第379話 『レガースキッド』
『オッドゴールホテル』を出て、街行く人に尋ねながら歩くこと約10分。
この街の象徴ともいえるコロッセウムの近くに、『レガースキッド』はあった。
いわゆる一等地にある店だけあって、人だかりができているのが分かる。
武闘大会が近づくにつれてお客さんは増えるだろうし、このタイミングでやって来たのは大正解。
「すごい人ですね。お店自体も、想像していたより大きいです」
「昔はコロッセウムから遠い場所で、なおかつお店自体も小さかったみたいですけどね。個人の趣味から始まった店が人気を得て、公式に認められるようになったそうです」
熱量の高いファンがさらに熱を呼ぶ、というのはよくある話だ。
『レガースキッド』もその最たる例で、否定せず受け入れて共に大きくしたコロッセウム側の運営にも、私は拍手を送りたいくらい。
私たちは長蛇の列に並びながら、シーラさんから武闘大会についての話を聞いた。
ギナワノスに行くと決まった時から、どうやら大会のことを調べていたらしい。
どのように盛り上がっていき、現在の状況に至ったのかまでを、分かりやすく説明してくれたシーラさん。
私たちの前後のお客さんも聞き入っていたし、長く並んでいたのに退屈する暇がなかった。
「――という感じになりますね。今年の優勝候補はアールジャックという方で、今のところ3連覇を果たしている絶対王者です。今年は、その牙城を崩す挑戦者が現れるのかが見どころ、という話でした」
「3連覇中ってすごいですね。現時点での最多連覇記録ですか?」
「過去に10連覇した方がいるみたいですが、数百年前の人物のようです。ちなみに最多優勝記録はガロさんですよ」
「へえー! ガロさんはやっぱりすごい方なんですね」
ガロさんも最大で3連覇どまりらしいけど、優勝回数は最多の15回。
以前話したときは謙遜していたけれど、アールジャックという方の前の絶対王者がガロさんらしい。
ガロさんが引退してからは武闘大会自体が低迷期だったみたいだけど、アールジャックさんの台頭で再び人気に火がついたとのこと。
今年は4連覇もかかっている注目度の高い大会で、シーラさん曰く一番いいときに見に来られたようだ。
「シーラは詳しすぎるって。最近まで、武闘大会のことも知らなかったんでしょ?」
「はい。せっかく行くなら調べようと思って調べたのですが、歴史が面白くて、つい調べすぎてしまいました」
シーラさんはオタク気質がある。
ダンジョンにも異様なほど詳しいし、料理も知識だけならトップクラス。
これと決めたものは、気が済むまで調べたくなるのかもしれない。
「と、話しているうちに順番が来ましたね。ずっと来たかっただけに楽しみです」
「私も俄然楽しみになりました。最古の闘技者の装備品から並んでいるんですかね?」
入場料を支払って中に入ると、まず目に飛び込んできたのはめちゃくちゃ古い装備品の数々。
説明も事細かに書かれており、どうやら第100回大会の優勝者の装備品らしい。
第1回大会でないことに少しがっかりしたけど、第100回のものでも十分すぎるほど古い。
今回行われるのは第874回大会。1年に1回開かれる計算だと、700年以上前の装備ということになる。
そう考えると……貴重すぎるお宝だ。
「当時のままを展示しているから、時代背景も分かるね。武器が鋭すぎるし、血の残り方が生々しいわ」
「今は死者が出ないように運営されていますけど、当時は殺し合いに近かったようですからね。装備の血痕がグロテスクです」
剣もそうだが、防具にも相当量の血が付着している。
いまも殺し合いだったとしたら、私は絶対に見に来ていない。
時代に合わせてルールが変化してくれて本当によかった。
それから古い順に装備品を見ていったんだけど、優勝者の装備だけあって、高価な素材で作られたものが多く展示されていた。
シーラさん曰く、最近までは装備品の決まりがなかったらしい。
より高価な装備を身につけた者が絶対的に有利とされる中、約50年前に現れたのがブラック=ラックという人物。
貧困街出身で高価な武器が買えない状況の中、ブラック=ラックさんは無手で優勝を果たしたという。
大柄な男同士が、パワーと武器の強さだけでぶつかる大味な戦いが主流だった時代に、身軽さと身体能力を生かしたブラック=ラックさんの快進撃は大いに盛り上がった――と、説明欄にも書かれていた。
その盛り上がりが、武器による優劣をなくすきっかけとなり、今に至ったらしい。
ここまで高価そうな武器が並ぶ中で、血と汚れでボロボロになったバンテージだけが展示されている――それが、私はすごく格好いいと思ってしまった。
背景を知らなければ、ただの汚れた布切れにすぎないからね。
それが輝いて見えるのも、『レガースキッド』の面白さの一端だと思う。
そして、ここからは近代。
私の知り合いでもある、ガロさんの装備も登場してくるはずだ。
武器に制限がつき、優勝者が偏ったことで展示としての意外性は薄れるかもしれないけど――知り合いというだけで、私はもうテンションが上がってしまう。





