第366話 熱量
部屋に戻り、早速漫画を読ませてもらった。
内容はコメディタッチのファンタジーもの。
前回、ベルベットさんが描いてきた主人公は据え置きのまま、お城を抜け出して冒険者業に勤しむというお話。
主人公は王女様とはいえ、一流の指導を受けていたから実力はしっかりとあり、きちんと冒険者として活躍しながら、身分を隠して立ち回る面白さもある。
今回持ってきてくれたのは6話分まで。
冒険者ギルドとは別で、従者の悩みを聞いた王女様が、少し遠くの場所までアイテムを求めて冒険する――という、1番いいところで終わってしまっている。
コミカルタッチであるため、読んでいて疲労感は一切なく、内容や会話のやり取りも細かくて非常に面白い。
本物の王女様であるベルベットさんだからこそのディテールの細かさがありつつ、ローゼさんの練り込まれたストーリーと非常にマッチしている。
「……これはクオリティが高い」
そう独り言を呟いてしまうほど、完成度の高い漫画となっている。
ベルベットさんの作画もさらに良くなっている気がするし、背景はローゼさんも手伝っているのか、ところどころ描き込みがとんでもない箇所がある。
ひとつ気になるのは、まだ小説的な部分が残っていること。
漫画は絵で表現できるため、もう少しセリフを削ってもいいように思えた。
まあ、気になったのはこの1点くらいだし、修正しなくとも十二分に面白い。
気が早いかもしれないけど……これはもう売りに出してもいいレベルだと思う。
今すぐにでもベルベットさんとローゼさんに感想を伝えたくなったが、すでに日付が回っている時間帯。
興奮冷めやらぬといった感じではあるが、今日は無理やり眠って、明日の朝一で2人に感想を伝えようと思う。
気になった箇所を読み返しつつ、気持ちが落ち着いたところで就寝した。
あまり眠れなかったものの、迎えた翌朝。
私は早めに準備を整えて、ベルベットさんとローゼさんが起きてくるのを待つ。
私の次に起床してきたシーラさんが不思議そうな顔をしていたけど、漫画のことはまだ話せないのがもどかしい。
適当に誤魔化しつつ、ローゼさんが起きてきたところを捕まえて話をすることにした。
「ローゼさん、おはようございます。昨日の夜に全部読ませていただきました」
「……おはようございます。佐藤さん、テンションが高いですね」
「そりゃあ面白かったので! 本当は昨日のうちに感想を伝えたかったくらいです」
「……そう思ってもらえてよかったです。ただ、感想の続きはベルベットさんが起きてからの方がいいんじゃないでしょうか?」
勢いでローゼさんを捕まえてしまったが、確かにベルベットさんが起きてからの方が効率はいい。
同じ感想を2人に伝えるわけだしね。
「確かにそうですね。ベルベットさんが来たら改めて――」
そこまで話したところで、ベルベットさんが2階から降りてきた。
これはナイスタイミングと言わざるを得ない。
「ふぁーあ。あ、佐藤とローゼ。朝から何をしてるの?」
「ベルベットさん、おはようございます。今、ちょうど昨日の漫画の感想を伝えようと思っていたところだったんです。今からいいですか?」
「別に構わないけど……農作業が終わってからじゃダメなの?」
「はい。昨日の夜から感想を伝えたくてモヤモヤしていたので、今から伝えさせてください」
「テンション的に悪い感想ではなさそうね。なら、別に今でもいいわよ」
ベルベットさんから許可をもらったため、私は昨日の漫画の感想を細かく2人に熱弁した。
どこが面白かったのか、どの要素がワクワクしたのか、良かったと思った点も羅列していき、私の熱量に若干2人が引いているほど。
「――感想はこんな感じです! 分担したこともあって、全体のクオリティが一段階上がっていましたし、素直に感動しました!」
「嬉しいけど、熱すぎるって。聞いてるこっちが照れちゃう」
「……でも、私は嬉しかったです。佐藤さん、真剣に読んでくださりありがとうございます」
「こちらこそ、素晴らしい作品をありがとうございます。そこで、一つご相談があるのですが……本格的に漫画の出版を行いませんか? 漫画を売るに当たって伝手ができまして、ベルベットさんとローゼさんが乗り気であれば、すぐにお話を持っていきたいと思っています」
「またその話!? 売るのはまだ早いと思うんだけど……」
「絶対にいけます。今回の漫画を読んで、私は売れると確信しました」
「……私も恥ずかしいですが、佐藤さんがそこまで言うのなら大丈夫なんですかね?」
引くほどの熱量で感想を伝えたこともあり、2人の反応は思っていた以上に悪くない。
これなら、押せばいけるかもしれない。
「絶対に大丈夫です。もちろん初期投資は私が出しますので、2人の漫画を売らせてください」
「うーん……。佐藤がそこまで言うなら大丈夫なんだろうけど……もう少しだけ考えさせて」
「……2人で話し合います。今日の夜には返答できるようにしますので」
「はい。いいお返事を待っていますね」
そこで話を切り上げ、私たちは再びリビングに戻って朝食を取ることにした。
このあとは農作業をこなし、夜まで時間を潰して、2人の返答を聞くことになる。
返事が気になって作業に集中できるか心配だけど、気持ちを切り替えて頑張るとしよう。





