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第8話 収穫


 翌日。

 眠い目を擦りながら起きると、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐってきた。

 既にシーラさんが朝食を作ってくれており、格好も準備万端といった様子。


「シーラさん、おはようございます。今日はいつになく早いですね」

「ええ。今日にも収穫ができるということでしたので、既に準備万端です。早く朝食を食べて、畑に向かいましょう」

「それで早く準備していたんですね。私も楽しみですので、早く向かいましょうか」


 シーラさんの作ってくれた朝食を食べ、すぐに畑に向かうことにした。

 ちなみに私も朝食を作っているけど、調味料も具材も限られている上に、知らない食材が多いことからシンプルで不味い料理しか作れていない。


 私の料理に対し、シーラさんは少しガッカリしていたように見えたし、収穫した野菜で得られたNPが多ければ、気合いを入れた料理を振る舞ってあげたいところ。

 そんなことを考えながら、私はシーラさんと共に畑へとやってきた。


 ――おお! やはり昨日は緑色だったトマトが真っ赤に熟している。

 これは確実に収穫できるだろう。


「シーラさん、やはりもう収穫できそうですよ」

「あれで完成なのですね。初めて見た野菜なのですが、美味しい野菜なのですか?」


 シーラさんはトマトを知らない様子。

 クラックドラフが全く知らない野菜であることからも、地球とこの世界とでは存在する野菜が違うようだ。


「生で食べても美味しいですし、加工しても美味しい野菜ですよ。とにかく使い勝手のいい野菜って感じですね」

「へー、見た目からは想像できませんね。収穫方法はもぎ取れば大丈夫なのでしょうか」

「その方法で大丈夫だと思います」

「分かりました。赤くなっているものを収穫していきますね」


1本当たり、15個のトマトが熟しており、連作できるため明日以降も収穫できるはず。

 実際に農業をやってみて分かったが、【異世界農業】のスキルは凄まじく便利なスキルかもしれない。


 苗を植えてから実がなるまであまりにも早すぎるし、NPで基本的に何でも購入することができる。

 魔王を倒すどころか魔物1匹も倒せるかどうか分からないけど、食べ物があまり美味しくないこの世界では実用的なスキル。


 私は真っ赤に実ったトマトを見て、そう確信することができた。

 それから、クラックドラフの収穫もしていく。

 

 クラックドラフは真っ黒な里芋のような見た目をしており、これが成長しきっているのか判断ができない。

 この世界の野菜ならばシーラさんが知っているだろうし、聞いてみるとしよう。


「シーラさん、これってもう成長しきっていますか?」

「あっ、クラックドラフですか? 育てたことがないので分かりませんが、市場で見かけるのはこの形のものです」

「それじゃクラックドラフも収穫して良さそうですね。ちなみにですが、クラックドラフはどんな味がするのですか?」

「えーっと、一日目の夜に出したのですが覚えていないですか?」


 ……思い出した。スープの中に入っていたやつだ。

 生魚の臭いがする、味の薄いジャガイモのようなものだったはず。


「あれがクラックドラフだったんですか」

「そうですね。よく食べられるものですので、王都に持っていけば売れると思いますよ」


 正直、好んで食べたいと思えるものではなかったし、売ってこの世界のお金を手に入れるか、NPに変えるのが無難だろう。

 王都にも遊びに行きたいし、この世界のお金はいつか手に入れたいが……とりあえず今回は全てNPに変えていいはず。


 そこからは黙々と二人で収穫を行っていった。

 四分の一の面積分とはいえ、クラックドラフは掘らないと収穫できないことから、意外と時間がかかってしまった。


「ふぅー、これで全部掘り終わりましたか?」

「はい。掘り終わったと思います。シーラさん、手伝って頂き、本当にありがとうございました」

「いえ、私も楽しくて手伝っていますので気にしないでください」

「気にしないことはできません。しっかりとお礼はしますので楽しみにしていてください」

「……分かりました。お礼を楽しみにしていますね。汗と土で汚れてしまいましたので、シャワーを浴びてきてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。許可なんか取らずに使ってください」

