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閑話 美香視点


 お兄ちゃんの影響で漫画やアニメは結構見ていたこともあり、私の中の勇者像はキラキラと輝かしいものだった。

 ただ……実際の勇者は、キツい、汚い、危険の超絶3Kの世界。


 もちろん辛いことだけじゃなく、物語の主人公みたいに最初から強い能力を手にしていたし、強いからこそ魔物との戦いも楽しくはある。

 ただ、とにかく地味で辛いのだ。


 まだ転生したばかりで、戦いに慣れないといけないからというのは分かってる。

 でも、ダンジョンに潜りっぱなしは本当にしんどい。


 ルーラとかリレミトみたいな即時脱出ができる訳じゃないから、一度ダンジョンに潜ってしまったら基本的に3日はダンジョンの中に居っぱなし。

 その間は、当然ながらお風呂にだって入れないのだ。


 自室に籠もって3日間お風呂に入れないならまだ耐えられるだろうけど、ダンジョンは地下にあるから常に埃っぽいし、魔物からの攻撃を食らったり避けたりする際に汚れる。

 当然、汗も大量にかく中、3日間お風呂に入れないというのは……結構大雑把な私でも辛すぎる日々だった。


 それでも勇者として優遇されている以上、頑張っていたんだけど……ダンジョン内でお腹を崩したことで、我慢の糸がプッツリと切れてしまった。

 みんなの目を盗んで途中で逃げ出し、行き先もないのに無我夢中で逃げ続けた。


 そんな中私が辿り着いたのは――風の噂で田舎に住んでいると聞いた、私達と一緒に転移してきたおじさんのところだった。

 本当は私達よりも酷い状態にあるおじさんに助けを求めたくなかったけど、ここ以外に行く場所がなかったのだ。


 申し訳ない気持ちになりながら、家の前をウロウロしていると……王城でおじさんの隣にいた従者が私に気づいて家に招き入れてくれた。

 それからすぐにおじさんも来てくれ、何があったのかを事細かに説明。

 追い出されてもおかしくないと思っていたんだけど、おじさんは急に訪ねてきた私を笑顔で受け入れてくれた。


「美香さん、私はすぐそこの畑で仕事をしていますので何かあったら呼んでください」


 落ち込んでいる私を一人にしようと、おじさんは気を使ってくれたと思うんだけど……畑という言葉に引っかかった。

 ここは田舎だし、食べるものを買うことができないから何か作物を育てているんだと思う。


 とにかくこの世界のご飯は美味しくないし、戦闘やダンジョン以外でもご飯が不味いせいで萎えた要因の一つ。

 ただ、一緒に日本から来たおじさんの作っているものなら美味しいかもしれない。

 そんな期待が膨らみ、無意識のうちにテンションが上がってしまう。


「畑……? 何か育ててるの?」

「クラックドラフ、ブラウンターン等のこの世界の野菜と、後は少量ではありますがトマトを育てています」

「――と、トマト!? トマトってあのトマト?」

「はい。美香さんが想像しているトマトだと思います」

「食べたい! お願い、食べさせて!」


 おじさんはまさかのトマトを育てているとのこと。

 これは絶対に何がなんでも食べたい!

 おじさんにとっても貴重なトマトだろうし、私は無理を承知でお願いしたんだけど……。 


「もちろん構いません。一緒に来ますか?」

「おじさん、ありがとう! 一緒に行く!」


 二つ返事で了承してくれたおじさん。

 私達以上に悲惨な状況だし、顔も幸が薄そうとか思っていてごめんなさい。

 心の中で謝罪をしつつ、私はおじさんの後を追って畑へと向かった。


 早朝はまだ暗くて見えなかったんだけど、おじさんの住んでいる家の前の平原は確かに畑があり、そんな畑の中心には日に照らされて真っ赤に輝いているトマトが見えた。

 生のトマトは好きでも嫌いでもなかったんだけど、今の私にとってはルビーよりも光り輝いて見える。


「本当にトマトだ! ……食べてもいい?」

「ええ。食べていいですよ」

「おじさん、本当にありがとう。いただきます!」


 許可を貰えたことで、しっかりとお礼を伝えてからトマトを捥ぎ取り、本能に赴くままかぶりついた。

 ――うんまい! 変な臭みとか苦味がない新鮮なトマトの味。

 

 まさかトマトを食べて感動する日が来るとは、日本にいた頃は考えたこともなかった。

 私はつい溢れてしまった涙を拭きながら、とにかくトマトにかぶりついていく。


 結局、計4つものトマトを食べてしまったんだけど、おじさんは怒るどころか笑顔で見守ってくれていた。

 急に押しかけてきた私を受け入れてくれた時……いや、この世界に転移した初日にまず私達のことを気にかけてくれた時から分かっていたけど、このおじさんは本当に優しい。


 逃げた私を受け入れてくれる人がいるという事実だけで、今朝までは落ち込み切っていた気持ちがスッと楽になっていくのが分かる。

 助けてくれたおじさんのため、私もなにかできることをしたい。

 そんな衝動に駆られ、周囲を見てみると……畑にスライムが侵入しているのが見えた。


「私もお礼に何かしたいな。……あっ、スライムが入り込んでる! とりあえずあれを討伐――」

「駄目です! あのスライムは私の従魔なので」

「従……魔? おじさんのペットってこと?」

「そういうことになりますね。懐いてくれていますので可愛いですよ」

「トマトの栽培にスライムをペットにしているって……一体何者?」

「ただの異世界転生に巻き込まれた一般人ですよ」


 お礼にスライムを討伐しようと思ったんだけど、どうやらあのスライムはおじさんのペットらしい。

 話を聞いた限りでは、おじさんは何の能力も得られなかった巻き込まれ一般人だったはずだけど……明らかに異質なのが分かる。


 それにしても、あのスライムは悪いスライムじゃないのか。

 この世界に来てから、魔物は全て敵って認識だったけど、襲ってこないスライムを見ると少し可愛く思えてくる。

 

 それからおじさんがライムを触らせてくれ、ぷるぷるでひんやりとしたライムに抱き着いたりして戯れた。

 ……うん。やっぱりかなり可愛いかもしれない。


「ねね、色々あげてみていい?」

「ええ。ライムが嫌がらなければ大丈夫ですよ」


 許可を貰えたことだし、ライムに色々とあげてみよう。

 おじさんは農作業に戻り、私は鞄の中に入っていたものを適当にライムにあげてみることにした。


 本当に何でも食べることができるようで、あげるもの全てを綺麗にペロリと平らげていった。

 食べている様子も癖になるし、私もスライムを飼いたいなぁなんて思っていると……ライムの体が急に光り出した。


「ねぇおじさん! ライムが変になっちゃった!」


 私はすぐにおじさんを呼んで一緒にライムを見守っていると、すぐに光り自体は収まった。

 ただ、ライムの色が黒っぽくなってしまい、真ん中にある核の部分も変形してしまっている。


 原因はおじさんでも分からないようで、とりあえず物をあげるのを禁止されてしまった。

 そんなことを知らないライムは、ねだるように私の足にくっついてきたんだけど……甘えられても流石にもうあげられない。

 謝りつつ、私はライムと別の遊びをすることに決めたのだった。



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