第365話 完成
仮装パーティーは例年通り、ロッゾさんとシッドさんによる苛烈な最優秀賞争いが行われた。
そして、票数を2票だけ上回り、シッドさんの古代兵器風ロボットの仮装が最優秀賞を受賞。
昨日もちゃんとしていたし、操作性も抜群。
XやYouTubeに投稿したら、確実にバズるであろう力作だった。
シッドさんやロッゾさん以外の方の仮装も気合が入っていたし、微妙だったのは私の天使の仮装くらい。
それでも、ピエロとしては盛り上げることができたし、今年の仮装パーティーも大盛り上がりで終了することができた。
唯一残念だったのは、ロッゾさん宅の近くで葉巻を吸っていたナハスさんと再会できなかったこと。
驚くくらいの美少女だったし、他の方が見ていたら分かると思ったんだけど、目撃情報はまさかのゼロ。
仮装パーティーに参加した方ではなく、宿の宿泊客だったのかもしれない。
まぁ、またいつか会えたときには話がしたいな。
そんなこんなで、今年のイベントはほぼほぼ終了した。
あとは、年明け後のクリスマスパーティーだけだし、ゆっくり過ごしながら冬を待つだけ。
最近は色々と忙しくしていたものの、これからしばらくは何もないとなると少し寂しくなる。
ライムとマッシュもまだ帰ってくる気配がないし、人はたくさんいるんだけど寂しい気持ちになってしまう。
農作業を行いながら、若干ローテンションになっていると、別荘から汚れてもいい服に着替えてやってきたローゼさんとベルベットさんの姿が見えた。
格好からして手伝ってくれるようで、まだ帰っていないことも意外。
2日間のイベントを満喫し、大抵の方は帰ってしまったからね。
まだ別荘で寝ているヤトさんも、今日には帰ると言っていたから、2人もてっきり帰ると思っていたんだけど……残っているということは、漫画のことだろうか?
「ローゼさん、ベルベットさん、おはようございます。手伝ってくれるんでしょうか?」
「佐藤、おはよう。うん、色々と頼みたいことがあるからね」
「……対価目当てで申し訳ありません。手伝ってもいいですか?」
「もちろんです。農作業が終わり次第、聞かせていただきます」
合流したベルベットさんとローゼさんにも手伝ってもらいながら、せっせと農作業を進めていく。
最近はただでさえ作業が終わるのが早くなっている中、2人が手伝ってくれたことでさらに早く終えることができた。
この広さでも十分ではあるんだけど、来年にはもう少し広げることは確定だね。
改めてそんなことを考えながら農具をしまい、手伝ってくれたベルベットさんとローゼさんのもとへ向かう。
「お疲れ様でした。おかげさまでだいぶ早く終わりました」
「本当に早く終わったわね。人も増えたし、魔法で一気に作業している方も多いから?」
「そうだと思います。最近は日が暮れるまで作業することは滅多にありませんし、人が増えて楽になりましたね」
「……賑わってますもんね。来るたびに新しい方が増えている気がします」
「佐藤とシーラの2人でやっていた頃が懐かしい。やっぱり佐藤は凄い人だったってことか」
「私は凄くないですよ。優しくしてくれるみんなのおかげです」
「本当にそう思ってそうなのが怖いわね」
思ってそうというか、本当にそう思っている。
私1人だったら何もできないし、支えてくれるみんなのおかげでこの場所は成り立っているからね。
「……そろそろ本題に入っていいですか?」
「あっ、すみません。私に頼みたいことがあるんでしたよね? 一体なんでしょうか?」
「もう察してはいたと思うけど、漫画のこと。合作の漫画が完成したのもあるし、新しい画材ももらえないかなと思ってる。……だめ?」
可愛らしくお願いしてきたベルベットさん。
手伝ってくれたし、新しい画材はもちろんプレゼントするつもり。
というか、合作が完成していたのなら、手伝ってもらわなくても新しい画材をプレゼントしたんだけど……。
なんで先に言ってくれないの! ――ってなったら嫌だし、このことは伝えない方がいいか。
「もちろんプレゼントします。合作の漫画は読ませていただけるんですか?」
「佐藤、ありがとう! もちろん読ませるわよ。最高傑作といっていい出来に仕上がったから」
「ベルベットさんがそこまで言うのは珍しいですね」
「今回のは原作がローゼで、私が作画担当なの。2人で話し合って内容は決めたけど、ベースはローゼの原作だからね。今回は恥ずかしさが全然ない!」
「……私は相変わらず恥ずかしいです。面白くなくても笑わないでください」
「大丈夫よ。確実に面白いから」
いつもは恥ずかしそうにしているベルベットさんが、ローゼさんのことを励ましているという、少し不思議な光景。
これまで何を恥ずかしがっていたのか分からなかったけど、自分が考えたストーリーを読まれるのが恥ずかしかったってことなのかな?
「ベルベットさんがそこまで自信満々なのは初めてですね。今から読むのが楽しみです」
「量も結構あるから、じっくり読んでほしいわ」
「分かりました。部屋に持ち帰って、ゆっくり読ませていただきますね。画材に関しては帰りのタイミングで大丈夫ですか?」
「もちろん。いつでも大丈夫よ」
しっかりと確認を取ったあと、私は2人から新作の漫画を受け取った。
量が多いとは言っていたけど、本当に量が多い。
いつもの数倍の重さであり、今から読むのが楽しみ。
私はワクワクしながら、2人から受け取った漫画を抱えて部屋へと戻ったのだった。





