第424話 錬金術師
キョロキョロと辺りを見渡したけど、本当に誰もいない。
空虚に話しかけたようにしか見えず、ミラグロスさんがおかしくなってしまったのではないかと思ったけど……何かしらの理由があるはず。
「ミラグロスさん、誰に話しかけたんでしょうか? お店の奥にお知り合いの方がいるんですか?」
「んーん。そこにいる」
ミラグロスさんが指をさした方を見たけど、やはり誰の姿も見えない。
首を傾げてシーラさんの方を向くと、どうやらシーラさんも何かを感じ取っている様子。
「姿は見えませんが、誰かいることは分かります。魔族の能力でしょうか?」
「違う、ポーションの効果。アデリナ、姿を見せて」
「ごめん! 効果が切れるまで姿を見せられない!」
本当にミラグロスさんが指さした方向から声が聞こえ、私は驚きのあまり声を出してしまった。
その反応が良かったからか、アデリナと呼ばれていた透明の魔族の方は楽しそうに笑っている。
「ふっへっへ、良い反応をするねぇー! ミラグロスのお友達かな?」
「友達じゃなくて恩人。……友達でもあるけど。……友達でいいんだよね?」
「もちろんです。気づかず自己紹介が遅れました。私はミラグロスさんの友達の佐藤と言います」
「ねーねー、どこ向いてんの? こっちこっち」
いつの間にか背後に回っていたようで、後ろから声を掛けてきたアデリナさん。
もう驚かないと決めたばかりなのに、またしても声を出して驚いてしまった。
「ふっへっへー! 佐藤さんは驚かし甲斐があるねー!」
「アデリナ。佐藤さんをからかっちゃ駄目」
「ごめんなさい! つい面白くてからかっちゃった! 効果が切れるまで、もう少しだけ待ってね!」
アデリナさんがそう言ってから数十秒後。
瞬間移動してきたように急に姿が現れ、私はまたしても驚いてしまったが……今度は両手を押さえて声を漏らさないようにした。
「やっと切れた! 透明状態での自己紹介でごめんね! 改めて――私はアデリナ! このお店の店主!」
「店主さんだったんですね。改めて、私は佐藤と言います。よろしくお願いします」
「私は佐藤さんに仕えているシーラと申します。よろしくお願いいたします」
「え? 仕えてる……? 佐藤さんってもしかして凄い魔族なの?」
「魔族じゃない。人間」
「へ? ――人間っ!?」
散々驚いた反応を笑われたけど、今回のアデリナさんが1番の驚きっぷり。
というか、てっきり人間であることはすぐにバレると思っていたけど、意外と気づかれないもんなんだな。
「ん。農業のやり方を教えてくれた恩人。魔王の領土でも育つ作物も譲ってくれてる」
「それ、本当!? ここ1年でやけに食料が出回ってると思ったけど、佐藤さんのお陰だったのか! 人間なのに良い人なんだー! からかってごめんね?」
「気にしていないので大丈夫ですよ。それよりも、意外と人間と魔族の判別ってつかないんですか?」
「んー。言われてみれば、確かに角もないし紋章もないねー! 気づく人は気づくだろうけど、人魔族が比較対象だと、人間よりも獣魔族や妖魔族の方が似てないから分かんないかも!」
確かに、さっき見かけた獣魔族や妖魔族より、人間の方が容姿が近いもんね。
何なら、人間とは角があるかないかぐらいの差だし、人間が魔族の街にいるという意識もないから気づかないのが普通なのかもしれない。
「言われてみれば、そうかもしれません。アデリナさん、改めてよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね!」
私とシーラさんは、人間としてアデリナさんと握手を交わした。
嫌悪感を抱かれることも覚悟していたけど、アデリナさんは笑顔で握手してくれたし、ミラグロスさんのお知り合いの方だけあって寛容で良かった。
「仲良くなれたみたいで良かった。アデリナ、ポーションの説明をしてもらえる? せっかくだし、佐藤さんにプレゼントしたい」
「もちろん! ねね、佐藤さんはどんなポーションが欲しいの? 回復するやつ? 能力を上昇するやつ? それとも変わったやつ?」
挙げてもらったポーションは全て魅力的。
ただ、魔力塊と被っている感じもあるため、変わったポーションが気になる。
「変わったものが欲しいですね。透明になっていたポーションも売っているんですか?」
「んー。あれはまだ試作品だけど……ミラグロスの親友で、食糧難の救世主の佐藤さんになら売ってもいいかも! ただ、副作用で変になっても責任は取れないよ?」
「えっ? そ、それは……ちょっと怖いかもしれません」
透明化はさすがに気になってしまうけど、安全性が担保されていないのは怖い。
一生透明のままだったりしたら、さすがに洒落にならないからね。
そうなってくると、別のポーションの方がいいのかな?
おすすめのポーションについて、アデリナさんから話を聞いたほうがいいかもしれない。





