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第9話 稼ぎ


 全ての作業を終えた夕方。

 シーラさんは先に家の中に戻っており、私は一人出荷箱の前で立ち尽くしている。


 何をしているのかと言うと、今回のクラックドラフで得たNPがいくらなのかを確認しようとしている。

 おおよその目安は自分の中でついてはいるが、まだ確認していないためいくらになったのか分からない。


 私は緊張しつつ、端末から現在の所持NPを確認した。

 左上に表示されている数字は――518NP。


 新たな種を購入した段階で手持ちのNPは262だったので、単純計算で128個のクラックドラフが収穫できたことになる。

 ここから毎日250近いNPが増えると考えると、少しくらいは豪遊しても問題ない計算になる。


 日本製の調理道具なんかも買いたいところではあるが、今はまず日本の料理が食べたい。

 思いっきり和食な気分ではあるが、トマトを有効活用しない手はないし、当初の予定通りトマト料理を作る。


 お米は最低5キロからで750NPと手が出せず、じゃがいもは1キロで120NP。

 30倍の価格のせいで高く感じてしまうが、とりあえずじゃがいも1キロをポチろう。


 それから輸入品であろう格安パスタが1キロ180NPだったためこれもポチり、300gで120NPのひき肉。

 後は固形コンソメ10個入りと、玉ねぎ1個をそれぞれ60NPと30NPで購入した。


 豪遊すると息巻いていたが、想像以上にカツカツで買えたものが非常に少ない。

 大量にあったように見えたNPも8になってしまったし、豪遊するにはもっと稼げるようにならないと駄目だな。


 若干落ち込みつつも、購入した食材はしっかりと出荷箱の中に入っていたため、私は食材を抱えて家の中へと戻る。

 そしてキッチンに立ち、調理を開始した。


 今回作るのはミートソーススパゲティと、ポテトをざく切りにしただけのプライドポテト。

 塩、胡椒、砂糖、それから油といった最低限の調味料はこの世界にもあるため、それらを使用してまずはケチャップ作りからスタート。


 下処理を済ませたトマトを潰し、擂り潰した玉ねぎと混ぜて砂糖を加える。

 そして酢の代わりに柑橘系の異世界果物の果汁を軽く入れ、塩と胡椒で味を調えれば――完成。


 軽く舐めてみたが、元がちゃんとしたトマトなだけあって完璧に近い仕上がり。

 フライドポテトにつけて食べれば、相乗効果で抜群に美味しくなるはず。


 私はウキウキしながら、次はミートソースの調理を開始した。

 まずはひき肉を炒め、そこに微塵切りにした玉ねぎを加える。


 塩胡椒で味を調えつつ、同じように下処理を済ませたトマトを潰して加えていく。

 コンソメ、砂糖、塩胡椒で味のバランスを見つつ、あっという間にミートソースも完成。


 欲を言うのであれば、マッシュルームにニンニク、ウスターソースなんかも加えたいし、できたパスタに粉チーズとタバスコもかけたいが……それは欲張りすぎというもの。

 このミートソースでも充分だろうし、確実にレトルトのものよりは美味しく作れた自信がある。


 後はスパゲティを茹でつつ、じゃがいもを揚げれば完成だな。

 漂ってくる匂いに表情が緩ませながら、私は簡単ではあるが料理を二品作った。


「……凄く美味しそうな匂いがしますね」


 シーラさんがチラチラと台所の様子を見ていたのは知っていたが、とうとう匂いに釣られてやってきた。

 あの味に慣れているこっちの世界の人に合うのかは不安だが、『美味しさ』の基準が一緒ならばきっと気に入ってくれるはず。


「もう完成しましたので食べましょう。この料理が正真正銘の異世界料理です」

「本物の異世界料理……。もう匂いだけで美味しいのが分かります!」

「お口にも合ってくれればいいんですが」


 そんな会話をしながら料理をテーブルへと運び、向かい合って食前の挨拶を行う。

 『いただきます』を言い終えると同時に、二人してがっつくようにミートソーススパゲティを口へと運んだ。


 ――美味い。本当に美味しい! 

 味気ない異世界料理ばかりだったこともあって、涙が溢れそうになるくらい美味しい。


 トマトの甘味と旨味も感じられるし、ひき肉とコンソメが旨味の奥深さを出していて、砂糖と塩胡椒が全体的なバランスを整えている。

 パスタも輸入品ということで少し心配だったけど、茹で加減も抜群で問題ない美味しさ。


 少々NPを多く使用してしまったが、それに見合う味に仕上がっている。

 私は大満足しているが、肝心なのはシーラさんの口に合っているかどうか。


 恐る恐る顔を上げ、シーラさんの反応を窺ってみると……。

 スパゲティが大量に詰め込まれたパンパンの頬を両手で押さえながら、これまで見たことがないほどの幸せそうな笑顔を浮かべていた。


 感想を聞かずとも美味しいと思ってくれていることが分かったし、この笑顔を見れただけで私も幸せな気持ちになる。

 私ができる見返りは料理くらいだし、『美味しい』と思える基準が同じだったのは本当に良かった。

 それから……品質の高い物を販売してくれている日本に改めて感謝だな。


「美味しすぎて……死んでしまいます! これが異世界では当たり前に食べられているのですか? 王城でもこんなに美味しいものは食べたことがないですよ!」

「喜んでもらえたなら良かったです。私の暮らしていた世界では当たり前に食べることができましたね。安いくらいの料理ですよ?」

「こんなに美味しいものが安いのですか? ちょっと信じられません……!」


 話ながらも箸が止まらないようで、食べ尽くしまうのではないかと思うほど早いペースでスパゲティを食べているシーラさん。

 フライドポテトは冷めると味が落ちてしまうため、早めに食べてほしいのだが……このぺースなら冷める前にスパゲティを完食しそうだし問題ないか。


「――うっわ! こっちの料理も美味しいです! ……この赤いソースがとにかく美味しいですね」

「それがトマトなんですよ。スパゲティのソースもトマトでできています」

「そうなのですか! 血みたいで少し怖かったのですが、トマトは私の大好物になりました!」

「それは良かったです。またいつか別の料理も作りますね」

「ありがとうございます! 楽しみにしておりますね!」


 出会った当初の無表情でクールな感じとは別人のような、ニコニコと明るいシーラさん。

 それだけ喜んでくれたということだし、私も釣られて笑顔になってしまう。


 シーラさんの笑顔を見るためにも、サボらずNPを稼いでいきたいし……。

 NPをもっと効率良く入手できる方法も考えていきたいな。

 そんな思いを胸に秘めつつ、私はシーラさんと久しぶりに日本の料理を堪能したのだった。




お読み頂きありがとうございます!


この小説を読んで、「面白そう」「続きが気になる」と少しでも感じましたら、

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