第420話 アバスカル家
ミラグロスさんのお父さんの部屋はすごく広く、右側にソファが2つ向かい合うように置かれてあって、1番奥には1人用の高価そうな椅子と机がある配置。
そしてソファにはゼパウルさん、ファウスティナさんが座っており、奥の椅子には渋い男性が座っていた。
見た目はゼパウルさんをさらに怖くしたような感じであり、血の繋がりを感じることからもミラグロスさんのお父さんで間違いないと思う。
ゼパウルさんも魔王っぽい感じなんだけど、ミラグロスさんのお父さんはさらに魔王っぽい。
「佐藤さんを連れてきた」
「おお、佐藤さんじゃねェか。久しぶりだなァ」
「本当に佐藤さんだわ! ずっとまた窺いたいと思っていたんだけど、機会がなくて窺えなかったの!」
「ゼパウルさん、ファウスティナさん、お久しぶりです。お元気そうでなによりです。そして、ミラグロスさんのお父さんですよね? はじめまして、佐藤と申します」
「佐藤さんに仕えているシーラです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
ゼパウルさんとファウスティナさんが声を掛けてくれたため、空気が和やかになってよかった。
和やかになった雰囲気のまま、私はミラグロスさんのお父さんに自己紹介を行う。
「……ああ。遠いところから来てくれてありがとう。私の名前はゴッドフリードという」
「ゴッドフリードさんですね。よろしくお願いいたします」
表情は怖いままだけど、丁寧に挨拶をしてくれたゴッドフリードさん。
見た目はゼパウルさんに似ているけど、口数や表情の変化が少ないところからも、性格はミラグロスさんに似ているんだと思う。
「あれ? 母はいないの?」
「急用ができたみたいで、ミラグロスが迎えに行ったすぐ後に出て行っちゃったのよ。本当にタイミングが悪いわよね」
「せっかくなら佐藤さんを紹介したかったけど、仕方ない」
「佐藤さんたちも座れよ。ソファでもいいし、狭いならそっちに椅子があんだろ?」
「椅子、出して座る」
ミラグロスさんがクローゼットの中から椅子を取り出してくれ、左側の空いているスペースに並べてくれた。
反応を窺いつつも、座らせてもらうことにした。
「……ん。じゃあ、これで全員揃った?」
「ああ、全員集まった」
「じゃあ、いきなり本題に入る」
「んあ? 近況報告はしねぇのか? 親父とミラグロスはいつもすぐに本題に入っちまうからなァ」
「……近況報告いる?」
「いるでしょ! 佐藤さんのおかげで食料難が解決したんだからね」
「食料難は解決したんですか?」
嬉しい言葉につい反応してしまった。
ミラグロスさんから農業が上手くいっていることは聞いていたけど、食料難が解決したことまでは知らなかった。
「解決というと語弊があるかもしれないな。ただ、明らかに解決の兆しは見えている。佐藤さんのおかげだ」
「いえいえ。ちゃんと実行できた皆さんがすごいんですよ」
「単純に芋が美味いのもありがてェな。魔王軍に加わらない選択を取ったが、結果的に食料は増えたし大正解だったぜ」
「……兄と姉は反対してたけどね」
「それは言いっこなしですよ。人間と協力するなんて、普通は取れない選択ですから」
私もゼパウルさんとファウスティナさんを責められない。
魔族との交流は、私目線でも最初はかなり怖かったしね。
「私と父のおかげ。……いや、佐藤さんのおかげ」
「それは間違いねぇなァ。佐藤さん以外の人間じゃあ、絶対にこうはいっていなかっただろうしよ」
「改めてお礼を言わせてもらいたい。本当に感謝する。……それで本題に繋がるのだが、今回呼んだのはお礼の品を渡すためだ。ミラグロスから聞いてはいるだろうが、こちらでいくらか用意したのだ」
「親父はあっさりと話を本題に持っていきやがったなァ。もう少し雑談したかったのによォ」
「そんな気を使ってもらわなくて大丈夫ですよ。ミラグロスさんには伝えましたが、ちゃんと対価は頂いていますからね」
ブツブツと文句を言っているゼパウルさんには触れず、私はゴッドフリードさんに気を使わなくて大丈夫なことを伝える。
「これから渡すものは私たちの気持ちだ。本当に救ってもらったからな。どうか受け取ってほしい」
そう言いながら、頭を深々と下げたゴッドフリードさん。
強面で冷たいイメージがあったけど、本当に丁寧で義理堅い方。
「頭を上げてください。私は本当に何もやっていませんし、どちらかといえばミラグロスさんの方が大手柄ですよ」
「ミラグロスの手柄も確かにあるが、1番はどう考えても佐藤さんだ」
「それはそう。気持ちを無碍にしないでほしい」
むむむ……。
そう言われてしまったら、これ以上断るのは逆に失礼になってしまう気がしてきた。
「……分かりました。今回はありがたく受け取らせてもらいますが、次からは本当に大丈夫ですからね」
「ん。じゃあ持ってくる」
ミラグロスさんたちは部屋を出て、私へのプレゼントを取りに行ってしまった。
私、シーラさん、ゴッドフリードさんの3人が部屋に残され、少しだけ気まずい空気が流れる。
「……少し関係ないんだが、1つ佐藤さんに聞いてもいいか?」
「え? もちろんです。何でも聞いてください」
「ミラグロスは上手くやれているのか? 父親である私が言うのもどうかとは思うが、奥手で気難しい性格をしているからな。少しだけ気になってしまう」
私の出自や農業のことを聞かれると思っていたけど、まさかのミラグロスさんについての質問。
やはり魔族でも親は親ということが分かって、ほっこりした気持ちになってしまう。
「私たちはもちろん、みんなとも仲良くしてくれていますよ。催し物にも積極的に参加してくれますし」
「そうなのか? それは意外だな。自分の誕生日パーティーも嫌う子だったから……そのことを聞けて良かった」
そう言って笑ったゴッドフリードさんの表情は父親そのものであり、ミラグロスさんが愛されていることがよく分かる。
「ミラグロスさんには本当にお世話になっていますし、今後とも仲良くやっていきたいと思っています」
「ああ。仲良くしてやってくれたら嬉しい」
そんな会話をしたところで……3人が戻ってきたようだ。
ゴッドフリードさんがゴホンと1つ咳払いをし、表情をキリッとさせたため、私も何も聞かれていない体を装うことにしたのだった。





