第69話 情報提供
王都を散策すること約2時間。
野菜や果物を売っている場所も見て回ったけど、買い取ってもらえそうなお店は未だ見つかっていない。
何度か声は掛けたのだけど、どこのお店も既に契約している農家がおり、新規で買い取りを行ってくれるお店なんか、格安でしか取引してくれない変なところか違法なところしかないのだ。
うーん……。使いたくはなかったけど、これはベルベットさんに頼らざるを得ないかもしれない。
なるべく王女様としてではなく、一般人として接したいという気持ちが強かったから頼ろうとはしてこなかったのだけど、この状況では頼るしか道がない。
ただ、頂くのは情報だけにして、後のことは自力で頑張る。
そう心に決めてから、私は王城へと向かった。
顔を覚えられていたようで、割とトントン拍子でベルベットさんの下まで通してもらうことができた。
王城で会うのは、素っ気ない態度を取られていた時以来なので、少しだけ変な気持ちになる。
「あら、本当に佐藤じゃない。何か用事があって来たの?」
今回は王女室である、ベルベットさんの部屋に通してもらった。
女性の部屋というよりかは王室といった感じであり、豪華なものが置かれた生活感の一切ない部屋。
なんとなくだけど、書斎室の方が生活感があったような気がする。
「はい。実は別荘周辺で育てた作物を売りたいと思っていまして、その買い取り先を探しに来たんです」
「えっ! 異世界の作物を売ってくれるの? なら、私がいくらでも買うわ!」
ベルベットさんは身を乗り出すようにしながら、買い取ると言ってくれた。
これに関してはベルベットさんに売ってしまっても良い気もするんだけど、何となく頼ってしまっている気がして、やはり気持ち的に嫌なんだよな。
「すみません。ベルベットさんにではなく、一般のところに卸したいと思っているんです。それに、異世界の作物に関してはまだ育つかどうか分からなくて、もしかしたら普通にこちらの世界の作物を売るって感じになると思います」
スレッドが開墾した畑でも、今はトマトやキュウリなどを育ててはいるが、この世界で育つのかはまだ分からない。
スキルの畑だから育ったという可能性が高いと私は思っている。
それに、ちゃんと育つにしても時間がかかるし、今植えている分だけでは売るにまでは至らない。
それにNPが莫大にかかることからも、育てた作物から自ら種を採取し、その種で育てられるようになるまでは、基本的に自分達で食べる用としてだけ育てると思う。
「うーん……そうなのね。異世界の作物じゃないなら、私が買い取っても仕方がないか。なら、良い取引先を紹介してあげましょうか?」
「いえ。ベルベットさんから直接紹介されたら、相手が私に気を使ってしまいますので、できれば取引してくれそうな方の情報だけを教えて頂きたいんです」
「なんなのそれ! 私を何だと思っているのよ」
「いえいえ! 別に悪意があって言った訳じゃありません。あくまでも王女様ですし、取引において少しでも気を使われたら嫌なんです」
「……まぁ確かに少しは気を使ってくるかもしれないけど、それならそれでありがたいと思うけどなぁ。まぁ佐藤が嫌っていうなら分かったわ。取引してくれそうな人の情報だけ教えてあげる」
「本当にありがとうございます。情報料もしっかりとお支払い致しますので」
「えっ、本当に!? もしかして漫画の続きをくれたりとか?」
「ええ。1冊で申し訳ありませんが」
「1冊でも嬉しすぎるから! 佐藤は本の価値を知らないだけで、普通はこんな情報だけで本を1冊も貰えないのよ? 私は佐藤と違って忖度されたいから、ありがたく貰うけど!」
ベルベットさんは目に見えてウキウキとなり、取引してくれそうな方を紙書いて教えてくれた。
漫画の続きをプレゼントすると伝えたからか、王都の地図まで用意してくれた。
「地図の方にも印をつけておいたから、これできっと迷うこともないはずよ」
「ありがとうございます。本当に助かります」
「まぁ助かっているのは確実に私の方だけどね。全部断られたら、王女の力を使ってあげるから言ってね」
「いえ、そのお力には頼らないと思います。……あっ、もう一つだけ伺ってもよろしいですか?」
「もちろん。一つとは言わず、何でも聞いてちょうだい」
「実は、大工の棟梁の方にプレゼントを渡そうと思っておりまして、何かいい案があれば教えて欲しいのですが……」
ついでにプレゼントのことの相談にも乗ってもらおうと思ったのだが、ベルベットさんは少し考えた後、首をふるふると横に振った。
「申し訳ないけど全く分からないわ。私は漫画しか嬉しくないし、後は異世界料理とか? でも関係値がなかったら、佐藤の料理を喜ぶとは思えないか」
「相手もおじさんですので、いくら美味しかろうと私の手料理は喜んでもらえないと思います」
詳しい年齢は分からないけど、ロッゾさんのお兄さんということはおじさんなのは間違いない。
美女好きのおじさんに初対面のおじさんが手料理を渡すのは……いくら美味しくても流石に喜んでもらえないと思ってしまう。
「なら、さっぱり分からないわ。相手がおっさんということなら、ドニーに聞いてみてはどうかしら?」
「そういえばドニーさんはいませんね。いつも一緒じゃないんですか?」
「部屋に入れる訳ないじゃん。遠出をするときに勝手についてくるだけよ。今は……中庭で剣の稽古でもしていると思うわよ。佐藤にコンタクトレンズを貰ってから、また戦うことに火がついたみたいだからね」
模擬戦では本当に強かったからな。
ドニーさんがまた戦闘に打ち込むようになってくれたのなら、コンタクトレンズをプレゼントした甲斐があったというもの。
「それは良かったです。そういうことでしたら、中庭に行ってドニーさんにアドバイスを貰ってきます。ベルベットさんも、またいつでも遊びに来てくださいね」
「ええ。また近いうちに遊びに行かせてもらうわ」
私は約束していた漫画の続きを手渡してから、ベルベットさんの部屋を後にした。
取引先の情報を得られたことだし、ドニーさんに話を伺ってから、回ってみることにしよう。
それにしても……この世界の人たちは本当に良い人が多い。
日々助けられていることに感謝しつつ、私は中庭へと向かったのだった。
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