第35話 バレバレ
ベルベットさんがやってきた四日目のある日。
いつものように三人で畑仕事をしていたのだが、シーラさんの強さの話になり、そこから何故かベルベットさんとシーラさんが模擬戦を行うことになった。
私は物騒なことは好きではないんだけど、模擬戦はよくやることのようで、決して不仲だから行うといったものでもないことから承諾。
いつも以上に作業の速度を上げ、私達は夕方前には全てを終わらせて模擬戦の時間を作った。
「よーし。畑仕事もいいけど、剣を振るのも久しぶりだと楽しみ」
「ちなみにですが、シーラさんはベルベットさん相手でも戦えるんですか?」
「殺す訳じゃありませんし、全力で戦うつもりですよ?」
何てことのない顔でそう言ってのけたシーラさん。
私なら怪我や傷を負わせてしまったらと考えてしまい、怖くて模擬戦なんてできないんだけど……そこは日本とこの世界とで生まれ育った認識の違いなんだろうな。
「何なら佐藤もやる?」
「いやいや、私なんか戦えませんよ! ベルベットさんも能力値を知っているでしょう?」
「でも、佐藤さんは毎晩剣を振っていますよね? 努力は裏切りませんし、強くなってはいると思いますよ」
「えっ……。シーラさん、気づいていたんですか」
「それはもちろん。剣の振る音には敏感なので」
せっかく剣を譲ってもらったから、毎晩こっそりと剣を振っていたんだけど、まさかのシーラさんにバレていたのか。
剣なんて生まれてから一度も振ったことがなかったし、ある程度形になるまでは隠しておこうと思っていたのに、全て筒抜けだったみたいだ。
「ちなみに私も知ってるわよ。シーラの言っていた通り、毎晩部屋から聞こえていたし……佐藤のすぐに息が切れる音もしっかり聞こえていたわ」
「これは恥ずかしいですね。お見苦しい音を聞かせてしまってすいません」
「別に見苦しくはないけど……ということだし、佐藤もやるでしょ?」
これは断れない流れかな?
流石に手加減してくれると思うし、二人から指導してもらえると考えたら、かなり良い経験を積むことができるのかもしれない。
「分かりました。お二人の模擬戦が終わったら、私もお手合わせお願いします」
「喜んで戦わせて頂きます」
「まぁまずは私とシーラからか! どうせなら、ライムとかマッシュとも手合わせしたいけど……流石に駄目?」
「手加減するならいいんじゃないでしょうか。まぁライムが戦えるかは分からないですけど」
ぷよぷよしているだけで、攻撃手段なんか持ち合わせていないだろうからな。
マッシュも搦め手が得意なだけで、真っ向勝負となったら厳しい感じがある。
「まずはシーラ。そのあとに佐藤。それからは魔物たちとも戦ってみよう! 攻撃手段を確認するってだけでも、意味のある模擬戦になりそうだし」
「いいと思います。それではベルベット様、よろしくお願い致します。手加減は致しませんので」
「もちろん。手加減したら許さないから」
二人は好戦的な笑みを浮かべてから、互いに木剣を握って構えた。
王女様だから戦えないのではとも思っていたけど、構えた感じを見る限りでは風格がある。
きっと幼いころから剣術を習っていたに違いない。
初めて目の前で見る模擬戦に、私は若干ながらワクワクしつつ、促されたため試合開始の合図を出す。
「そ、それでは――始め」
私の合図と共に二人は飛び出し、殺すつもりなのかと思うほど激しく木剣を打ち合い始めた。
様々な駆け引きが行われているのだろうけど、私には二人が高速で動いているだけにしか見えず、何なら打ち合っている木剣の音しか認知できていない。
その激しさに圧倒されていると、どうやら戦況が徐々に動き出した様子。
最初は互角に打ち合っていたのだけど、シーラさんがベルベットさんを押し始めた。
素人目でも分かるくらいにベルベットさんの手数が減っており、とうとう受け一辺倒に変わった。
そして――シーラさんの強烈な一撃が脇腹に決まり、トドメの一撃が脳天に入った。
「っいったぁ……。シーラ、強すぎでしょ!」
「ベルベット様もお強かったです。お怪我はありませんか?」
「打ち込む時に力を抜いてくれたみたいだから大丈夫。あーあ、最初は勝てると思ったんだけど……悔しい!」
「お二人とも凄かったです! 私目線では速すぎて何がなんだか分からなかったですよ!」
興奮をそのままに、二人に拍手を送る。
これが魔物が跋扈する世界で生まれた人間の戦い。
ファングディアの時も凄かったけど、ベルベットさんも凄かったから、より高度で激しい戦闘を見ることができた。
この戦いを見てしまったら、私も少しは戦えるようになりたいと思うけど……軽い素振りで息が切れる私には難しい話だろう。
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