第415話 生地
巨人族の村はかなり原始的な雰囲気で、雑な造りの建物がちらほらと見受けられる。
とはいえ、サイズはやはり一回り大きく、歩いているだけで少しワクワクしてしまう。
「やっぱり建物自体が大きいですね。違和感がすごいです」
「ぬっふっふ! そうなのじゃ! ……ただ、大きいこと以外は面白味がないのが難点なのじゃ!」
「いえいえ、そんなことありませんからね。巨人族特有のお店もありますから」
「そうなんですか? どんなお店があるんでしょうか?」
「この先に見えてくるんですが……あのお店です」
アシュロスさんが指さした先にあったのは、さまざまな布地が並ぶ店だった。
シンプルなものからカラフルなものまで、実に豊富な種類の生地が並んでいる。
「生地屋さんですか? 複数店あるってことは、巨人族の村は生地が有名なんでしょうか?」
「そうですね。男性は戦って、女性が生地を作るというのが巨人族では一般的なようです。中には戦う女性もいるようですが」
「カラフルで綺麗だけど、面白くはないのじゃ! 布なんていらないしのう!」
「そんなことはありませんよ。質も良さそうですし、私はかなり興味深いです」
娯楽と同じく、この世界は危険ゆえにお洒落にもやや疎い気がする。
もちろん、ベルベットさんやローゼさんのドレスはお洒落だけど、洋服の種類は少ないからね。
まあ、ファンタジー世界といえばこんなイメージだし、これはこれでいいのかもしれないが……。
ある程度のパンツの種類や、いろいろな柄のTシャツ、それから着心地の良い服は欲しいと思ってしまう。
「佐藤って意外とオシャレを気にするんじゃな! 興味ないのかと思っておったのじゃ!」
「どちらかといえば興味がない寄りではありますが、着心地の良い服は積極的に着たいですね」
「……私も気になります。布を買えば、可愛い服を作れるのかな?」
可愛い服を作れるかどうかまでは分からない。
とはいえ、ロッゾさんやシッドさんあたりなら作ってくれそうな気もする。
仮装パーティーのコスプレも、毎回すごいクオリティだしね。
「何点かは購入していきたいです。ヤトさんは服に興味はないんですか?」
「ないのじゃ! 着られれば何でもいいからのう!」
「アシュロスさんはどうですか?」
「私は興味があります。とはいっても、性能重視になってしまいますが」
服を性能で見るのは、日本ではなかなかない発想だと思う。
ヤトさんは興味がないらしいけど、ついてきてくれるようなので、四人で生地屋さんへ行くことにした。
「すみません。誰かいますか?」
店内には誰も見えなかったため、声をかけると、奥からこちらへ向かう足音が聞こえてきた。
出てきたのは、黒髪パーマの強そうな女性。
どことなく“大阪のおばちゃん”味を感じる方だが、彼女も非常に背が高い。
180センチは超えていそうで、見上げる形になってしまう。
「ん? なんだい! 男どもなら広間にいるよ!」
「い、いえ。こちらの生地を買わせてもらいたくて来たのですが、大丈夫でしょうか?」
「お客さんだったのかい! ますます珍しいね! もちろん、ここにある生地は全部売り物さ! 一体何が欲しいんだい?」
私が男性と知って鬱陶しそうにしていたのに、客だと分かるや否や商売スイッチをパチンと入れる店員さん。
「まず、どんな生地があるのかと、何で購入できるのかを教えてほしいです」
「生地の種類は麻と絹の2種類! お金じゃなくて、物々交換でお願いしたいね!」
「ぶ、物々交換ですか?」
「ああ、そうさ! ほかの亜人との交流はほとんどないから、お金をもらっても困るんだよ! 何か交換できそうなものは持ってるかい?」
まさかの物々交換に、軽くパニックになる。
今回は何も持ってきていないし、交換するとなったらNPを消費して、その場で交換材料になりそうな品を調達するしかない。
……けど、ご存じのとおり、年始にNPをほとんど使い切ってしまったのだ。
少しは溜まっているけど、とても交換材料になり得る品は用意できない。
「すみません。まさか物々交換だとは思っておらず、今回は何も持ってきていないんです」
「あー、それは残念だね! また次来た時は持ってき――」
「おーい! ジュンヒ、ちょっと待てー! その方たちは大事な客人だ! 勝手に帰らせるな!」
門前払いを食らいかけて落ち込んでいたところ、後ろからゴさんが走ってやって来た。
どうやら広間での挨拶を終えて、私たちを探しに来てくれたらしい。
「ん? なんだい! ゴ村長の知り合いだったのかい!」
「そうだ! しかも大事な客人だ! 代わりの物なら俺が出すから、見させてくれ!」
「それならもちろん構わないよ! 好きなだけ見ていってちょうだい!」
ジュンヒと呼ばれたパーマの店員さんは、息を切らして膝に手をついたゴさんの背をパチンと叩くと、店の奥へ戻っていった。
勝手に広間を抜け出し、勝手に生地屋さんに来て、迷惑をかける――我ながらとんでもない客人だ。
ヤトさんについてきただけ、と言えばまあそうなのだけど……。
生地屋さんに行きたいと言い出したのは私だし、ゴさんにはしっかり感謝しないといけないな。





