第423話 ティルガンシアの街
ミラグロスさんの家を出た私たちは、そのままの足でティルガンシアの街へと向かう。
ワープしてからそのまま家の中に入ったこともあり、構造をあまり把握していなかったけど、ミラグロスさんの家は街の一番奥。
そして高台のようになっていることもあり、ティルガンシアの街を見下ろせるような場所にある。
上から見える街並みを楽しみながら、緩やかな坂を下っていった。
「綺麗な街ですね。土地が死んでいると聞いていましたが、石造りで凄く魅力的です」
「そう言ってもらえて嬉しい。まぁ土地が死んでいるから、石造りにするしかないんだけどね」
「私も美しい街並みだなと思いました。農業は街の外で行っているのですか?」
「そう。石で舗装してあるから、街の外でしかできない。危険があるし、できれば街の中でやりたかった」
シーラさんの質問にそう答えたミラグロスさん。
頑丈かつ高い壁で街を囲っていることから、魔族であっても魔王の領土は危険であることの証明。
農業被害も大きいだろうし、街の中で農業をやりたいというのが本音だと思う。
「前から聞きたかったんですが、魔族でも魔物に襲われるんですか?」
「もちろん。襲ってこない魔物もいるけど、魔王の支配下にいない魔物は襲ってくる。魔物同士の争いもあるくらいだし」
「そうだったんですか。知識がなかったので、てっきり魔族と魔物は仲良しなんだと思っていました。あと……魔王軍への参加を断ったと言っていましたが、魔王軍から攻められることはないんでしょうか?」
「うーん、心配ないと思う。魔王軍に参加する代わりに食料を渡すってだけで、別に敵対したわけでもないから。まぁ人間と仲良くしているってバレたら、結構マズいとは思うけど」
敵対はしていないと聞いてホッとしたものの、バレたらまずい状況なのはよろしくない。
これからティルガンシアに住む魔族の方と交流して大丈夫なのかと心配になってきたけど、ここはもうミラグロスさんに委ねるしかないな。
「バレたらまずいのに、街に住んでいる魔族の方と交流して大丈夫なんですか?」
「大丈夫。ティルガンシアの魔族は良い方ばかり。……もう見えてきた」
緩やかな坂を下りきり、中心街が見えてきた。
遠目からではあまり分からなかったものの、様々な魔族が闊歩していて活気がある。
「凄い活気ですね。見たことのない魔族の種族の方もいるんですね」
「ん。基本的には人魔族が暮らしているけど、獣魔族と妖魔族もちらほらいる」
ミラグロスさんの言った通り、獣人っぽい獣魔族の方や、魔物に近い容姿の妖魔族の方がちらほらと見える。
特に妖魔族の方は目を引く容姿をしている方が多く、ゴーレムに近いような姿をした方や天狗のような姿の方がいたりと、かなり多種多様な感じ。
「街を歩いているだけで面白いです。このまま魔族観察だけで1日過ごせる自信があります」
「佐藤さんが興味を持ってくれたのは嬉しいけど、さすがにやめてあげて」
角の有無で人間か魔族かが分かるはずなんだけど、思っていたよりも……というか、私とシーラさんに対する反応がゼロなのが意外。
ティルガンシアではミラグロスさんが有名で、視線を集めているというのもあるけど、今のところは全く気付かれていない。
「ささ、こっち。おすすめのお店を紹介する」
そう言って連れてこられたのは、煙突からモクモクと煙が昇っているお店。
ファンタジーっぽい見た目の建物でもあり、入る前からワクワクする。
「ミラグロスさん、ここは何のお店なんですか?」
「入れば分かる」
小さく言い残したシーラさんの後を追い、私もお店の中へと入った。
店内には無数のカラフルな液体が並んでおり――おそらくだけど、ポーションの類であることが分かる。
ここは錬金術師のお店とかだろうか?
これまで様々なお店に行ってきたものの、錬金術に特化したお店は初めてのため、一気にテンションが上がった。
「これって全てポーションでしょうか?」
「ん。さっきも言ったように、魔王の領土は危険だからね。ポーションの需要も高いの」
「そうなんですか。絶対に飲んではいけないような色のポーションもあって、面白いですね」
「佐藤さん。このポーションなんか、時間経過と共に色が変化していますよ」
シーラさんが凝視していたポーションを見てみると、確かに十秒ごとくらいに色が変化していた。
汚水に浮いている油なんかは角度によって色が違って見えるけど、これは間違いなく色が変化している。
「久しぶり。遊びに来た」
私たちが食いつくようにポーションを見ていると、ミラグロスさんが誰かに挨拶をした。
すぐに挨拶をした人物を探したんだけど……その姿を発見することが私にはできなかった。





