第411話 お誘い
品評会から2週間が経過した。
いろいろと忙しいながらも、平和でほのぼのとした生活を送れている。
そろそろイベントのことも考えないといけないのだが……毎年、模擬戦大会くらいしかやっていないからね。
新しくお花見を取り入れてもいいと思うものの、肝心の桜がこの世界にはない。
形式だけのお花見なら、ただのピクニックと変わらないしなぁ。
イベントについてあれこれ頭を悩ませていると、黒いドラゴンが飛んでくるのが見えた。
あれは間違いなくヤトさんで、今年度初めて遊びに来てくれた。
定位置に先回りして待っていると、ヤトさんたち一行が飛来した。
「おっ、佐藤なのじゃ! 出迎えてくれたのじゃ!」
「……ヤト、急に人間に変わらないで」
「ちょうど見えたので出迎えに来ました。ヤトさん、ローゼさん、アシュロスさん、お久しぶりです」
「冬以来ですね。毎回ですが、急な来訪で申し訳ありません」
「気にしなくて大丈夫ですよ。簡単な連絡手段もありませんし、急に来てもらっても困りませんから」
スマホやパソコンがあれば便利なんだけど、この世界にはネット回線が存在しない。
トランシーバーならネットがなくても連絡は取れるだろうけど、せいぜい1キロ先が限界だと思う。
「それよりも、今日はここに遊びに来たわけじゃないのじゃ! ゴの奴に呼ばれておってな! 今から向かうんじゃが、佐藤も一緒に来るかのう?」
ゴの奴?
ヤトさんの言っていることが分からず私が首を傾げていると、アシュロスさんが補足してくれた。
「ゴさんというのは、巨人族の長です。激化すると予想されていたリザードマンとの争いがまだ起きていないようなので、遊びに来ないかという誘いがあったんですよ」
「なるほど。それで、遊びに行く前に寄ってくれたんですね」
「そういうことじゃ! それで、佐藤も一緒に来るじゃろ? 行きたいと言っておったもんな!?」
うーん……。
確かに行きたいとは言ったし、実際に巨人族の村には行ってみたい。
とはいえ、すでに農業も始まってしまったし、宿のほうもいつ何があってもおかしくないくらいには混み合っている。
今のところ、私が抜けられる状況ではない。
「すみません。行きたい気持ちはあるんですが、今はかなり忙しくて、私が抜けられる状況ではないんですよね……」
「――! そ、そんなぁ……。せっかく佐藤と一緒に行けると思ったのに! なら、わらわも巨人族の村には行かないのじゃ!」
「えっ? 駄目ですよ。ゴさんには行くと返事をしてしまいましたし、お嬢様を歓迎する準備だって進めてくれております」
「冬に行ったし、わらわは巨人族の村よりもこの村のほうが好きなのじゃ! 佐藤が行くならついていくって言っただけじゃからな!」
不貞腐れたようにそっぽを向き、行かないとゴネ始めたヤトさん。
これは私のせいでもあるし、説得を手伝ったほうがよさそうだ。
「私も申し訳なくなってしまうので、ヤトさんには悪いと思いますが行ってくれませんか?」
「嫌じゃ! 佐藤も行くなら行くのじゃ!」
「……子供みたい」
「わらわは子供じゃないのじゃ!」
ローゼさんのつぶやきに猛反発しているものの、完全に子供のわがまま。
とはいえ、私が行きたいと言ったのも事実。
ヤトさんにというよりは、一緒についてきたアシュロスさんとローゼさん。
それから、出迎え体制で待っているであろうゴさんたち巨人族に迷惑がかかってしまう。
ひとまずシーラさんに相談したほうがいいかもしれない。
もし許可が出たら、期限を設けて同行できるかもしれないからね。
というわけで、私はシーラさんに話をしに行ったんだけど……。
「行ってきても大丈夫ですよ。ちょうどメルツユースを育てれば世話は最小限で済みますし、他のことも1週間ほどで戻ってきてくれれば問題ないと思います」
「本当に大丈夫ですか? てっきり反対されるかと思っていました」
「まぁ私もついていきたい、という意味では反対したいですが、新年度前に遊びに行きましたからね。今回は私が残って、佐藤さんの分も頑張ります。オクトーバーフェストでの借りもようやく返せますし」
想像以上にあっさり許可が出て、こちらが心配になってしまう。
とはいえ、シーラさんが大丈夫と言うなら大抵のことは大丈夫。
ここは任せて、巨人族の村に行ってこようかな。
「シーラさんが大丈夫というなら……巨人族の村に行ってきたいと思います。何かあればヴェレスさんにお願いしてください。多分、何かしらの方法で私に連絡が取れるはずなので」
「分かりました。何かありましたら、すぐにヴェレスさんにお願いしますね」
「はい。シーラさん、ありがとうございます」
本当にヴェレスさんがどうにかできるかは分からないが、ワープのようなことをしていたから……多分いけるはず。
かなり曖昧な解決法ではあるものの、シーラさんなら基本的に何とかしてくれる。
私は改めてお礼を伝えてから、ヤトさんたちに報告へ戻った。
「今、シーラさんに確認してきたのですが、許可をいただけました。ですので、巨人族の村に同行できそうです」
「本当なのか!? シーラには感謝なのじゃ! 本当いいやつじゃ!」
「ありがたいですね。お嬢様の我儘っぷりに困り果てていましたので」
「……シーラさんに感謝です」
「ということで、よろしくお願いします」
「任せるのじゃ! わらわがおれば、巨人族の村までひとっ飛びじゃからな!」
機嫌が一気に回復したヤトさんは、胸を張って大笑いしている。
本当に都合のいい人だなぁとは思うものの、私も楽しみになってきたので、ヤトさんのことを馬鹿にはできないな。





