第362話 大接戦
ベルベットさんが持ってきたのは、去年に引き続きスイーツ。
色々な料理を食べてきて、締めにスイーツというのはテンションが上がってしまう。
出順も最高の中、私たちの前にはガトーショコラのような見た目のデザートが置かれた。
匂いは柑橘系の香りで、上にはたっぷりの蜜がかけられている。
ショコラではないのは間違いないと思うけど、何で作られているのかも分からない。
「待たせちゃったわね。今回もスイーツでいかせてもらうわ」
「締めのスイーツはありがたいです。それに……単純に美味しそうですね」
「抜群に美味しいと思うわ。クイーンニードルの蜜も使っているからね」
その言葉だけで期待大。
短時間でのスイーツ作りは困難を極めるため、ベルベットさん以外は挑戦していないのも、かなり大きなアドバンテージだと思う。
私は期待しながら、ベルベットさんの料理を口の中に入れた。
――うん、うまい!
見た目はかなり甘そうな感じだったけど、食べた感想としては程よい甘さのシフォンケーキといった感じ。
ケーキには柑橘系の爽やかな甘みはあるものの、基本的な甘みは上からかけられている蜜が大きい。
シンプルでありながらも、やはりスイーツは美味しいと思う一品。
これは……別ジャンルすぎて、みんなの評価が読めないなぁ。
「今年も美味しかったです。流石は前年度チャンピオンですね」
「ありがとう。去年の優勝が予想以上に嬉しかったから、今年は去年以上に頑張っちゃった」
「大会も盛り上がりましたし、本当にありがたいです。……それでは、ベルベットさんの点数を発表させて頂きますね。私は93点、ジョーさんは91点、ヤコブさん90点、レティシアさん100点、ノーマンさん92点。優勝者が決まりました。第2回大会の優勝者は……あれ? ちょっと計算し直させて頂きます」
優勝者が決まったと言っておきながら、発表しなかったため、会場の空気が一瞬冷えたのが分かった。
ただ、私の暗算が正しければ、シーラさんとベルベットさんの得点が一緒のはず。
ちゃんと紙に書き出し、しっかりと計算したけど……やはり同点。
同点だった場合の優勝者の決め方は、どちらが高い点数をつけた人が多かったかで決まる。
シーラさんには、私とジョーさんとヤコブさんとノーマンさん。
ベルベットさんには、レティシアさんだけ。
つまり、今大会の優勝者は……。
「合計点数が出ました。点数自体はシーラさんとベルベットさんが同点! 同点だった場合は、より大きい点数をつけた審査員が多いほうの勝利になりまして――第2回大会の優勝者はシーラさんになります!」
私の発表が遅れたせいで、一瞬会場が冷え切ったものの、1位が同点ということでドッと沸き直し、シーラさんの優勝で大きな拍手が送られた。
悲願の初優勝を果たしたシーラさんは呆然としており、惜しくも2位だったベルベットさんに称えられたことでようやく笑顔を溢らした。
「同点で優勝を逃したのは悔しい。……けど、負けるとしたらシーラだとも思ってたかな」
「ベルベット様、ありがとうございます。去年のリベンジを果たせて嬉しいです」
「言ってくれるわね。来年はまた優勝の座を返してもらうから」
「来年も良い勝負をしましょう」
従者と王女様。
そんな2人の関係性からは考えられないくらい、熱い握手を交わしている。
優勝を果たしたシーラさんには、後でいっぱい労うとして……。
最後の最後まで盛り上げてくれたベルベットさんには感謝しかない。
優勝を逃したのも、審査員の男女差が露呈した形だったからね。
悔しさも大きいはずなのに、シーラさんを称えてくれたのは器の大きさを感じる。
「シーラさん、改めておめでとうございます。念願の優勝ですね」
「はい! こういった大会での優勝は初めてなので、本当に嬉しいです!」
本当に嬉しそうにしているシーラさん。
そして、私が声をかけてからすぐに、優勝を労いに来た方たちに囲まれていった。
「ベルベットさんも惜しかったですね。唯一の女性であるレティシアさんからは、最高得点が出ていたんですけど……」
「うん。悔しい負けだったけど、後悔はないかな。シーラにも伝えた通り、来年リベンジするから絶対に開催してよね」
「はい。盛り上がりましたし、必ず開催します。なので、来年も参加してください」
「もちろん。あの優勝の喜びは一生忘れないしね」
ベルベットさんはそう言うと、笑顔で立ち去っていった。
今年もみんなが楽しんでくれた大会になって、心の底からホッとしたし、成長が見られたのが良かったな。
この世界の食材で美味しい料理を作るのが至難の業ということを私も知っているため、参加者には本当に感謝しかない。
後は……喜びまくっているヤトさんに声を掛けてから、明日の仮装パーティーの準備を行うことにしよう。





