第434話 見本誌
方向性を早めに決めたこともあり、順調に模擬戦大会へ向けての準備を進めることができている。
ただ、先着順にしたこともあり、応募数がとんでもないことになってしまった。
王都にてレティシアさんが専用の受付を設けてくれたのだが、初日で予定応募数に到達。
いたずらでの応募を排除しても、初日で枠が埋まってしまったみたい。
こうなってくると、経歴を加味した書類選考を行ったほうが良かったかも……と思ってしまうけど、今年はしょうがない。
来年は冬の段階から動き出すことに決め、今年は予定通り進めていくことにした。
そして例年通り、サムさんも早めにやってきてくれ、シッドさんの仮設住宅の建設も進む中……観客の中で一番乗りで別荘にやってきてくれたのは、まさかのクリスさんだった。
クリスさんに模擬戦大会の推薦枠を2つ渡しているため、本人は参加しないものの、推薦者が参加してくれることになっている。
早めにやってきてくれたのは、推薦者を紹介してくれるからだと思っていたんだけど……。
今のところ、クリスさんしかいないように見受けられる。
「クリスさん、来てくれてありがとうございます。随分と早いご到着でしたね」
「佐藤さん、こんにちは。まずは招待してくれてありがとう。既にお祭りムードの中、申し訳ないけど……早めにやってきたのは模擬戦大会のためじゃないの」
模擬戦大会のためにやってきたわけではない?
ということは……漫画の件だろうか。
クリスさんにはベルベットさんとローゼさんの漫画を一任しており、しばらく音沙汰がなかった。
「模擬戦大会のためじゃないということは、漫画の件でしょうか?」
「ふふ、察しがよくて助かるわ。そう、漫画の見本が完成したから持ってきたの」
クリスさんは自信ありげにそう呟くと、鞄から1冊の本を取り出した。
大判サイズと比べても大きくはあるが、見た目やクオリティは申し分ない。
ほぼ注文通りの仕上がりであり、まだ中を確認していないけど、既に心の底からクリスさんにお願いして良かったと思えている。
「とんでもないクオリティですね! ちゃんとした漫画に仕上がっています」
「自信があったから、喜んでくれて良かったわ。中も確認してみてもらえる?」
漫画の見本誌を受け取り、私は中も確認させてもらうことにした。
やはりズシリと重く、漫画を読むには重量感が気になるものの……中身もちゃんとしたクオリティだ。
渡したのは原稿用紙だけなのに、ちゃんと漫画になって返ってきたんだから驚き。
この世界では、クリスさん以外には成し得ない芸当だと思う。
「中も完璧です。改めて凄すぎますよ。クリスさん、本当にありがとうございます」
「見本もいただいたからね。商人の意地で頑張らせてもらったわ」
「一応ベルベットさんとローゼさんに確認を取りますが、問題なくGOサインが出ると思います。そうなったら、すぐにでも売りたいと思っているのですが……大量生産は可能なのでしょうか?」
一番気になるのはその部分。
クオリティが高すぎる故に、大量生産できるのかが不安になってしまっている。
「大量生産も問題ないわ。サイズが大きくなってしまったのは、大量生産する都合上なの。本当は指定通りのサイズ感で作りたかったんだけどね」
「いえいえ! このクオリティで大量生産できるのなら、サイズなんて気になりません」
「佐藤さんが寛容でよかったわ。あとは金銭面でのお話になるのだけど……いいかしら?」
夢ばかり見ていたけど、一気に現実を突きつけられた気分になる。
このクオリティに仕上げてくれた時点で、費用は馬鹿にならないだろうし、しっかりと覚悟しておこう。
「……はい、大丈夫です。覚悟はできています」
「覚悟? 覚悟はいらないと思うけど……伝えるわね。まず金銭面に関してだけれど、1冊をいくらで売るかによって、渡せる額が変わってくるわ」
「ん? もう少しだけ詳しく教えてもらってもいいですか?」
「ええ。今考えているのは、1冊金貨1枚での販売。そうなると、1冊売れるごとに銀貨9枚はお支払いできると思う」
1割しか取らないというのは、驚きすぎるくらい良心的だ。
とはいえ、金貨1枚は大雑把に考えると日本円で約10000円。
クオリティを高く作って頂いたことに間違いはないのだが、金貨1枚で売れるかと考えると……首を縦に振ることができない。
漫画については金貨1枚でも、読んでもらえれば価値はあると判断してもらえるはず。
ただ、読んでもらうまでのハードルが高いと私は思ってしまう。
「1冊作るのに、銀貨1枚は最低でかかるということですよね?」
「ええ、そうなるわね。ただ、それ以上は取るつもりないから安心して」
「そこの心配は一切していません。販売価格については、もう少し話し合って決めても大丈夫でしょうか?」
「もちろん大丈夫だけど、金貨1枚じゃ安すぎたかしら?」
「その逆です。私は高いなと思ったので、ベルベットさんとローゼさんと話し合って決めようと思っています」
クリスさんは金貨1枚でも安いと思ってくれているようで驚いた表情を見せているけど、私は高いと思ってしまっている。
感覚の違いはあれど、方向性については話し合って決めたい。
「佐藤さんの感覚が全く分からないわね。……ただ、どうするかは決めてもらっていいから」
「ありがとうございます。模擬戦大会が終わるまでには決めますので、もう少しだけ待っていてください」
本当はもう少しじっくり決めたいところだけど、早く作ってくれた以上、長く待たせるわけにはいかないからね。
2人が到着次第、すぐに話をするとしよう。





