第360話 男飯
再びくじ引きが行われ、B組の面々が決まった。
ミラグロスさん、ヤトさん、蓮さんというメンバー。
前回大会は優勝争いに絡めなかったミラグロスさんとヤトさんがおり、この2人には1年間の成長を期待したいところ。
そして、個人的にダークホースだと思っているのは蓮さん。
The男飯を作ってくれそうであり、かなり期待している。
私が蓮さんに注目している中、どうやら食材選びが終わった様子。
「ぬっはっは! 今回はわらわが優勝を頂くのじゃ!」
「私も負けない。……前回は悔しかったからね」
「俺も負けないぜ。シンプル・イズ・ベストを見せる」
各々意気込みを語ってから、調理が開始された。
魔族とドラゴンが開幕から変な調理を行う中、手際よく調理を行っているのは蓮さん。
料理を作ってきたというだけあって、迷いもないし手際も良い。
やはり期待しても良さそうだ。
手際の良さから、完成も一番早いとは思っていたけど……まさかの15分ほどで料理を持ってきた蓮さん。
お手軽な男飯という見た目。
「完成した。冷めないうちに食べてほしい」
「早速頂きます」
丼料理であり、この世界でお米代わりに使われている穀物の上には、春巻きの皮のようなもので肉を巻いて揚げた料理がこれでもかというほど乗っている。
そしてその肉には、ドロっとしたソースに赤い香辛料。
匂いも悪くないため、期待しながら一口食べたんだけどーー美味しい!
味はかなり濃いが、この濃さのおかげで美味しく感じられている。
辛味も思っている以上に強いけど、この辛味もあって食べる手が止まらない。
パリッとした皮もいいし、期待以上の美味しさ。
「蓮さん、美味しいです」
「佐藤さんにそう言ってもらえて良かった」
採点の前に高評価なのを悟られないよう、テンションを抑え気味で褒めたあと、私は点数をつけた。
「それでは採点の発表です。私が96点、ジョーさんが88点、ヤコブさんが95点、レティシアさんが80点、ノーマンさんが94点です」
「おお! 思っていたよりも高かったけど……どうなんだ?」
男性陣は基本的に高得点。
ジョーさんだけが伸び悩みはしたものの、高得点には変わりない点数だったんだけど、レティシアさんの点数が低かった。
濃い味付けだったし、レティシアさんの好みには合わなかったのは非常に納得のいく結果。
ただ、男性陣にはたまらない味付けだったし、これはレティシアさんを審査員に入れた意味があった、面白い結果だったと思う。
「できた。食べてほしい」
採点が終わると同時に、料理を完成させたのはミラグロスさん。
まだ20分過ぎくらいであり、ミラグロスさんもかなり早い完成。
出された料理は、一言で例えるなら奇抜。
オブラートに包まずに言うのであれば、不気味といった感じの料理。
「なんだか凄い見た目の料理ですね」
「見た目は派手だけど、美味しいと思う。私の街で一番の料理人に習ったから」
それはちょっと期待できるかもしれない。
見た目のせいで不安が大きかったけど、料理人のレシピということで、私は躊躇わずに大きく一口食べた。
ド派手な見た目に反し、非常に繊細な味付け。
濃かった蓮さんの後のせいで、味付けが薄く感じるものの……これまたなかなかに美味しい料理。
「おおー。色々な味を感じるのに、マッチしていて美味しいです」
「良かった。……練習してきた甲斐があった」
一つ惜しい点を挙げるとしたら、魚介のえぐみが若干強いこと。
薄味のせいでえぐみが際立っているように感じられるけど、まぁ美味しいのは間違いない。
「採点が出ました。私が89点、ジョーさんが91点、ヤコブさんが86点、レティシアさんが94点、ノーマンさんが91点です」
「だいぶ高い。……良かったぁ。とりあえず去年のリベンジは果たせた」
ホッと胸をなで下ろしたミラグロスさん。
濃い味の後の薄味のせいで、若干点数を落としてしまったけど、それでもかなりの高得点。
今大会は美味しい料理ばかりだし、去年よりも確実にレベルアップしている。
残りの出場者の料理にも期待が高まる中、B組の最後はヤトさん。
時間ギリギリまで調理をし、何とか滑り込みで完成させた。
冷や汗を拭いつつ、出してきた料理はミラグロスさん同様に奇抜な料理。
「できたのじゃ! これがわらわ特製のスーパー料理じゃ!」
「これまた奇抜な料理ですね。頂かせてもらいます」
「うぬ! 冷めないうちに食べるのじゃ!」
見た目の怖さはあるものの、匂いはかなり美味しそうなんだよなぁ。
前回のスパイス系の料理で高評価だったからか、香り的には今回もスパイスを使った料理だと思う。
期待をしつつ、一口食べてみると――うん、悪くない。
……いや、美味しいかもしれない。
辛味は気になるものの、カレー風の鍋みたいな感じで味は悪くない。
前回の苦味もないし、色々な味が混ざりすぎている感はあるけど、カレー風味のおかげで無理やりまとまっている感じがある。
「ヤトさん、美味しいですよ。去年よりも腕を上げましたね」
「佐藤、本当か!? ぬふふ、嬉しいのう!」
嬉しそうにしているヤトさんを見ながら、私は小皿に分けられた料理を完食。
採点はしっかりつけるけど、頑張りを感じることができて非常に嬉しい。
「それでは点数を発表させて頂きます。私は82点、ジョーさん82点、ヤコブさん88点、レティシアさん89点、ノーマンさん85点」
「ぬぬぬ!? そんなに高得点でいいんじゃなー!? 去年よりも高い点数を取れたのじゃー!」
現時点で優勝はないものの、大喜びしているヤトさん。
そんな姿に私もついニヤニヤしてしまう。
実際に美味しかったし、他の審査員も美味しいと思った故の高得点。
会場がほっこりとした空気で、B組の全採点が終わったのだった。





