第78話 作物の売却
ルーアさん達の初収穫を終えた翌日。
今日は収穫した作物を売るため、私は再び1人で王都へと向かうことになっている。
ちなみにだけど、収穫したクラックドラフを味見したのだが、やはりあまり美味しくはなかった。
……が、ルーアさん達は美味しく感じたようで、いつもよりも多く食べていた。
日本の作物も順調に育っているし、そちらが育ち切った時の反応を楽しみにしつつ、私はシーラさんが呼んでくれた馬車に収穫した作物を乗せ、王都へ向けて出発した。
今回は売る以外に特に用事もないため、作物を売ってからロッゾさんにお礼を伝え、お昼過ぎには戻ってきたいと考えている。
スキルの畑で育てたものだが、サンプルとして一応日本の作物も持ってきたため、きっと買い取ってくれるはず。
いくらの値になるのか楽しみにしつつ、馬車に揺られること約30分。
どうやら王都に着いたようだ。
前回はあれだけ緊張していたのに、今回は全く緊張していないことからも人間の適応力の高さがよく分かる。
私はブラック企業に勤めていたこともあり、一般的な人よりも『慣れること』だけに関していえば得意なのかもしれないけど。
最終的には会社で寝て、そのまま働く――なんてことにも慣れていたからな。
そんな思い出したくない過去を思い出して勝手にゲッソリしつつ、私は前回訪れた大衆食堂にやってきた。
300席ほどはあるであろう、かなり大きなお店。
食材にもこだわっていながら、毎日の消費量も多いため、食材の輸入先を探していたところだったらしい。
私のところはまだ小さな畑ということもあって、大した足しにはならないと思うんだけど、それでも買い取ってくれるとのことで今回は来させてもらった。
裏口からベルを鳴らすと、前回対応してくれたここのオーナーさんが出てきてくれた。
「営業前に誰かと思ったら、この間来た人じゃないか」
「マガリさん、覚えていてくれたんですね。改めて自己紹介させて頂きますが、私は佐藤と申します。よろしくお願い致します」
「あー、そうだった。佐藤って名前だったね。それで今日は早速野菜を売りに来てくれたのかい?」
「はい。クラックドラフとブラウンターン。それから珍しい野菜をお試しで持ってきました」
「おお! 例の野菜を持ってきてくれたのかい。それは楽しみだね。ささっ、中に入っておくれ」
私はクラックドラフとブラウンターンの入った大きな袋を担いだまま、お店に入れてもらった。
そこから案内されたのは食材庫で、魔法の力なのか室温がかなり低い。
「野菜はそこに置いとくれ。おーい、ノーマン。ちょっと来てくれるかい?」
マガリさんはノーマンという人を食在庫を呼んだ。
中に入ってきたのはTheコックさんといった格好の男性であり、ながーい真っ白なコック帽が非常に特徴的。
「マガリさん、どうしたんだ?」
「新しく仕入れ先を増やそうと思っていてね。野菜の質を見てほしいんだよ」
「そういうことか。持ってきたのは何の野菜だ?」
「今回はクラックドラフとブラウンターンを持ってきました」
「クラックドラフとブラウンターンか。ちょっも見させて貰うぞ」
コックのノーマンさんは袋から野菜を取り出すと、色々な方法で調べ出した。
どんな基準で調べているのか分からないけど、この待っている時間は非常に緊張する。
「…………うん、悪くないな。マガリさん、店で出せる基準はクリアしてるぜ」
「そうかい。それなら良かった。佐藤、持ってきたものを全て買い取らせてもらうよ」
「ありがとうございます!」
とりあえず基準はクリアしていたようで良かった。
後はいくらになるかだけど、大きいとはいえ1袋分だけのため、金貨1枚くらい貰えれば御の字だろう。
「後は珍しい野菜もあるんだろう? それもノーマンに見せてやってくれないか?」
「分かりました。今回は無償で渡しますので、取引して頂けるのかを教えて頂けたら嬉しいです」
「珍しい野菜? それは俺も気になるな」
ノーマンさんは興味津々といった様子で目を輝かせている。
常にロートーンな感じだったけど、珍しい野菜でテンションが上がるということは生粋の料理人なんだと分かる。
「今回は3種類持ってきまして、色々な用途で使える野菜になります」
私はそんな説明をしてから、トマト、ナス、ジャガイモの3種類を手渡した。
今回はNPを使って購入したものだけど、この3種に関しては育てているため、安定して生産できれば売りに出すことも可能。
まぁ何度も言うように、日本の野菜は苗から育てたとしても高額ということもあって、高値で売れない限りは自分たち用でしか使わないと思うけど。
「真っ赤な野菜に紫色の野菜。それからクラックドラフみたいな野菜か。見た目で特色があるのは2つ。見たことないし、確かに珍しい野菜だな」
「この赤い野菜は生でも食べれますので、少し切って食べてみてください」
「生でも食べられる野菜か。それじゃ味見させてもらう」
ノーマンさんはトマトをカットしてから、口の中に入れた。
その瞬間に固まり、しばらくしてからようやく咀嚼を始めた。
「……な、なんだこの旨味の強い野菜は。生でこんなに美味しい野菜は食べたことがないぞ!」
「好評なようで良かったです。こちらの野菜はあまり生産ができない関係上、お売りする際の値段が高くなってしまいますので、何か必要な時にお買取り頂ければと思っております」
「店とか関係なく、俺個人として死ぬほど欲しい! ちょっと後で話をさせてくれ!」
「ノーマン、顔も勢いも怖いよ。流石に異世界人なだけあって、素晴らしい飛び道具を持ってきたね。こんなに興奮しているノーマンは初めてみたよ」
「マガリさん、佐藤と話させてくれ!」
「うるさいねぇ。おーい、ちょっとノーマンを連れていっとくれ」
目が血走り、興奮した様子のノーマンさんは、奥からやってきた別のコックさんたちによってどこかへ連れて行かれてしまった。
食のプロであるノーマンさんを、一口であれだけ豹変させるということは、やはり日本の食材はとびきり美味いという証拠。
いずれノーマンさんには、日本の食材を使ったとびきり美味しい料理を作ってもらいたいな。
「ノーマンが興奮してしまって悪かったね。あの反応から考えて、珍しい野菜というのは相当良い代物みたいだね」
「他の2種類もきっと美味しいと感じると思いますので、マガリさんも是非食べてみてください」
「いいや、そんな希少なものを調理しない私が食べるのはもったいないよ。ノーマン達に食べさせて、どんな料理に合うかを考えさせるから、佐藤も楽しみにしとくれ」
「マガリさんはプロですね。はい、楽しみにしています」
そう笑顔で語ったマガリさんだったけど、私はマガリさんにも食べてほしいと思っている。
それぞれ1個ずつしか持ってきてなかった私のせいではあるんだけど、いずれはマガリさんにも美味しい日本の野菜を食べてもらおう。
そんなことを考えつつ、私はクラックドラフとブラウンターンを売ったお金を受け取り、マガリさんのお店である『ギュゼル』を後にした。
ちなみに売却額は私が思っていたよりも高く、金貨6枚も頂くことができた。
3人が約1カ月近くお世話をして、金貨6枚と考えると微妙なのかもしれないけど、それでもお金に換えることができたというのは大きな一歩。
日本の作物もあるし、慣れてくればもっと多くの作物を育てられるようになるだろうから、成果を求めるのはこれから。
とにかく私はロッゾさんにお礼を伝えてから、ルーアさん達に報告しに別荘へ帰るとしようか。
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