第89話 センス対キンニク
別ブロックへと移り、1回戦第3試合はロッゾさん対ジョエル君。
身長はジョエル君の方が若干大きいが、体のゴツさがまるで違う。
筋肉量だけ見てしまうと、ジョエル君に勝ち目がなさそうに思えてしまうが……筋肉で勝敗は決まらない。
入団できるのは15歳からという制限がある中、13歳という年齢で王国騎士団に入団した天才だし、実力通りに戦うことができればロッゾさん相手でも勝てる可能性はあるはず。
「おい、ジョエル。絶対に負けるなよ」
「は、はい! か、勝ちます!」
「おいおい! 試合前からそんなガッチガチで大丈夫なのかよ! 俺は手加減できねぇぞ?」
「だ、大丈夫です! よろしくお願いします!」
「おう! いっちょよろしく頼むぜ!」
同じ手と足が一緒に出ているし、試合前から緊張しているのが伝わってくる。
一方のロッゾさんは余裕綽々といった様子だし、勝利はロッゾさんで固いかもしれない。
ちなみにジョエル君は片手剣で、ロッゾさんは木槌を持っている。
このレギュレーションでは木槌は不利な気もしてしまうが、他の参加者に比べて体格で劣る以上、パワーで勝負するしかないからこその選択なのかもしれない。
ロッゾさんの妹であるブリタニーさんも、自分の体以上の大剣を背負っていたし、ドワーフはパワーに自信がある種族なのだと思う。
「それでは――開始!」
ドニーさんの試合開始の合図と共に、まずはジョエル君が動きを見せた。
一気に距離を縮めていき、剣を振り上げて斬りにかかっている。
そんなジョエル君に対し、ギリギリまで引き付けながら木槌を合わせるタイミングを窺っているロッゾさん。
弓を引き絞るように木槌を構えており、力が込められているのが盛り上がった筋肉から見ても分かる。
一発でもまともに食らってしまったら、戦闘続行不能になってしまうであろう大味な技なのは確定であり、ジョエル君の試合前の緊張と相まって見ているこっちがヒヤヒヤしてきた。
ただ、緊張していながらもロッゾさんの一撃が危険ということは判断できているらしく、距離を取りながら攻撃を開始したジョエル君。
体捌きとかはセンスのある感じであり、木槌の当たらない距離から一瞬だけ間合いに入り込む動きは流石の一言。
このままあっさりとジョエル君が勝つかと思ったのだが……3回目の攻撃でまさかの足を滑らしてしまった。
ロッゾさんもそんな意図はなかったと思うんだけど、木槌を振ったタイミングと重なり、ジョエル君の側頭部に直撃。
鈍い音と共に地面に倒れ、誰かからの小さな悲鳴が聞こえた後に辺りは静寂に包まれた。
私も肝を冷やしたのだけど、ジョエル君はゆっくりと立ち上がって無事をアピールした。
「だ、大丈夫です。動けますので続行させてください」
「……ジョエルを戦闘続行不能と見做し、勝者はロッゾ」
頭を押さえながらも、そう宣言したジョエル君だったけど、ドニーさんが冷静に試合を終わらせた。
頭へのダメージは何があるか分からないし、ドニーさんの判断は正しいと思う。
少しごねていたジョエル君を説得し、回復魔法を扱える唯さんに手当てをしてもらうことにした。
「な、なんか変な空気にしちまってすまねぇ!」
「ロッゾさんは何も悪くありませんよ。とにかく1回戦突破おめでとうございます」
「そうだ。全てジョエルが悪い。俺にしても痛すぎる敗戦だったが、ジョエルには良いお灸になったはずだ。良い機会をくれてありがとう」
「いえいえ、後は何事もなければいいのですが……」
「大丈夫。ああ見えて頑丈だし、勇者パーティの回復術師の手当てを受ければすぐに回復する」
ドニーさんの淡々とした答えに、私も少しホッとする。
実際にジョエル君は元気にすぐ戻ってきてくれた。
ハプニングはあったものの、仕切り直して1回戦の続きを行っていくとしよう。
続く第4試合はマッシュ対将司さん。
進化したマッシュの登場だけど、相手は運悪く勇者の1人である将司さん。
タンクであるため、模擬戦には向いていないと将司さんは言っていたが、それでも勇者の力は伊達ではない。
マッシュが封殺されてしまい、また自信を失わないかだけが非常に心配。
将司さんの武器は木の盾に片手剣。
対するマッシュは手ぶらでありながらも、やる気満々といった様子。
「それでは――試合開始!」
合図と共に第4試合が開始された。
今回は両者共に動かず、相手の動向を窺っている様子。
「なんだ? マッシュも様子見するタイプか! なら……俺から攻撃仕掛けようかな!」
そんな掛け声と共に、将司さんが攻撃を開始した。
動き自体は鈍いが、盾を突き出した構えのため、将司さんが攻撃しているはずなのにガードしているかのように隙が一切ない。
マッシュは短い足を必死に動かし、何とか将司さんの攻撃を躱しているが……今のところ進化前と何も変わっていないように見える。
所々で体当たりで応戦しているものの、盾によって楽々と受け切られており、スタミナが切れて少しでも動きが鈍ったらマッシュは一瞬でやられてしまう。
何とか一矢報いて欲しく、一撃当ててくれと祈っていると――なんと、先に動きが鈍ってきたのは動き回っていたマッシュではなく、ドッシリと構えていた将司さんの方だった。
先に攻撃を仕掛けたものの、動いていたのは確実にマッシュの方であり、動きが鈍る要素は何一つなかったはず。
……いや、進化したことで会得した麻痺攻撃を行っていたのか?
無謀に見えた体当たりが布石になっており、盾で受けさせる度に徐々に痺れさせていたのだとしたら、マッシュは相当な策士。
将司さんの動きが鈍ったことで、更にマッシュの攻撃回数が多くなり、マッシュの攻撃を防ぐ度に将司さんは動きを鈍くさせていった。
そして、一度もクリーンヒットすることはなかったものの、最後は一歩も動けなくなったことで、審判のドニーさんからマッシュの勝利が宣言された。
「くっそぉ……! 完全に不覚だった! マッシュ、強いな!」
痺れて動けなくなっている将司さんに褒められ、ご満悦といった表情のマッシュ。
相性が抜群に良かったというのもあるけど、これは大金星といっていいだろう。
もし2回戦で負けてしまったとしても、大会が終わったらハチャメチャに褒めてあげよう。
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