第426話 古風な本屋さん
本屋の店内は窓から日が差しており、ツタで覆われている影響か、日の差し方が非常に幻想的。
並んでいる本の古さもあって、味のあるお店だ。
そんな本屋さんの勘定場の奥には、揺りかごのようになっている椅子に座りながら、本を読んでいるお爺さんがいる。
まだお店に入ったばかりだけど、もう既に雰囲気が好き。
「マシューさん、遊びに来た」
「……ん? おお、ファウスティナかのう?」
「違う。ミラグロス」
「ああ、すまんかった。ミラグロスじゃったか。最近似てきておったから分からんかった」
マシューさんと呼ばれたお爺さんは、名前を間違えたミラグロスさんに謝罪しつつ、読んでいた本を机の上に置いてから、ゆっくりとこちらへと歩いてきた。
マシューさんも人魔族のようで、優しそうな人間の容姿に、一本だけ角が生えている。
「それで、そちらの方たちは誰なんじゃ? 会ったことは……ないよのう?」
「ん、ない。佐藤さんとシーラ。二人とも人間」
「人間――じゃと!?」
ここまで穏やかな笑顔を浮かべていたマシューさんだったけど、私たちが人間だと知るや否や、表情をあからさまに強張らせた。
お年寄りの方が偏見が強いイメージがあるし、もしかしたらマシューさんは人間嫌いなのかもしれない。
「は、はじめまして。ミラグロスさんの友人の佐藤と言います」
「佐藤さんに仕えているシーラと申します」
「ワシはマシューじゃ。それで――お主らは本当に人間なのかのう?」
「はい、人間です。マシューさんは人間が嫌いではありませんか? 嫌いなようであれば、すぐに出ていきますので言ってください」
不快な思いをさせないため、そう付け足したんだけど……。
マシューさんはお年寄りとは思えないほど、首を激しく横に振った。
「ワシが人間を嫌いなわけないじゃろう。本で人間についての知識があったこともあって、死ぬ前に一度は会ってみたいと思っておったんじゃ。色々な話も聞きたいから、来てくれて光栄じゃよ」
「それなら良かったです。私も魔族の本には興味があったので、歓迎してもらえて嬉しいです」
嫌われているどころか、興味を持たれているようで一安心。
冷静に考えれば、ミラグロスさんが人間嫌いの魔族のお店を紹介するはずがないか。
「マシューさん。ちなみに佐藤さんはただの人間じゃない」
「ただの人間ではないじゃと? もしやエルフやドワーフといった亜人種なのか!?」
「んーん、違う。もっと珍しい。実は……異世界からやってきた転移者」
「い、異世界人じゃと! そ、そんな生物、本当に存在しておったのか!?」
「ん、間違いない。食糧難が解決の方向に進んでいるのは佐藤さんのお陰。異世界の作物のお陰で、魔王の領土でも農業ができるようになった」
「最近の食料流通にはそんな背景があったのか! なぜもっと早くワシに言ってくれなかったのじゃ!」
「……ん? 聞かれなかったから?」
本を読んでいた時の穏やかな様子はどこへやら。
マシューさんは興奮し過ぎて、顔が真っ赤になってしまっている。
「店に遊びに来てくれたのにすまんのう。佐藤さん、ワシに色々と教えてほしい。きっちりと対価は支払わせてもらう」
「対価なんかいりませんよ。私も魔族のことについてはお聞きしたいので、お互いに質問し合いましょう」
ということで、並んでいる本をそっちのけで質疑応答が始まった。
マシューさんは憧れの者を見るような視線で、私に色々と質問をしてきてくれた。
お爺さんなはずなんだけど、子供と話している感覚になるくらい、キラキラとした目で話してくれている。
特に異世界のことについては驚きの連続だったようで、倒れてしまわないか心配になるくらい興奮しっぱなしだった。
「す、凄すぎる……! 本当なのか疑ってしまうような話ばかりだった。嘘にしては具体的じゃったし……でも、本当ならばあまりにも夢のような世界じゃ!」
「私もこの世界が夢のような場所なので、マシューさんの気持ちはよく分かります」
「佐藤さん。異世界のものは持ってきてないの? よかったら、マシューさんに何か見せてあげてほしい」
ミラグロスさんにそう言われ、ハッとする。
確かに、ここまで好意的に思ってくれているわけだし、何かプレゼントしてあげてもいい。
本屋さんの店主だし、プレゼントするなら漫画が1番良いのだろうか?
NPは溜まっていないけど、漫画1冊ならプレゼントできるし、もしベルベットさんやローゼさんの漫画が完成した場合、この本屋さんにも置いてもらえるかもしれないからね。
「ちょっと待ってください。異世界の本がありますので、お渡しします」
「異世界の本じゃと? ……でも、こちらの世界の本とは何か違うのか?」
首を傾げているマシューさんに対し、私は1巻で完結する漫画をプレゼントすることにした。
1番のお気に入りは映像研究部の漫画だけど、ドラクエのキャラデザを担当した鳥山明先生の、砂漠の世界のファンタジー作品を渡すことにした。
画集とも言えるクオリティだし、1巻で漫画の素晴らしさを伝えるには1番の漫画だ。
「こちらが異世界の漫画となります。1巻で完結していますので読みやすいと思いますよ」
「なんじゃこれは……! とんでもなく美麗な絵が描かれておる! 異世界はこんな本が売られておるのか!」
「読んだら更に驚くと思いますよ」
「――なんじゃこれは!? 表紙だけじゃなく、全ページが絵で描かれている本……!? 訳が分からない!」
これまで漫画を見せてきた方たちの中で、トップクラスの反応を見せてくれたマシューさん。
凄まじい集中力で漫画を読んでくれているし、気に入ってくれたみたいで良かった。
お年を召しているし、漫画を毛嫌いされる可能性も考えていたけど、余計な心配だったみたいだ。





