第452話 人気の冒険者
自身で書いた紙を読み返しながら、何度か頷いた受付嬢さん。
理解はしたけど、依頼内容が意味不明ということには変わりない――そんな表情だ。
「佐藤様がご出版なされる本の宣伝をしてほしい、ということでお間違いないですか?」
「はい、その通りです。なので人気のある冒険者さんに依頼したいのですが……トップクラスの冒険者に依頼するとなったら、依頼料は高くなってしまいますかね?」
「そうですね。依頼内容もシンプルそうで複雑ですし、高くなってしまうと思います。どれだけ依頼料を積まれても、引き受けてくれない場合すらありますね」
そもそもトップクラスの冒険者の方は、お金に困っていなさそうだもんね。
様々な依頼を取り扱ってきた受付嬢さんでさえ、依頼内容を理解するのに時間がかかっていたし、引き受けてすらくれないというのは納得してしまう。
「なるほど。そもそも冒険者に頼む依頼ではないですもんね。……ただ、依頼掲示板に張り出してもらうことはできますか? 引き受けてくれる方がいるかもしれませんので」
「もちろん大丈夫です。それでは1ヶ月間、張り出しておきますね」
「ありがとうございます。ちょこちょこ確認しに来ます」
「依頼掲示板から張り出した紙がなくなっていれば、引き受けてくれたという合図ですので、参考にしていただければ幸いです。ただし、1ヶ月が経過した場合は自動的に廃棄されますのでお気をつけください」
「ご丁寧にありがとうございます。それではよろしくお願いします」
懇切丁寧に対応してくれた受付嬢さんに、私は深々と頭を下げてお礼を伝え、冒険者ギルドを後にすることにした。
思っていたよりも期待感はないため、異世界流の宣伝は失敗の方が可能性が高そうだなぁ。
他のみんなの宣伝が上手くいっていることを祈りつつ、立ち去ろうとした時――。
私は受付嬢さんから呼び止められた。
「――すみません。言おうか悩んだのですが、私の方から1つご提案させてもらってもよろしいでしょうか?」
「はい?」
依頼の話は完全に終わったと思っていただけに、気を抜いていて返事が裏返ってしまった。
恥ずかしいのを誤魔化しながら、私は再び受付嬢さんに向き直した。
「宣伝の件なのですが、トップクラスの冒険者ではなく、人気のある冒険者に依頼してみるというのはどうでしょうか?」
これはどういう意味だろうか?
トップクラスの冒険者≠人気の冒険者ってことなのかな?
「トップクラスではなくても、人気の冒険者がいるということでしょうか?」
「そうですね。Bランク冒険者パーティ【超越する愛】は、パーティ全員が女性な上に顔立ちが整っているということもあり、非常に人気のある冒険者パーティになります。それから【ドランクバンク】は獣人族のみで結成された冒険者パーティでして、一部から熱狂的に応援されていますね」
へー、そうだったのか。
この世界の冒険者の仕組み的に、強さ以外で人気を得ることはできないと思っていたけど、ちゃんと人気が出る要素があれば人気が出るんだな。
「そうなんですね。私も強い冒険者ではなく、人気の冒険者を探していましたので、いるのであれば是非、人気の冒険者に依頼を出したいです」
「そう言ってもらえて良かったです。互いにWin-Winだと思いますので、引き受けてくれると思います。人気の冒険者パーティに関しましては、私の方で探してお声がけしておきます」
「そこまでしていただけるのですか? ありがとうございます」
親切な受付嬢さんに、私は頭を下げてお礼を伝える。
業務が増える提案だったと思うのに、わざわざ提案してくれたのは優しさしか感じない。
この世界の方は本当に優しい人ばかりだ。
ほっこりした気持ちになりながら、今度こそ冒険者ギルドを後にした私は、シーラさんとベルベットさんがいるであろう露店市を見に行くことにした。
時間的には、まだ本を並べている途中だと思うけど……どうだろうか?
露店市を歩きながら二人の姿を探していると、軽い人だかりができているお店を発見。
まさかとは思いつつ近づいたんだけど、そのまさかだった。
「シーラさん、ベルベットさん。かなりの人気ですね」
「あっ、佐藤さん。今のところはいい反響ですよ」
「まだお店を開いたばかりなのに、結構売れてる! いけるかも!」
お店を開いたばかりで、男性のみの人だかり。
漫画というより、シーラさんとベルベットさんの容姿に寄ってきたって感じがするけど、試し読みのお陰で漫画に興味が移っているようだし、結果オーライだと思う。
「私もお手伝いしますね。お金の勘定なら任せてください」
「ありがとうございます。佐藤さんは計算が早いので助かります」
試し読みをしたことで、漫画の続きが気になった方が続々と購入を決めてくれ、序盤からハイペースで売れていく。
更に、人だかりが人を呼ぶ状態となり、あっという間に囲まれるくらいのお客さんが集まってきた。
銀貨3枚という値段設定も抜群だったようで、平積みにされていた漫画が飛ぶように売れていく。
この売れ行きを見てしまうと、冒険者による宣伝はいらなかったのではと思ってしまうが、目標は国外にも広まるような大ヒットだからね。
ひとまず、ベルベットさんの幸せそうな表情を見て、私も嬉しい気持ちになりつつ……。
買ってくれる露店市のお客さんの対応を全力で行ったのだった。





