第324話 秋の始まり
夏が終わり、秋がやってきた。
今年は例年に比べて暑い日が多かったため、秋の過ごしやすい気候は非常に嬉しい。
まあ暑い日といっても30度前後で、異常な猛暑が続いていた日本の夏の涼しい日くらいの気温なんだけどね。
便利さでいったら圧倒的に日本の方が上だけど、この世界は自然が多く残っていることもあってか、異常気象が少ないのは大きなメリットだ。
それでいて私に至っては、NPを使って地球のものを購入できる。
高額ではあるけど、良いところどりができるというのは恵まれすぎていると常々思う。
暑すぎた日本の夏を思い出し、今の環境に感謝しながら伸びをしていると、部屋の扉がノックされた。
「佐藤さん、朝食の準備ができました」
どうやらシーラさんが起こしに来てくれたようだ。
私はすぐに返事をし、みんなで朝食を囲む。
ひと時の幸せを感じながら食べ進めるうちに、目も覚めていく。
日本にいた頃は、まともに朝食を食べていたのは学生の時だけだったため、朝食の重要性をいまいち理解できていなかった。
朝食を終えた後はすぐに畑へ出て、種や苗を植える。
人も増えてきたし、そろそろスキルの畑を大きくしたいところだけど、畑を拡張するための消費NPが大きくなっているからね。
畑を拡張するのは来春まで取っておき、購入した種を植えていく。
植えるのはいつもと同じで、スキルの畑にはNP変換用の異世界作物。
普通の畑には地球の作物と、売却用の異世界作物を植える。
人手が増えたこともあり、単純に作業速度が上がったため、午前中にはすべての畑に種と苗を植え終えることができた。
ここからはモージとヘレナの出番で、水属性魔法で一気に水を撒いてもらう。
普通の畑も広くしたこともあるし、もう1人くらい水撒き係を用意してもいいと思っているんだけど……モージもヘレナもいらないって言うんだよなぁ。
私たちの作業速度が上がっているように、毎日魔法で広い畑に水を撒いているためか、モージとヘレナの魔法の練度も上がっているようだ。
ヘレナに至っては、他の作業をしながら水撒きができるようになっているし、模擬戦大会でシャノンさんに負けて以来、何だかどんどん凄みが増している気がする。
シーラさん曰く、ゲームの時間を減らして魔法の特訓をしているようで、魔法での勝負に負けたのが相当悔しかったみたい。
といっても、毎日2時間くらいはゲームをしているんだけどね。
全体のバランスを見て、どこか補強すべき部分があるかを確認していたけど、今のところ人手は足りているようだ。
初秋の従魔購入は不要だと分かったところで、私は別荘へ戻った。
今日はこれから、エレックとトリックの電撃を貯められるかどうかを試す予定。
ヘレナが戻ってきたのが昨日だったこともあり、今日まで試せていなかったからだ。
もし貯められるなら、今日から毎日貯めていきたい。
一発の電撃で貯まる電力はたかが知れていると思うし、供給源として機能し始めるのはエレックとトリックの子どもたちが生まれてからになるだろうけど、塵も積もれば山となる。
電気は必ず必要になるため、しっかり貯めておきたい。
ということで、ヘレナに協力してもらい、エレックとトリックに電撃を放ってもらうことにした。
「マスター、電撃を放ちそうですよ」
「大丈夫です。避雷針のようになっているみたいなので、そのまま電撃を放たせてください」
前回と同じように、争うようにヘレナの下へ駆け寄りながら電撃を放った。
放たれた電撃は二本の針のような装置へ向かい、ロッゾさんお手製の装置に貯め込まれた。
電気を示すメーターの針もごく僅かに動き、電撃が装置に蓄えられたことを示している。
「おお! 電撃を無事に貯められました」
「マスター、本当ですか? 見た目ではよく分かりませんでしたが……ロッゾさんって本当に凄い方なのですね」
「とんでもなく凄い方ですよ。あとで改めてお礼を言いに行かないといけません」
「それでですが、私は毎日エレックとトリックに会いに来た方がいいのでしょうか?」
「申し訳ありませんが、そうしていただけますか? 代わりといったらなんですが、掃除当番は私が代わりますので」
「エレックとトリックは可愛いので、もちろん構いません。掃除当番も変わらずやらせていただきます」
「いえ、毎日の仕事を増やしてしまったので、掃除当番は私が代わります」
そこから、私とヘレナによる引き受け合いが始まったんだけど、最終的に私が押し切って掃除当番を引き受けることに決まった。
その代わりに、エレックとトリックのお世話は毎日ヘレナがすることになり、これで役割分担は決定。
ヘレナもエレックとトリックのことが好きなのは良かった。
明日からは毎日電撃を貯めてもらいつつ、二匹の子どもを拝めたら嬉しい。
ただ、エレックとトリックがオスとメスなのかはまだ分からないんだよね。
まあ同性だった場合は仲良く暮らしてもらい、近いうちに新しいエレクトリックマウスを購入しに行くつもり。
クリスさんとは、買い物とは関係なく話したいことが山積みでもあるしね。
私はそんなことを考えながら、エレックとトリックがひたすらヘレナに甘えているのを、微笑ましく眺めていたのだった。