第376話 ギナワノスの街
馬車を降り、まずはみんなと合流する。
基本的には自由行動を取るつもりだけど、最初に宿は確保しておきたいところだ。
懸念点を挙げるとすれば、従魔も一緒に泊まれる宿があるかどうか。
ベルベットさんの話では、ギナワノスは従魔に寛容な街らしいから存在はすると思うけど……少し不安ではある。
「皆さん、無事に到着できましたね」
「腰がバキバキですけどね! 今日はお布団でゆっくりしたいと思っていたんですけど……ギナワノスの街並みを見たら、移動の疲れが吹き飛びました!」
「ジョエルは本当に大げさだね。移動の疲れなんて大したことないだろう」
「だな。ダンジョンに潜ってるときの方が何倍も疲れる」
「ダンジョンの疲れと移動の疲れはまったく別物ですよ! ずっと座っていないといけないという、精神的な疲れがあるんです!」
ジョエル君の必死の訴えも、ブリタニーさんやルーアさんにはまったく響いていない様子。
私も気持ちは分かるけど、ここで加勢したところで意味はなさそうなので、話を本題に戻すことにした。
「移動疲れの件は置いておいて、まずは宿探しをしましょう。従魔も泊まれる宿を探したいので、手分けして見て回ってもらっていいでしょうか?」
「あっ、従魔可の宿なら心当たりがあるわよ」
こちらが探そうとした矢先、ベルベットさんから神の一声。
もしかすると、事前に調べてきてくれたのかもしれない。
「本当ですか? それならベルベットさんの知っている宿に行きましょうか」
「ええ、案内するわ。知り合いが経営しているから、きっと値引きもしてもらえるはず」
「さすが王女様。人脈が広いですね」
ベルベットさんに感謝しつつ、ギナワノスの街並みを楽しみながら歩いていると――彼女がとある建物の前で立ち止まった。
目の前の宿は、明らかに豪華絢爛。超高級宿であることは、一目見ただけで分かる。
「ベルベットさん、まさかこの宿ですか?」
「ええ。従魔も泊まれるし、私の知り合いが経営しているの」
「なるほど……考えてみれば、王女様の知り合いなんだから、これくらいの宿を経営していてもおかしくないか」
「それにしても豪華すぎます。こんな宿に大会が終わるまで泊まったら、お金がなくなっちゃいますよ」
「心配しなくても大丈夫。そこは私に任せておいて」
そう言って自信満々に笑うと、私の制止を聞かずに宿の中へ入っていった。
今回の宿泊費は私が全員分を支払う予定だっただけに、不安しかない。
「いらっしゃいませ。『オッドゴールホテル』へようこそ」
フロントには、綺麗な女性が四人。息をぴったり合わせて一礼しながら挨拶してきた。
『サトゥーイン』も接客には力を入れているけど、それに匹敵するレベルの対応力だ。
「マニエル支配人はいらっしゃるかしら? いるのなら呼んできてほしいの」
「支配人ですね? えーと、アポイントメントは取っていらっしゃいますか?」
「取ってはいないけれど、『ベルベットという者が来た』と伝えれば分かると思うわ」
「ベルベット……様、ですか。大変失礼いたしました。すぐにお呼びしてまいります!」
「いえいえ、急に来た私が悪いもの。ゆっくりで構わないわ」
ベルベットさんの名前を聞いた瞬間、ピンと来たのか、フロント嬢の一人が慌てて奥へ消えていった。
残った三人も、慌ててもてなしの準備を始めようとしたが、ベルベットさんがやんわりと制止する。
「すごいですね! 僕、今まであまり実感なかったんですけど……今、初めてベルベットさんが本当に王女様なんだって実感しました!」
「失礼すぎるでしょ。まあ、確かに佐藤のところではまったく王女様扱いされてないけど」
「えっ? 私は王女様として扱っているつもりですが……」
「いやいや、シーラもけっこう雑よ。あなたの“王女様扱い”なんて、せいぜい“様付け”くらいでしょ」
そう指摘され、シーラさんが驚愕の表情を浮かべる。
私もベルベットさんと同じ認識だったけど、どうやら本人の中ではちゃんと“王女様扱い”していたらしい。
「盛り上がっているところすみません。ベルベット様、お久しぶりです」
「マニエル、久しぶり。手紙で伝えていた通り、しばらく泊めてもらうけど大丈夫?」
「もちろんです。ベルベット様の頼みなら、喜んでお受けいたしますよ。それにしても……本当にお友達をお作りになったのですね」
私たちを見渡して、穏やかに微笑む宿の支配人――マニエル。
年齢は六十ほどだが、紳士的な物腰もあって、年齢を感じさせない。
「どういう意味かしら? 私には友人がたくさんいるんだけど?」
「ふふふ、そうでしたね。失礼いたしました。それでは、お部屋へご案内いたします」
「ええ、よろしくお願いするわ」
なんというか、微笑ましいやり取りだ。
長い付き合いなのが分かるし、最近は会っていなかったようだけど、互いの信頼が伝わってくる。
詳しい話は後で聞くとして、今はマニエルさんに部屋を案内してもらおう。





