第359話 運
出された焼き魚をほぐし、早速頂いてみることにした。
――おお、美味しい。
一瞬だけドブの香りが過ったけど、すぐに香草類がかき消してくれた。
味付けも素晴らしいし、一番手から非常に好印象。
「ルーチアさん、美味しいですよ」
「ほ、本当か!? 自信はあったんだが、美味しいと言ってもらえて良かった。なにせ、ここで食べる料理は美味しすぎるからな。美味しいの基準が、自分でもよく分からなくなっている」
「美味しいので自信を持ってください。この料理はダークエルフ族の伝統料理なのでしょうか?」
「いいや、私が考案した料理だ。臭すぎる魚の調理に困り、研究に研究を重ねて臭いを誤魔化すレシピを生み出した」
「ルーチアさん考案なんですか。ますます凄いですね」
「ふふん。そんなことはないさ」
ルーチアさんはあからさまに嬉しそうにしており、ルンルンで料理ができた経緯を語ってくれた。
一通り話をしたところで、そろそろ採点へと移らせてもらおう。
かなりハイレベルだったけど、一番手ということで点数が非常に難しい。
この後にディフェンディングチャンピオンが控えていることも考えると……。
「それでは点数を発表させて頂きます。私が90点、ジョーさんが88点、ヤコブさんが91点、レティシアさんが94点、ノーマンさんが90点ですね」
「んんー……? これは高得点ということでいいのか?」
「かなりの高得点だと思います。1番手ということで点数が若干伸び悩んだ印象はありますが、美味しい料理をありがとうございます」
「それなら良かった」
ルーチアさんが満足そうに戻っていく中、続いて料理を持ってきたのはローゼさんだった。
ちょっと渋い表情を見せており、その表情の渋さの理由を、私は料理を見てすぐに気づいた。
「……次は私。よろしくお願いします」
ローゼさんの料理も、これまた香草焼き。
魚ではなくお肉みたいだけど、淡白な感じの部位であり、似通ってしまっている可能性が高い。
エルフの国は森の中にあるって話だし、得意料理が香草焼きになってしまうのかもしれない。
思えば、前回大会も香草焼きだったもんね。
出順を可哀想に思いながらも、私はローゼさんの香草焼きを一口食べた。
うーん……美味しい。美味しいんだけど、ルーチアさんと非常に似た味付け。
臭いを誤魔化している感じまで似ており、これは魚が好きかお肉が好きかの好みの差になってしまう。
私は想像した味通りだったこともあり……。
「点数が出ました。私が89点、ジョーさんが89点、ヤコブさんが90点、レティシアさんが93点、ノーマンさんが90点です」
「……むぅ、悔しいです」
「これは出順が悪すぎたとしか言えませんね。ただ、今回も非常に美味しかったです」
「……またリベンジする」
分かりやすく、ルーチアさんよりも点数が若干低かった。
優勝候補のまさかの即敗退に、会場が少しだけどよめく。
会場が変な空気の中、最後に料理を完成させた唯さんが気まずそうに料理を持ってきた。
前者の2名と比べると、料理のクオリティが一段階落ちており、簡易的なものなことも相まって、居心地悪そうにしている。
「完成しました。……けど、変な空気すぎじゃないでしょうか? もっと緩い大会だと思っていたんですが!」
珍しく声を張り上げて抗議した唯さんに、思わず笑ってしまう。
これは確実に、唯さんも不運を被った側だ。
「すみません。いきなりローゼさんが不運の敗退ということもあって、変な空気になってしまいました。本当に緩い大会ですので大丈夫ですよ」
「本当ですか? 不味い料理を出したからって酷評されませんよね?」
「されません。……低い点数は出されると思いますが」
「それ、酷評と同義じゃないですか!」
そんな唯さんが作った料理は、お肉を卵で炒めたもの。
一工夫だけ施したスクランブルエッグのようであり、口には出さないけど、なぜこの料理で30分ギリギリになったのかはかなりの疑問。
そんなことを考えつつ、私は卵の炒りつけを口に入れた。
おおー、思っていたよりも悪くない。
クオリティの低い親子丼という感じであり、味付けは割と好み。
ただ、前の二人の料理と比べると、味の奥深さという点で劣ってしまっている。
「点数が出ました。私は78点、ジョーさん85点、ヤコブさんが88点、レティシアさんが88点、ノーマンさんが80点でした」
「あれ……。意外と点数が高かったです」
「正直、見た目はあれ?と思いましたが、美味しかったです。唯さん、ごちそうさまでした」
意外な高得点に、唯さんも嬉しそうにしてくれている。
高評価したと思っていた私が最低点数だったし、プロの料理人から見ても、美味しい料理だったのは少し意外な結果。
とりあえず、これでA組が終了。
ローゼさん敗退という意外な結果だったけど、いきなりの番狂わせがあって面白かった。
続く、B組の面々の料理にも期待したい。





