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38歳社畜おっさんの巻き込まれ異世界生活~【異世界農業】なる神スキルを授かったので田舎でスローライフを送ります~  作者: 岡本剛也
第4章

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第397話 想像以上のダメージ


 来賓席からも見てはいたけど、実際に目の当たりにすると、その体の大きさに思わず口が塞がらない。

 身長も凄まじいが、何より目を見張るのは筋肉量。

 私の中での1番大きな方はドニーさんだったけど、アールジャックさんは頭ひとつ抜けての第1位に躍り出た。


「ガロさん、アールジャックさんを呼んだんですか? 色々と頭が真っ白です」

「ん? ライムはいないのか?」


 初めて聞くアールジャックさんの声は、見た目の厳つさとは裏腹に、低音ながらどこか優しさがある。


「目立ちすぎるから連れてこなかったそうじゃ。それより座るといい。ライムより先に、その主に話をしたほうが早いじゃろう?」

「あなたがライムの主なのか」

「そ、そうです。ライムにご用があったんですか?」

「ああ。リベンジをさせてもらいたくて、その交渉に来た」


 なるほど。だからわざわざ『バッカス』まで来たのか。

 ライムは試合後も元気そうだったし、帰るまでに1戦くらいはできるとは思う。

 それこそ、コロッセウムさえ借りられれば、すぐにでも――。


「すみませんが、明後日には発つ予定なんです。明日なら可能ですが……アールジャックさんのほうが難しいですよね?」

「明日やってもらえるのか? ぜひお願いしたい」

「ふぉっふぉっふぉ。ワシが言えた義理じゃないが、その体じゃ無理じゃろ。右目も見えとらんのだろう?」


 眼窩底を骨折してしまったのか、右目は大きく腫れ、鼻も痛々しく曲がっている。

 さらにガロさんと同じく、左腕も思うように動いていないようだ。


「いや、大丈夫だ。戦えるなら戦いたい」

「ほれ、脇腹もやっとるじゃろ」


 ガロさんは不意にコップを投げた。

 といっても放物線を描く優しいトス。

 だけど、アールジャックさんは右手を伸ばしきれず、コップは床に落ちて割れた。


「ちょっと! 何を勝手に店の備品を投げてるのよ!」

「すまんすまん。ヒビの入った古いコップじゃったし、代わりを買うから勘弁してくれ」

「言質を取ったからね! 絶対買ってから帰りなさいよ!」


 マスターに平謝りして事なきを得たけど、気になるのはコップよりアールジャックさんの方。

 さっきの位置なら右手を伸ばせば掴めたはずだけど、コップを掴もうとして顔を歪めていた。


「そんなに酷い怪我なんですか?」

「酷いというほどではなかろうが、明日は無理という話じゃな。ふぉっふぉっふぉ。ワシのアールジャックの一大決戦と言われておったが、ライムに派手に壊されたのう」

「…………本当にその通りだ。油断はしていなかったが、相手はガロさんだけだと思っていた」

「ワシもじゃ。魔物があれほど強いとは、この歳まで知らなんだわい」

「うーん……魔物というより、ライムだけが特別な気がします。マッシュはアールジャックさんにボコボコにされてしまいましたし」


 ライムでさえ対策されれば負けるかもしれない――それほどアールジャックさんのフィジカルは異常だ。


「そのマッシュも力が制限されとったんじゃろ? ライムもじゃが、本気で戦われたら勝ち目は薄いのう」

「それは本当か? マッシュもライムも、力を制限された状態であの強さなのか?」


 その話は知らなかったらしく、アールジャックさんは心底驚いた表情を見せた。


「そうではありますが……そもそも武闘大会は魔法禁止ですし、許容範囲の制限だと思います。ライムは、制限があってもなくても強さは大して変わらない気がしますけど」

「それでも、ワシは本気のライムとやってみたくなったがのう」

「俺もだ。次は本気で戦ってもらいたい」


 地位や名誉より、強い相手と戦」ことが根っこにあるんたと思う。

 2人とも、目が少年みたいに輝いている。


「ギナワノスには頻繁には来られませんが、私たちの住んでいるところに来てくだされば、基本いつでも再戦を受けられます。来年になりますが、私主催の模擬戦大会もありますし、都合のいいときに来てください」

「ほほう、佐藤さんも大会を開いとるのか。それは参加してみたいのう。ちなみに前回の優勝者は誰なんじゃ?」

「もちろんライムです。ただ、ライムでも序盤で負けうる強者が揃っていますよ。お二人が来ても十分楽しめるはずですよ」

「なら、その大会に合わせて行かせてもらう。佐藤さん、再戦の機会をありがとう」


 握手はできないほど体が痛むようだけど、視線でしっかり意思は通じた。

 私としても、2人が参加してくれたらありがたい。


「それては俺は帰る。ガロさんとも、次は戦いたい」

「ワシもじゃ。近いうちに頼むぞ」


 店を出ていくアールジャックさんを見送ったあと、私たちは残って少し談笑した。

 もっとも、ガロさんは怪我のせいか酒を口にせず素面のまま。

 私だけ気分よくなって申し訳なかったけれど……いろいろな話が聞けて、とても楽しい夜になった。



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