第486話 鶴の一声
誤解であることは本当だし、平和に解決できる方法はきっとあるはず。
どうにかして、話し合いの場を設けたい。
「申し訳ありませんが、その条件も呑めませんね。ナハスは一度ヴェレスと会っているのですが、その怯えっぷりは私もはっきりと覚えております。それ以降、ナハスはヴェレスの抹殺を中止するべきと言ってきましてね」
「でしたら――」
「私はそんなナハスを見て、抹殺派になったのです。今の態度を見ていただけたら分かってもらえると思いますが、何かに屈するような性格ではありませんからね。そんなナハスの心を一度会っただけで折ってしまったのですから……警戒するなというのが土台無理な話です」
ヴェレスさんが釘を刺したことが、逆効果になってしまったのか。
まぁ、私も初めて会ったときはヴェレスさんのことを警戒したし、下手に出てくれていなければ一緒に生活することもなかったと思うから、ハラリエルさんの言いたいことはよく分かる。
「ナハスさんの考えはよく分かります。ですが、私も私の住んでいる場所と仲間は守りたいのです。それだけでなく、天使族のみなさんにも傷ついてほしくないんですよ」
「……佐藤さんがお人好しで良い方なのは分かりますよ。ただ、それでもヴェレスが裏にいる限り信じることはできません」
話が三度平行線になってしまった。
私も諦めるつもりはないけど、ハラリエルさんが折れることもないと思ってしまっている。
「ハラリエルさんが望む条件を呑みますの――」
「ああー、もうよい! このままでは、いつまで経っても話がまとまらんだろう。我が中立の立場で立ち会うと言ったら、天使族も話し合いに応じることができるのではないのか?」
「倶利伽羅龍王が間に立っていただける、と?」
「そう言っている! このまま平行線の話を聞きたいわけではないからな。それで、どうなんだ? そのヴェレスとやらが変な行動を見せたら、我が天使族に代わり抹消してみせよう。佐藤もどうなのだ?」
「クリカラさんが間に立っていただけるなら、ぜひお願いしたいです」
私とハラリエルさんの話に痺れを切らしたのであろうクリカラさんが、ありがたすぎる提案をしてくれた。
この条件であれば、ハラリエルさんも話し合いに応じてくれるはず。
「中立な立場で間に入っていただけるなら……確かに断る理由はありませんね。ただ、一度持ち帰らせてほしいです。私の一存では決められないことなので」
「別に構わん。話し合いはここで行ってもらうつもりだからな。いくらでも待てるわ」
「クリカラさん、ありがとうございます。ハラリエルさんも持ち帰ってくださるとのことで、ありがとうございます」
「礼はいりませんよ。先ほども申し上げましたが、倶利伽羅龍王を敵に回したくないだけですから。それで、話は以上ですか?」
「はい。わざわざ呼び出してすみませんでした」
「用件が済んだのであれば、私たちは帰らせていただきます」
ハラリエルさんはそう言うと、ベランダで未だに葉巻を吸っているナハスさんを呼び、ヴァルステラさんと共に部屋から去ろうとした。
今は夜中だし、てっきり一泊していくものだとばかり思っていたため、お礼を用意するのが遅れてしまった。
「真っ暗ですが大丈夫なんですか?」
「我々は魔法も使えますし、そもそも空には障害物がありませんので」
「なるほど。そういうことであれば、わざわざ来てくださったお礼を今渡させてください」
「いえ、いりませんよ。倶利伽羅龍王と交流できただけで十分な収穫ですので」
「私が呼んだので、お礼は受け取ってください。大したものではないんですが、ヴェレスさんも気に入っている品を贈らせていただきます」
ヴェレスという言葉に嫌悪の反応を示したものの、少しでも情報になることもあり、断ることができなくなった様子。
私が3人にプレゼントするのは、もちろん日本のお菓子。
時間があるなら、ケーキやプリンといったスイーツをご馳走したかったが、すぐに帰ってしまうとなると難しい。
なので、ヴェレスさんに初めて会ったときに渡したものと同じ、日本のお菓子を渡そうと思っている。
「こちらになります。右側がしょっぱいお菓子で、左側が甘いお菓子になります」
「何かと思えばお菓子……ですか? ヴェレスが気に入ったものということなので、物騒なものを渡されるのかと思いました」
「見た目は可愛らしいな。まぁ、あのヴェレスが気に入るとは思えないが」
「食べてくれたら分かると思います。家に帰ってからでも、ぜひ食べてみてください」
「ありがたくいただかせていただきます。それではまた近いうちに」
私が渡したお菓子を持ち、今度こそ部屋から出て行ったハラリエルさんたち。
お菓子を気に入ってくれたらいいんだけど、反応が見られないのが残念。
そんなことを考えながら、私は大きくあくびをする。
緊張から解放されたことで、一気に眠気が襲ってきた。
「クリカラさん、色々とありがとうございました。今日のところはそろそろ――ん? ……もしかして、クリカラさんもお菓子が欲しいんですか?」
「い、いや! 我はいらないぞ!」
おやすみの挨拶をしようとしたところ、物欲しそうな目をしていたクリカラさんが視界に入った。
お菓子が一番似合わない見た目だけど、地球の食事を気に入ってくれていたもんね。
「今回のお礼も兼ねて、クリカラさんにも渡しておきますね。いらなければ、ヤトさんにあげてください」
口ではいらないと言っているクリカラさんに、私はお菓子をプレゼントした。
そして、頭を下げてから部屋を出る。
私が部屋を出た瞬間に、ガタンという椅子の音が聞こえたことからも、クリカラさんがお菓子に飛びついたのが見なくても分かった。
部屋を覗きたい衝動に駆られたものの……ここは盗み見ることはせず、大人しく戻って寝るとしよう。





