第91話 慰めの言葉
お兄さんであるロッゾさんとシッドさんまでもシーラさんを応援していたし、ブリタニーさんが少し可哀想だったけど、私も流石にシーラさんを応援してしまった。
ブリタニーさんは最後まで残らずに帰ってしまいそうな雰囲気があるため、絶対に引き留め、良い思い出として帰ってもらいたいところ。
「勝者、シーラ。……この期間でまた更に腕を上げたな」
「ドニーさんに完敗したのが本当に悔しかったので、密かに特訓をしていました。ブリタニーさんもありがとうございました。一撃が重くて怖かったです」
「全くもって当たる気がしなかったよ。……強かった。それと、悪気はなかったけど馬鹿にして悪かったね」
「いえ、良い人生を送らせてもらっているのは本当ですので」
そう言ってから、私の方を見て笑ったシーラさん。
多分、今のことを言ってくれたのだと思うけど、嬉しすぎてニヤけてしまう。
とにかく、一触即発の雰囲気だったが握手で終わって良かった。
「佐藤さん、勝ちました!」
「シーラさん、お疲れ様でした。本当にかっこよかったです」
「ふふ、ありがとうございます。次も勝ちますのでまた応援してください」
「はい。全力で応援します」
さっきまでかっこよかったのに対し、戻ってきた時は可愛いというギャップが凄まじい。
私はシーラさんをたくさん褒めてから、姿を消してしまっているブリタニーさんを探すことにした。
応援をしなかったロッゾさんとシッドさんに怒っている声は聞こえたんだけど、今は姿が見えない。
帰ってしまっていたら嫌だなと思いつつ探していると――見つけた。
……いや、見つけてしまったという言葉の方が正しいか。
ブリタニーさんはルーアさん達の家の後ろで、うずくまって泣いていた。
見なかったフリをして立ち去ることも考えたけど、流石に見てしまったら声を掛けざるを得ない。
「ブリタニーさん、大丈夫ですか? どこか痛いところでもあるんですか?」
「――ッ! な、なんで佐藤がいるのさ!」
「ブリタニーさんの姿が見えなかったので、探しに来たんです。帰られたら嫌だなと思いまして……」
「帰る訳ないだろ! ……くっそ、情けないところを見られてしまったね。別に痛いところなんてないよ。完璧にやられすぎて悔しかっただけさ」
目をぐしぐしと雑に拭いたブリタニーさん。
目は真っ赤になってはいるものの、どこか怪我をしたとかではないみたいで良かった。
「そうだったんですね。体も無事で、帰るつもりもないみたいで良かったです」
「何も良くないよ。……長年冒険者をやっていて、身内大会で一回戦負けなんて恥ずかしくてしょうがない」
「慰めにはならないと思いますが、身内大会でもレベルは高いと思いますから。シーラさんは元Aランク冒険者のドニーさんに勝っていますし、これから控えているスライムのライムもドニーさんには勝っています。それに勇者の4人も参加していますし、この後の試合を見れば負けたことが恥ずかしいなんて思わなくなると思いますよ」
レベルが高すぎたというのもあるし、ブリタニーさんは初戦の相手が悪かったと個人的に思う。
シーラさんは私的に優勝候補だし、2回戦で当たる美香さんともきっと良い試合になるはずだからね。
「……随分と仲間の評価が高いね」
「もちろんです。みんなが凄いことは私が一番知っているので。……あっ、ブリタニーさんも凄かったですよ?」
「取って付けたような誉め言葉はいらないよ。……ただ、慰めてくれてありがとうね。それじゃ、戻って見学をするとしようかね」
「そうしましょう。大会が終わったら本当に美味しい料理も作りますので、今日来たことを絶対に後悔させません」
「美味しい料理かい。それは楽しみだね」
そう言ったブリタニーさんの表情は笑顔であり、私は心の底からホッとする。
それにしても純粋な笑顔は可愛らしいな。
「――あっ、泣いていたことはクソ兄貴たちには内緒にしていてよ! 知ったら絶対に馬鹿にしてくるからね!」
「大丈夫です。ロッゾさん達だけでなく、誰にも言いふらすつもりはありません。それじゃ戻りましょう」
ということで、私はブリタニーさんと一緒に試合会場に戻ることにした。
続く第7試合はスレッド対ベルベットさん。
探しに来てしまったことで見られるか分からないけど、きっと良い試合を行ってくれているはずだ。
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