「ありがとうございます。それでは遠慮なく使わせて頂きますね」


 そういうと、別荘へと戻っていったシーラさん。

 確かに楽しそうにはしてくれているが、手伝わせていることは事実。

 シーラさんにはしっかりとお礼をしなくてはいけないな。


 さて、シーラさんがシャワーに行っている間に、トマトとクラックドラフがいくらで売れるのかを試すとしよう。

 それから、売って得たNPを使ってまた新しい種を買って植えないと駄目だ。


 私はクラックドラフとトマトを1個ずつ手に持ち、まずはクラックドラフを出荷箱の中に入れる。

 箱の中に入れて蓋を閉めてから、私はすぐに端末に表示されているNPを確認した。


 すると……左上に表示されていた数字が290から292に増えた。 

 1株3NPのクラックドラフが1個2NPで売れるのは大きすぎる。


 1株につき10個ほど取れたので、クラックドラフは現在100個ほど手元にある。

 全部NPに変えれば約200NP増えるわけで、種に使った金額が30NPだったことを考えるとかなり儲かった。


 クラックドラフがこの値段だったことからも、1袋90NPだったトマトがいくらで売れるのか非常に楽しみ。

 私はワクワクしながら、トマトを出荷箱の中に入れてから端末を確認した。


「あ、あれ……?」

 

 数字はクラックドラフと同じく2しか増えておらず、私は思わず言葉を漏らしてしまった。

 み、見間違いとかじゃ……ないよね。


 292だったのが294になっているし、NP自体は増えている。

 つまりトマトの売値はクラックドラフと同じ2NPということ。


 期待が大きかっただけに落胆も大きいが、よくよく考えてみればトマトの価値が高い訳でなく、こっちの世界に運ぶためのコストがかかるだけ。

 本来のトマトの苗の価格は3NPだし、そう考えると売値が2NPなのも頷ける。


 早とちりして勝手に落胆していたが、元々トマトは食べるつもりで栽培していたし、別にマイナスではない。

 そう自分に言い聞かせ、落ち込んだ気分を自ら慰めていると……シャワーを浴び終えたであろうシーラさんが戻ってきた。


「シャワーをお借りしました。……あれ? 佐藤さん、何か落ち込んでいますか?」

「いえ、落ち込んでいませんよ。それより、今日はトマトパーティーを行うことが決まりましたので、夜ご飯は私に任せてくれますか?」

「トマトパーティーですか? このトマトがどんな味なのか分かりませんが、とても楽しみです」

「期待していてください。きっとシーラさんのお口にも合うと思います」


 楽しそうに笑ってくれたシーラさんに、私は自信満々にそう声を掛けた。

 トマトは本当に色々な料理に化けるからな。


 仮にシーラさんがトマトが苦手だったとしても、どれかの料理は口に合うと断言できる。

 ピザ、ミートソーススパゲティ、トマトの冷製パスタ、無水カレー、トマトのチキン煮、トマトリゾット。


 簡単に作れるものだけでもこれだけあるし、ケチャップを作ってシンプルにフライドポテトを食べてもいい。

 他にも、トマトジュースにしてそのまま飲むという手もある。

 どの料理にするかはNPとの相談になるが、一番コストのかからないであろうポテトとケチャップだけでも絶対に美味しい。


 まだ異世界に転生してから一週間も経っていないが、既に日本の料理が恋しくなってしまっている。

 シーラさんを喜ばせるための料理なのだけど、私の方が楽しみにしているかもしれない。


「楽しみにしますね。それでは引き続き作業をしましょうか。私は何をすればよろしいでしょうか?」

「シーラさんには、水やりをお願いしてもよろしいですか?」

「水やりですね。分かりました」


 こうしてシーラさんは水やり、私は収穫したクラックドラフを全て出荷箱に入れてから、空いた場所に新たな種を植えていった。

 今のところは理想的な田舎暮らしを体現できており、私は心の底から楽しみながら農作業に打ち込んだのだった。


お読み頂きありがとうございます!


この小説を読んで、「面白そう」「続きが気になる」と少しでも感じましたら、

ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>ペコ


読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!

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