第90話 マリオネット
第5試合は美香さん対ポーシャさん。
ここは波乱とかもなく、一切危なげのない戦いで美香さんの勝利に終わった。
美香さんは性格的に無茶苦茶な戦いをしそうだと思っていたけど、ここまでで一番隙のないシンプルな強さを見せてきた。
スキルの使いどころも完璧だったし、何というか……ファンタジー世界での戦い方を熟知しているといった感じ。
美香さんは漫画やアニメも見ていたって話だったし、その知識から色々と得ているのかもしれない。
何はともあれ、ポーシャさんが可哀想になるくらいの完勝だった。
そして第6試合はいよいよシーラさんが登場する。
相手はブリタニーさんだけど、隙を見せなかった美香さんとの試合は面白くなりそうだし、是非ともシーラさんには勝ち上がってほしい。
「シーラさんの番ですね。……私が緊張してきました」
「ふふ、なんで佐藤さんが緊張しているんですか。大丈夫ですよ。ここは確実に勝ってきます」
「本当に頼もしいです。頑張ってください。応援しています」
「ありがとうございます。佐藤さんの護衛として、恥ずかしくない戦いをしてきますね」
シーラさんはそう言いながら小さく微笑むと、試合会場へと歩いて向かっていった。
対戦相手のブリタニーさんは既に待っており、やる気満々の様子で木槌をブンブンと振り回している。
やはり兄妹なだけあって、扱う武器は一緒なのか。
……いや、兄妹というよりかは、ハンマーのような鈍器がドワーフにあった武器なのかもしれない。
「あんたがアタシの相手かい。……ふん、華奢で美人。さぞかし良い人生を送っていそうだね。あんたには負けないよ」
「初めまして、シーラと申します。私から言わせてもらえば、ブリタニーさんの方がよっぽど羨ましい人生を送っていると思いますよ」
試合開始前から両者火花が散っている。
シーラさんは以前まで、戦闘職の方に対して嫉妬のような感情を抱いていたからな。
今はそこまで強くは思っていないと思うけど、それでも“良い人生を送っている”と言われ、少しカチンときた様子。
「お互いに少し離れろ。それじゃ早速だが始めるぞ」
「いつでもどうぞ」
「アタシもいつでも大丈夫だよ」
「それでは――開始!」
ドニーさんの合図で試合が開始された。
リーチの長さで不利がある分、ロッゾさんと同じく間合いに入るまでは動かずにいると思っていたんだが、ブリタニーさんは木槌を構えたまま突っ込んで行った。
動きも速いし、まるで弾丸のような感じ。
攻撃を受けることを前提に、強烈な一撃を浴びせようとしているように見える。
まさに肉を切らせて骨を断つ――戦法。
頭部に当たったとはいえ、木槌でジョエル君を一撃で仕留めたところを見ているためヒヤヒヤする。
ブリタニーさんは本職だし、ロッゾさんよりも強力な一撃を放つことは火を見るよりも明らかなのも怖い。
私が肝を冷やしている中、当の本人であるシーラさんは氷のように冷静に、ブリタニーさんの動きを観察しているように凝視している。
全てを見透かされそうな瞳に、今度はブリタニーさんの立場になって肝が冷えてくる。
「焦りの顔一つないのかい。不気味だねぇ!」
そう言いながらも、満面の笑みで勢いを殺さずに突っ込んで行ったブリタニーさん。
あっさりと自分の間合いに入り込むことに成功したブリタニーさんは、シーラさん目掛けて木槌を振り回していく。
鈍い風切り音がこちらまで聞こえるほどの威力で、地面に当たった時の衝撃まで感じるほど。
ただ――シーラさんには当たらない。
完全にブリタニーさんの間合いでありながら、威力はさることながらスピードも申し分ない。
その上で考えさせる暇も与えない連撃なのに、平然と躱し続けるシーラさんといった構図。
「シーラ! 絶対に避け続けろ! 当たったら負けるぞ!」
「華麗な体捌きだな。シーラ、頑張れよ」
「――クソ兄貴ども! 覚えてろよ!」
攻撃が一切当たらずにイラつき始めている中、ロッゾさんもシッドさんもシーラさんを応援しており、そのことに対しても怒りのボルテージが上がった様子。
怒りが力に変わったことで、威力とスピードが増したものの、その分攻撃が単調になってしまったようで――。
「攻撃が雑になりましたね。まずは一発当てさせて頂きます」
そんな言葉と共に、完璧なカウンターを食らったブリタニーさん。
この一発を取り返そうと更に躍起になったことで、もう試合のペースは完全にシーラさんが掌握した。
ブリタニーさんが攻撃を行う前に避けているような感じでさえあり、私の目にはブリタニーさんがシーラさんに操られているマリオネットに見えてきた。
それほどまでに完璧に攻撃を読み切っており、その後あっさりと2発の攻撃をクリーンヒットさせたシーラさんの勝利で試合は終了した。
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