第358話 開幕
準備が整い、早速料理大会を開催することにした。
前回は場所がなかったため、仕方なく外で行ったけど、今回はイベントホールでの開催。
料理のしやすさだけでなく、衛生面でも環境にいいはず。
そんなことを考えていると、サムさんによって出場者の紹介が行われていった。
今回の出場者は、シーラさん、ローゼさん、ポーシャさん、ヤトさん、ミラグロスさん、ルーチアさん、美香さん、唯さん、蓮さん。
そして――。
「ディフェンディングチャンピオンのベルベット! みんな、大きな拍手をしてくれ!」
サムさんに紹介され、恥ずかしそうに出てきたベルベットさんを含む、10人によって争われる。
前回大会で心を折られた方がいた中、新たに参加してくれる方も増えた。
特に蓮さんの参加は意外だったんだけど、小さい頃からサッカーを習っていた関係もあって、両親が帰ってくる前にご飯を食べないといけないときが多々あったらしい。
そのため、自分で料理をしてご飯を食べていたようで、美香さんや唯さんよりも料理スキルが高い可能性があると話していた。
ダークホースとして私は蓮さんに注目しつつ、ヤトさんの成長ぶりにも期待。
前回の大会で好成績を残したおかげで、料理が好きになったって言っていたからね。
それからそれから、激しい優勝争いをしたシーラさんとローゼさん。
優勝したベルベットさんにも期待したいし……気になる方を挙げるだけでも楽しくなってくる。
「紹介も終わったし、ルール説明をさせてもらう。制限時間30分以内に料理を完成させること。完成した料理を審査員の5名に採点をしてもらい、1番得点の高かった者が優勝ということになる。3組に分かれて料理を作ってもらうから、この後のくじ引きにて組分けさせてもらうぞ。料理は完成した方から食べてもらうことができるため、出順はしっかりと考えるのが高得点の秘訣だ」
前回大会とルールは変わらないし、分かりやすいルールということもあって、みんなも理解してくれている。
本当は決勝ラウンドをやることも考えたんだけど、さすがにお腹的に難しいからね。
来年は日を分けて決勝ラウンドを行っても面白いかもしれない。
「そして、栄えある優勝者には佐藤さんからプレゼントがある。それから、優勝した料理は王都で限定的にだが販売され、その売り上げ金を受け取ることができる。遊びの大会ではあるが、本気で優勝を狙いに来てほしい」
「おおー! 優勝したら、わらわの料理が王都で販売されるのかのう! 気合いが入るのじゃ!」
「恥ずかしさもありますが、嬉しい優勝商品ですね」
「私は佐藤のプレゼントが気になるかも! 絶対に優勝しよ!」
優勝商品の内容を聞いて、俄然やる気を出してくれたみんな。
王都での販売はリスクが大きいし、あまり売れなかったときに優勝者なのに変な気持ちにさせないか心配だったけど……前回大会のクオリティなら、まず間違いなく売れるからね。
この世界の食材しか使えないという制限もあるし、大量生産にも向いている。
売れ行きによっては、継続販売もありえると私は思っている。
私がそんな先のことを考えていると、どうやら組分けが決まった模様。
1番手で料理を行ってもらうA組は、ローゼさん、ルーチアさん、唯さん。
早速A組の方々が食材の前に立ち、吟味し始めている。
何を作るかは事前に決めてあるだろうから、今は食材選びに力を注いでいるんだと思う。
私はあまり意識したことがなかったけど、同じ食材でも鮮度ひとつで味が大きく左右するみたいだからね。
そんな中、1番最初に食材を選び終えたのは唯さんだった。
かなり適当に選んでいる感じもありながらも、かなりの食材を抱え込んでいる。
それから数分ほどしてから、ローゼさんとルーチアさんも選び終えたみたい。
「それではA組の調理開始!」
サムさんの合図で一斉に調理が開始された。
1番手際が良いのは、意外にもルーチアさん。
剣で刃物の扱いに慣れているのが大きいのか、包丁さばきが非常に上手。
ただ、料理自体はローゼさんが安定しており、1番ぎこちないのは唯さん。
性格から考えると唯さんが1番料理が上手そうに思えるけど……まだ10代だしね。
異世界に来るまではお菓子くらいしか作ったことがなかったとのことだし、料理歴に差を感じる出だし。
ただ、料理で1番大事なのはレシピ。
素人でも、美味しいレシピ通りに作れば、美味しい料理を作れることは私がよく知っている。
まぁ、そのレシピにおいても有利に働くのはローゼさんとルーチアさんだと思うけど。
使用できるのは、この世界の食材だけだからね。
みんなの調理工程を見ながら、色々と考えていると……早くもルーチアさんは仕上げに入っている。
まだ20分経っていないくらいだけど、どうやら完成間近みたいだ。
「……よし、完成した。ローゼ様、お先に失礼致します」
ローゼさんに一言伝えてから、完成した料理を提出したルーチアさん。
見た目が色鮮やかな、魚を使った料理のようだ。
匂いは抜群に美味しそうで、異世界の食材特有の嫌な臭いを、色鮮やかな香草やお花で消しているみたい。
焼いてあるとはいえ、海鮮系は少し怖さもあったんだけど……これは1番手から期待ができる料理だ。





