第386話 水戸黄門
両者ともに膝をついているけど、ガロさんはすでに立ち上がろうとしており、麻痺の影響がさほどないように見える。
ライムが調整して、ガロさんには胞子の量を少なくしたのかもしれない。
「お前ら、一体何者だ? ただじゃ済まないからなァ」
三白眼の男性は依然として動けずにいるけど、鋭い眼光と怒気に満ちた声で脅してきた。
私は悲鳴を上げそうになったけど、何とか抑え込み、ガロさんに声をかける。
「ガロさん、大丈夫ですか? すみません。争いごとは絶対にいけないと思い、ガロさんの動きも封じてしまいました」
「ん……? ……ガロ?」
「ワシは大丈夫じゃ。まだちょいと痺れておるが……ふぅー。ほれ、もう元どおりに動かすことができる」
深呼吸をすると、その場で飛び跳ねて無事をアピールしてくれた。
痺れからの回復が早いし、これはガロさんの麻痺耐性が高いんだと思う。
「それなら良かったです。指示は私が出しましたが、まさか胞子で動きを止めるとは思っていなかったので」
「まあこれぐらい乱暴じゃないと、ワシらは止まらんかったと思うぞ。つい、カッとなってしまったからのう。ふぉっふぉっ」
笑い事ではないと思うんだけど、とにかく体に異常がなく、冷静にもなってくれたみたいで良かった。
私がホッとしたのも束の間、三白眼の男性が何やらうめき声のようなものをあげ始めた。
もしかして、麻痺がさらに効いてきてしまったのかもしれない。
「あの、大丈夫ですか? すぐに解毒薬を――」
「……な、なぁ……ガロって、あのガロじゃねぇよな?」
ようやく口を開いた三白眼の男性の声からは、先ほどまで恐ろしいほど感じていた怒気が消えていた。
よく見れば、目尻も垂れており、三白眼ですらなくなっている。
多分だけど、私がガロさんの名前を呼んだことで察したんだと思う。
冷静に考えれば、ギナワノスで戦う闘士がガロさんを知らないわけがない。
「想像されているガロさんと同一人物だと思います」
「う、嘘だろ? か、騙ってるなら、それこそ冗談じゃ済まないぞ」
「さっきの兵士と同じことを言っておるな。何度も言うが、わざわざガロを名乗らんじゃろ」
「ほ、本当にガロ……さんなのか?」
「ああ、正真正銘ガロじゃ」
ガロさんが自信満々にそう告げると、ひざ立ちの状態から勢いよく頭を地面につけた三白眼の男性。
体が思うように動かないということもあるんだろうけど、それにしても勢いよく顔から倒れた。
「す、すまねぇ! まさかガロさんだとは思わず、失礼な態度を取っちまった。この通りだ。許してくれ」
「ふぉっふぉっふぉ。許すも許さんも、お主が吹っかけてきただけじゃろう。特に気にしておらんわ」
「本当に申し訳ねぇ!」
抑えきれない怒りを抱えていたようにも見えた男性が、ガロさんと分かるや否やこうなるんだもんなぁ。
さっきの兵士さんといい、なんというか水戸黄門を見ている気分になる。
「攻撃の意思がないなら構わんよ。こちらこそ、勝手に踏み入って悪かったのう」
「い、いや、ガロさんならむしろ歓迎されるべきだ。――名乗るのが遅れてしまってすまない。俺の名前はスピンだ」
「スピンさんですね。私は佐藤と言いまして、こちらがジョエル君です」
「ワシは名乗らんでいいと思うが、ガロという。コロッセウムに上下関係なんかないんじゃが、一応先輩ということにはなるんかの?」
「もちろん大先輩だ。ピリついていたとはいえ、失礼な態度を取って悪かった」
未だに顔を地面につけたまま、謝り続けているスピンさん。
この土下座に近い姿勢だからよく分かるけど、本当に腕の長い人だなぁ。
「とりあえず解毒薬をお渡しします。麻痺もすぐに治る……はずです」
「自信なさげなのが少し怖ぇが、ありがたく飲ませてもらう」
私はスピンさんを起こし、解毒薬を飲ませてあげた。
マッシュの能力が進化していることが分かったため、この解毒薬で効くのかどうか不安だけど、ルーアさんお手製の解毒薬だし、さすがに効くと思う。
「それじゃもう心配はいらんか? ワシらはもう少し見学させてもらうぞ」
「あっ、ちょっと待ってくれ。急に襲った詫びとして、俺に案内させてほしい。案内といっても、ガロさんのほうが詳しいだろうが、俺のように襲う奴が確実にいるからな。俺がいれば抑止力にはなる」
「ありがたい申し出じゃが、体は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。飲ませてもらった解毒薬の質がいいのか、もう痺れが取れ始めてきている」
まだ若干痺れは残っているようだけど、立ち上がってみせたスピンさん。
さすがは闘士なだけあって、体の回復もすさまじい。
「それなら、ついてきてもらおうかのう。よろしく頼むぞ」
「ああ、任せてくれ。失礼な奴がいたら、俺が叩きのめす」
「心強いわい。まあ今のところ一番失礼じゃったのはスピンじゃがな」
「そ、それは……言わないでくれ」
「冗談じゃ」
軽口も叩きながら、調整場をさらに奥へと進み始めたガロさん。
私はもう引き返したい気持ちがあったけど、スピンさんが護衛してくれると言ってくれたしなぁ。
今さら大丈夫ですとは言い出せず、ライムとマッシュに挟まれて守られながら、私とジョエル君はガロさんの後をついていったのだった。





