閑話 ルサンソ騎士団
※佐藤がいる国はグライラン王国で、この閑話は別の国の話となります。
――ルサンソ騎士団。
他国にもその名を轟かすルサンソ共和国の精鋭のみを集めた組織であり、国家最高戦力である最強の騎士団。
ルサンソ共和国に生まれた者は、必ず一度はルサンソ騎士団を志すのだが、大半の人間はそのレベルの高さに心を折られて諦めることになる。
多少戦える程度では話にならず、才能無きものはどんなに努力をしようが、門を叩くことすら許されない。
それが国家最高戦力のルサンソ騎士団なのである。
そんな精鋭のみが集まる騎士団の中でも、抜きんでた六人は隊長に任命される。
隊長が六人いるということは、もちろん第一部隊から第六部隊まで存在し、共和国内ではこの六人を六英雄として崇め讃えられている。
ただ、六英雄になったからといって息をつく暇はない。
六英雄は互いにしのぎを削り、精鋭のみで結成された自らの部隊を引き連れ、共和国内を成果だけを求めて縦横無尽に移動することになる。
成果を求める理由は単純明快であり、六英雄の内の一人しかルサンソ騎士団の副騎士団長になることができないからだ。
副騎士団長は実質的な次期騎士団長であり、ルサンソ騎士団の騎士団長に就任することができれば大金を手にすることはもちろんのこと、地位も名誉も権力も全てを手にすることができる。
更には歴史に名が刻まれ、ルサンソ共和国の英雄として語り継がれることになる。
そんなこの世の全てが約束された椅子に座るため、六英雄であろうが休む暇もなく、ひたすらに切磋琢磨する日々を送るのだ。
もちろんだが、成果を求めて血眼になるのは選ばれた六英雄だけではない。
それぞれの部隊に配属された騎士たちも決して関係のない話ではなく、新たな副騎士団長が決まったタイミングで全ての隊長が全替えとなり、次の隊長にはその部隊内で一番成果を上げた者が選ばれる決まりとなっている。
ルサンソ騎士団になるまでも激しい競争が行われるのに、ルサンソ騎士団に入団してからは更に激しく厳しい競争の世界となるのだ。
これほどまでに徹底された完全実力主義だからこそ、ルサンソ騎士団は他国にも名が轟く騎士団となっている。
……ただ、そんな中、ルサンソ騎士団に一人の異端者が現れた。
百名近い騎士団の中、どの時代も数名しかいなかった女騎士。
そんな女騎士から、初めて隊長に選出されたのだ。
ルサンソ騎士団は前述の通り、完全実力主義であるため、女騎士であろうと差別的なものは一切ない。
……が、それは実力があればの話。
新しく任命された女の隊長は、成果だけでいえば部隊内で最低のもの。
それにも関わらず、騎士団長の強い意向によって隊長に任命されたのだ。
ルサンソ騎士団内では団長の愛人だからだの、広がりつつあるルッキズムの声に負けて任命されただの、とにかく聞くに堪えない酷い噂で持ち切りだった。
当然、部隊内では不満を持つものしかおらず、女隊長の率いる二番隊は統率も取れていない上に練度も最底だった――のだが、何故か負けない。
それどころか、他の部隊を凌駕する成果を上げ続けた。
他の部隊からの目は成果を上げる度に変わっていったのだが、女隊長が率いる二番隊内だけは一切評価が変わることはなかった。
それもそのはずで、隊長自身はこれまでと変わらずほとんど成果を上げていない。
たまたま優秀な人材が二番隊に集まっただけであり、俺達の成果で隊長の評価が上がるのが気に食わないというのが、二番隊に属する騎士たちの素直な声だった。
その声は日を増すごとに大きくなっていき、次第に収集がつかなくなっていった。
最終的にはボイコットという事態にまで発展したのだが、それでも団長は女隊長を隊長の座から下ろすことはしなかった。
――が、女隊長はボイコットに至る前から隊内の騎士たちの不満を受け止め続けており、最後に行われたボイコットによって完全に心が折れてしまった。
必死に引き留めた団長の言葉を聞いても心変わりはすることなく、退団する運びとなった。
「歴代最高の団長になったかもしれない者を失ってしまったか……。過剰なまでの完全実力主義の弊害——だな」
ポツリと呟いた団長の声は誰の耳にも届くことなく、空しく消えた。
それから二番隊は新たな隊長を据え、再始動したのだが……ぐちゃぐちゃの中でも挙げられていた成果が一切挙げられなくなった。
傍から見れば、その理由は完全に女隊長が辞めたからというのが明白なのだが、二番隊内ではその考えに至る者は誰一人としていなかった。
それからしばらくして、ルサンソ共和国に新たに生まれた魔術師団の台頭により、ルサンソ騎士団の地位は一気に落ちていくことになる。
歴代最高の団長になり得た者を失ったルサンソ騎士団に対抗する手立てはなく、数百年の歴史を誇っていたルサンソ騎士団はあっという間に衰退することになるのだが――近い未来に衰退することになるとは、ルサンソ騎士たちは今はまだ知る由もなかった。
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