第345話 大満足
私の胃もたれ事情は置いておいて、揚げ物が最高に美味しいことは間違いない。
感動して唐揚げをたくさん食べてくれているクリスさんに、私は微笑ましい気持ちになりつつも、あまり食べすぎないように止める。
「クリスさん、唐揚げ以外も食べてみませんか? お腹いっぱいになってしまいますよ」
「これで満腹になれるなら本望なんだけど、確かにせっかくなら他のも食べた方がいいわね」
「そちらの白いやつや、茶色いお肉はおすすめです」
「白いやつ? 妙にとろーりとしているのね」
クリスさんは私が勧めたグラタンに興味を示すと、小皿に取り分けて早速パクリ。
こちらも気に入ってくれたようで、またしても目を見開いている。
「――これも美味しい! クオリティが高い料理ばかり。これが異世界の料理なの?」
「食材も異世界のものを使っているので、完全な異世界の料理ですね。全部美味しいと思ってもらえるはずですよ」
「流石に気になってきた」
クリスさんは腕まくりをすると、グラタン、ハンバーグ、フライドポテト、チョレギサラダ、餃子、焼き鳥と、並んでいる料理を片っ端から食べ始めた。
細身だし、食は細いのかと思ったけど、その食べっぷりはシーラさんにも勝るとも劣らない。
「……はぁー、幸せ。こんな料理を毎日食べているの? 私が移り住みたいぐらいだわ」
「流石に毎日は出していませんが、月に2回ほどは出していますね」
+αでイベントがあった際の食事会もあるから、毎週1回ぐらいは食べることができる計算になるかもしれない。
軽食なら割と頻繁に地球の料理を作るし、移り住めばかなりの確率でありつくことはできる。
「うちが一番驚いたんは食事やったなぁ。いなり寿司に出会えて、生きてて良かったって思えるくらいやし」
「私は全ての料理ね。これまではあまり食に興味がなかったのだけど、これを機に目覚めてしまいそうで怖いわ」
そう言いながらも、食べる手を止めないクリスさん。
更にもうワンプッシュしたところで、ようやく限界を迎えた様子。
「もう何も食べられない。娯楽に食事。天国みたいな場所ね」
「すみません。言い忘れていたんですが……デザートがあるんですが、食べられますか?」
「むむむ……。い、頂くわ!」
お腹を擦りながら躊躇はしていたんだけど、すぐに食べる決断を取った。
あまりにも幸せそうに食べていたため、デザートがあることを伝えるのが遅れてしまって申し訳ない。
「それでは、もう少し時間が経ってからお出ししますね。今日は泊まりになるんですもんね?」
「ええ。佐藤がいいと言うなら、泊めさせてもらうつもりだったわ」
「もちろん大丈夫ですよ。こんなに暗くては帰るのも大変でしょうしね。それでは、ひと休みしてからデザートをお出しします」
一度解散とし、後片付けを行ってから再集合をかけることにした。
例によって、クリスさんは漫画を読んでいたようだけど、料理のおいしさを知ったからか、再集合には渋らずにやってきてくれた。
「そろそろデザートを、と思ったのですが……お腹の方はいかがですか?」
「まだ全然お腹いっぱいだけど、デザートなら食べられるぐらいには減ったわ。一体どんなデザートを食べられるのか、本当に楽しみ」
クリスさんはこれまで見たことがないほど、ウキウキした表情を見せてくれている。
女性が甘い物に目がないというのは、この世界でも共通みたいだね。
「それでは持ってきますので待っていてください」
私は台所に戻り、先ほど作ったシュークリームを持ってきた。
作ったといっても、一番重要な皮の部分はノーマンさんが焼いてくれ、私は中にクリームとカスタードを詰めただけだけどね。
「お待たせしました。シュークリームというデザートになります」
「……ん? なんだかデザートっぽくない見た目ね。リング状みたいな見た目」
「私も見たことがないです! これは新しいデザートですか!?」
クリスさんをもてなす会と分かっていたからか、今日は黙々とご飯を食べていたシーラさんだったけど、初めて見るシュークリームを前にして飛び出してきた。
「はい。外の生地が良いアクセントになって、美味しいはずです」
「楽しみです! 早速食べていいですか?」
そう尋ねてきたものの、返答を待たずにシュークリームに手を伸ばし、そのままパクリと頬張った。
「――んんー! これは新しいです! 美味しいー!」
「……ごく。そんなに美味しいの?」
「本当に美味しいですよ! クリスさんも食べてみてください!」
「なら、頂かせてもらうわ。……甘い! ――美味しい! やっぱり異世界の料理はおかしい!」
恐る恐る食べた一口からすぐに、大きく頬張りながら叫んだクリスさん。
自信はあったけど、気に入ってくれて良かった。
「一人三個まで用意しましたので、食べられるならどうぞ」
「もちろん頂くわ!」
「私も頂きます!」
2人は競い合うようにシュークリームを食べ、あっという間に完食してしまった。
食べ終わった後のこの満足げな表情を見るに、おもてなしは大成功といえる結果だったと思う。