第408話 新年度の朝
いよいよ今日から新年度が始まる。
待ちに待っていただけに、私自身も非常に楽しみ。
スキル強化については、すでに昨日のうちに終えてあり、残っていたNPをほぼすべて使い切って強化にあてた。
畑が一回り大きくなっているため、より効率よくNPを貯められるようになったはず。
「佐藤さん、おはようございます。いよいよ新年度の朝を迎えましたね」
自室を出て階段を下りると、すでに準備万端のシーラさんが待っていた。
私も早く起きたはずなんだけど、それよりもさらに早く目を覚まして準備をしていたようだ。
「シーラさん、おはようございます。ずいぶんと早いですね」
「楽しみにしていましたので。佐藤さんも早く準備を済ませてください」
「ちょっと待っていてくださいね」
目を輝かせているシーラさんに見つめられながら、私は準備を行う。
非常に気にはなるものの、あまり意識しないようにして準備を終えた。
早めに起きてすぐ準備をしたこともあり、シーラさん以外はまだ誰も起きてきていない。
初日は仕事量も少ないため、ゆっくりしていてもいいくらいなんだけど……この状況でゆっくりするという選択肢はない。
「うぅ……朝はまだ冷えますね」
「でも、気持ちが良いです。それと、畑が広くなりましたね。スキルの畑以外も広くなっていて、いい感じに大農園に近づいていると思います」
別荘を出ると、辺り一面が農地で埋め尽くされており、まさに大農園と呼ぶにふさわしい光景が広がっている。
川の近くには田んぼもあり、裏山には果樹園があるからね。
私的には、もう大農園といっても差し支えないのではと思ってしまうけど……。
シーラさんは、まだまだ大きくするつもりのようだ。
「どこまで大きくしたら大農園なんですかね?」
「分かりませんが、今の3倍くらいの大きさじゃないでしょうか? “大農園”と言うからには、乗り物で移動しないと管理できないくらいにしたいです」
「夢が大きすぎますね。龍人族の方たちの畑も合わせれば、当てはまりそうな感じがしますけど……」
「いやいや、まだまだです。目標は大きいほうが楽しいですから」
笑いながら話すシーラさんに、心の中で同意する。
今でも十分に大農園だと思いながらも、上限を設けずに拡大していきたいという気持ちもある。
そんな他愛のない会話をしながら、私とシーラさんは苗植えや種まきを進めていく。
NPを使って品揃えも充実させたため、今年は新しい作物をいくつか植えることにした。
しっかりとどこに何の作物を植えたかを覚えておきながら、成長速度、収穫のしやすさ、NP効率を記録していく。
味も気になるところではあるけど、この世界の作物は大抵まずいため、食用としての期待は一切できない。
「うぅ……もう作業が終わってしまいそうです!」
「畑を広くしたといっても、初日は畑の4分の1の種まきと苗植えだけですからね。日の出とともに作業を始めたので、こんなものだと思いますよ」
「毎年思いますけど、早すぎます。……スキルの畑以外もやっていいですかね?」
「それは駄目です。自分たちの持ち場だけで留めましょう」
みんなが来る前に作業が終わりかけてしまい、シーラさんが嘆いている。
もっと仕事がしたいという、なんとも変わった嘆きではあるものの、こればかりは認めるわけにはいかない。
一人が頑張りすぎると、他の人にも「頑張らなければ」という圧力が生まれてしまうからね。
ブラックな労働環境を生まないためにも、残業は一切認めていない。
「じゃあ、もう終わりなんですかね? 朝に終わってしまう仕事って悲しすぎます」
「徐々に仕事量が増えていきますし、今日だけですよ。みなさんの応援に回りましょうか」
シーラさんと一緒に別荘へと戻り、みんなと食卓を囲んだあと、今日の業務を終えた私たちはサポートへ回ることにした。
とはいえ、他の仕事量も少なく、午前中にはすべての作業が終了したため、私は宿の様子を見に行くことに決めた。
『サトゥーイン』も今日から営業を再開しており、満員という大盛況で初日を迎えることができている。
それだけでなく、休業中も宿泊予約が殺到していたらしく、2カ月先まで全室埋まっているとレティシアさんが言っていた。
本来なら、まばらな客入りから徐々に増えていくのが理想的だったのだが、初日からピークというのはルーチアさんたちに負担をかけてしまっている。
長期休暇明けの繁忙ほど、大変な仕事はないからね。
「みなさん、応援に来ました。問題なく回せていますか?」
「あっ、佐藤さん! 今のところ問題なし!」
「いきなり大賑わいだが、まだ回せているな。今日は受付だから、まぁ問題なく回せている」
「大変なのは明日から。部屋の片づけも入るから……」
小さく呟いたルナさんの言葉に、同意するようにみんなが頷いた。
今日は大丈夫そうだが、明日からが本番になりそうだ。
「業務に慣れるまで、応援を呼んだほうがいいですか? 畑のほうはしばらく楽なので、1週間ほどは人手を貸せると思います」
「あっ、借りた――」
「駄目だ。冬に長期休暇をもらったんだから、私たちだけで働く。勘を戻すまでは大変だが、できない仕事ではないからな」
ソアラさんが要請を受けようとしたが、ルーチアさんが即座に却下した。
それに対する反対意見も出ていないし、応援は不要という判断のようだ。
「本当に大丈夫ですか? お客様に迷惑がかかってしまうのが1番いけませんからね?」
「大丈夫だ。そもそも人数もしっかり割いてもらっているし、もう素人ではないから、私たちだけで回せる」
「分かりました。それではよろしくお願いします」
ルーチアさんの言葉からプロとしての誇りを感じたため、私は素直に引き下がることにした。
明日は応援の代わりに差し入れを持ってくることを決め、今日は宿の中を軽く見回ってから別荘に戻ることにしたのだった。





