これでナバルを倒せるのよね?」


 トシは何も答えなかった。ただ、揺らめく複雑なルイの感情を見つめていた。


「これで良かった……そうでしょう?」


「ああ」


 トシは今度は左手を伸ばすと、ルイの髪を触った。


「ルイ……言えてなかったんだけどさ……俺…………ごめん」


「何?どうして謝るの?」


「ごめん。俺の目、見えなくなってしまったんだ」


 ルイはトシの右手を握る手にぎゅっと力を入れた。


「わかってる。でも謝ることじゃないでしょ?」


「だってさ、俺……ルイに迷惑かけるだろ?」


「迷惑だなんて思わない。トシが嫌だと言っても、私はずっとそばにいるから」


 ルイはトシの胸に顔をうずめた。トシは両腕をルイの身体にまわし、そっと抱きしめる。

 

「ひとつだけ、後悔していることがあるんだ」


「何?」


「見えている間に、ちゃんと言っておけば良かったなって……ルイに……綺麗だよってさ」


「なによ、急に」


 涙を頬に伝わらせながらルイは笑った。


「いつでも言ってくれたらいいじゃない」


「見えないくせにいい加減なこと言わないでとか言いそうだろ?」


「そんな意地悪なこと言わないわよ」


「本当に?」


「本当」


「じゃあ、もうひとつ、いい?」


「何?」


「ルイを愛してる」


 ルイの目から涙が溢れ出た。


「もう…………いい加減なこと言わないでよ」


「ほら」


と、トシは笑った。


「なによ、トシが急に素直になるのがいけないのよ」


 二人は笑いながら泣き、泣きながら笑った。そしてぎゅっと抱きしめ合った。



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