第439話 勇者VS絶対王者
あっという間に2回戦の全試合も終了。
今日は次の3回戦までであり、準々決勝からは明日行われる予定だ。
ちなみにマッシュ対シャノンさんは、マッシュの完勝。
邪魔な棒があるため、遠距離攻撃が得意なシャノンさんが有利だと思っていたけど、強化された胞子攻撃が強すぎた。
進化したことで、自ら胞子を遠距離まで飛ばせるようになったようで、状態異常にさせるまでの動きが完璧。
詠唱を必要とする魔術師相手には胞子攻撃がぶっ刺さり、完勝という形で試合は終了した。
他の試合でいうと、蓮さんたち勇者の面々の成長を感じる結果が際立っている。
これまで1対1では思うように結果を残せていなかった将司さんと唯さんも、3-0の完勝で3回戦まで進んでいる。
将司さんはスピンさん、唯さんはルーアさんと、対戦相手も決して弱くない相手に勝ってきているからね。
元々とんでもない強さを持っていたという話だったし、この世界にも慣れ、心身共に成長したことで誰よりも伸びているのかもしれない。
「それでは本日最後となる3回戦の対戦カード抽選会を行うよ。勝ち残っている方は運営本部まで集まってくれ」
サムさんからのお知らせが入り、参加者たちがぞろぞろと集まり始めた。
ここまでは完全ランダムで対戦相手が決まっていき、明日の準々決勝からはトーナメント表に組み込まれていく。
ある程度対戦相手の目星がつくようになるため、作戦をしっかり立てる方にとっては、この3回戦が大きな鬼門の1つといえる。
ある者は祈りながら、ある者は飄々と抽選カードを引いていき、3回戦の対戦カードが全て決まったようだ。
個人的に気になるカードは……蓮さん対アールジャックさん。
決勝戦でもおかしくない試合が、3回戦で決まってしまった。
急な参加だったこともあり、アールジャックさんのファンは少ないものの、ギナワノスの絶対王者としての知名度は高いようで、他の観客たちもザワザワとしている。
アールジャックさんの圧倒的パワーを見てきたばかりということもあるけど、蓮さんにとっては非常に難しい相手だと思ってしまう。
「蓮さん、次戦の相手……とんでもないですね」
「あっ、佐藤さん。俺の次の相手ってあの巨体の人だよね? そんなに強いのか?」
「はい。見た目通り、圧倒的なパワーで押し潰してきます」
「超パワー型か。パワー型との戦いは美香で慣れているとはいえ、なんか別種の感じもするしな」
「別物だと思いますよ。怪我だけはしないように気をつけてください」
「佐藤さんが忠告するってことは相当だな。ありがとう。怪我に気をつけながら、しっかり勝ってくる」
蓮さんは拳を上げながら、かっこよく試合会場へと向かっていった。
このカードの試合会場は、深い草が生えているギミックだ。
枝も散りばめられているようで、足場が安定しない上に、足元が見えにくいのが特徴的。
道具の使用は禁止されているものの、トラップなどを仕掛けられるのであれば向いているステージとなっている。
……とはいえ、蓮さんもアールジャックさんも罠を仕掛けるタイプではないだろうし、足元が不安定なだけの場所でのバチバチな接近戦が行われると思う。
勇者VS絶対王者の試合には注目が集まっており、私以外にも多くの方が集まり始めていた。
他のカードも面白そうなものが多かったため、見られないのはもったいないんだけど、こればかりはしょうがない。
蓮さんとアールジャックさんは静かに挨拶を済ませると、お互いに構えを取った。
「それでは試合開始!」
審判の合図と共に、アールジャックさんが飛び出した。
アールジャックさんは素手で、上体を細かく動かしながらフェイントを織り交ぜ、一気に距離を詰めている。
対する蓮さんは微動だにせず、アールジャックさんの動きを静観。
今のところ不気味なのは、圧倒的に蓮さんの方だ。
そんな予想が的中するかのように、アールジャックさんが間合いに入った瞬間、蓮さんの鋭い一撃が胴体を捉えた。
全く反応できていなかったようで、予選含めた今大会で一番のクリーンヒット。
始まりから雰囲気が違っていたし、初撃で蓮さんの勝ちが決まった――ように思えたけど、返しのショートアッパーが蓮さんの顔にクリーンヒット。
空中を1回転しながら吹っ飛び、受け身も取れずに地面へ落下した。
木剣だったとはいえ、スキルも乗った超強力な一撃を食らったにも関わらず、即座に返しの攻撃を行えるアールジャックさんの凄まじさ。
……いや、もしかしたら、一撃は受けるつもりでこのショートアッパーだけを狙っていたのかもしれない。
肉を斬らせて骨を断つ。
頑丈な肉体を持っているアールジャックさんだからできる芸当であり、完璧な一撃を浴びせたからこそ、蓮さんは逆に完璧な攻撃を食らってしまった。
「……試合終了の合図は出さないのか?」
深い草が生い茂っていることもあり、倒れた蓮さんが見えないこの状況。
審判すら困惑していたその場で、アールジャックさんは小さくそう呟いた。
「――あ、アールジャックの……」
「待った。まだやれるぜ」
審判が勝ち名乗りを上げかけた時、蓮さんがゆっくりと立ち上がった。
右頬は殴られたばかりなのに腫れ上がっており、右の鼻から鼻血も噴き出していながら、意識をしっかりと保っている蓮さん。
まだ試合が見られるということに対し、今大会で一番の歓声が沸き起こった。
私としては蓮さんの身が心配すぎるけど、ここで止めるのは蓮さんにも怒られてしまう。
ヒヤヒヤしながら、ただ勝負の行方を見守ることしかできなかったのだった。





